ラルドの作戦
「ラルド様、伝えておきましたよ」
勇者と戦った男、カイルはラルドに報告する。
「おお、ご苦労だったな。で? なにか言っていたか?」
「そうか。とだけ」
「ふん。小娘の分際で生意気な」
ラルドはグラスにワインを注ぐと一気に呷る。
「勇者はどうだった?」
「思ったほどではありませんでしたね」
カイルは上半身のスーツを脱ぐと、綺麗な身体を見せる。
「ふむ。さすがにお前の鎧は破れなかったか」
「しかし、力はありました。魔王と互角にやりあったのも頷けますね」
「ハッハッハ! 所詮は小娘よ!」
「では、予定通り?」
「当然だ。準備しておけ」
「はっ」
カイルはラルドの家を出てしばらく歩くと、立ち止まり力を抜く。
「……っ!」
上半身のスーツを脱ぐと、肩と脇腹に深い傷跡があった。
「まさか、これ程とは……。魔王様はやはり素晴らしい」
勇者ほどの実力者相手に互角。噂によると逆転勝ちもあり得たと聞いていたカイルは、身を以て勇者の強さを理解した。
「フフフ、貴方なら信用できそうだ。勇者様」
* * *
「カイル?」
「ああ。青スーツの男だったのだろう?」
アシルがいない夜に、昼間の魔族について二人は勇者の部屋で話していた。
「そうそう」
「カイル・ネグラティル。魔族で一匹狼というのも妙な言い方ではあるが、どこにも属さず誰の味方でもない。そういう奴だ」
「魔族にも変なやつはいるんだな」
「それで、カイルはなんと言っておったのだ?」
「ラルドが不穏な動きをしているから、気をつけてくれって」
「ラルド……。あやつか」
「どんなやつだ?」
「余と同じく魔王候補だった男だ」
「魔王候補!?」
「といっても選抜で落ちたが。そういえば執念深いと聞いたことがある」
「ひょっとして、ルーシーを倒して自分が魔王になろうとか?」
「あり得るな。自分が選抜に落ちたことに随分と腹を立て、納得がいってないようだったからな」
ルーシーは紅茶を飲むと、「奴なら……」と呟く。
「なんだ?」
「ラルドであれば、アリストリアに攻め入るやもな」
「なんでアリストリアに? 目的は魔王――ルーシーなんだろ?」
「陽動作戦だ」
「そうか、12人の魔法使いを遠ざけるために」
「しかし、確証はない。カイルからの報告だけでは、まだ動けぬ」
「どうする?」
「しばし様子を見るしかないな。それと、アシルを遠ざける必要がある」
「そうだな。……どんな言い訳考えるかな」
「そんなもの、王命で呼び戻せばいい」
「いや王命をそんな気軽に使うなよ」
「あの国王であれば、事情を話せばやってくれるだろう」
「ていうか、ルーシーはこの機会を利用しなくていいのかよ」
「利用?」
「魔族側に戻るチャンスだろ?」
「なんだ、勇者は戻って欲しいのか?」
「えっ、いや、それは……」
「どうなのだ? んー?」
小悪魔のように迫るルーシーに、勇者は「うっさい!」と逃げる。
「お前がいるから俺はスローライフが満喫できるんだ! だから、戻るな! ずっとここに居ろ!」
「勇者よ、人類はそれを愛と呼ぶんだぞ?」
「やかましい!!」
勇者の滑稽な姿に笑うルーシーだったが、ふと冷静になる。
「……だが、考えてみれば勇者の言ったことも当たっておるやも知れぬな」
「え? なんか言ったか?」
「余が魔族側に戻らないのか? という話だ」
「どういうことだよ。戻りたいのか?」
「そうではない。ラルドがアリストリアに攻め入って余を奇襲したとする。見事暗殺に成功したラルドだが、どうやってそれを証明する?」
「……そうか。魔王を倒したのがラルドだという証拠はない」
「そうだ。それを証明する方法はただ一つ」
「……ルーシーを魔族の国に連れ帰って処刑する」
「それならば、誰もが認めざるを得まい」
「でも、現魔王を倒して魔王になるなんて、ありなのか?」
「通常ではあり得ぬ。しかし、魔王が裏切ったとしたらどうだ?」
「そうか! 人類側へ寝返った裏切り者を連れ帰って目の前で処刑する。そうすれば他の魔族の支持も得られるのか!」
「だがこんな作戦、ラルドに考えられるとは思えん。どうやら参謀として知恵を貸してる何者かが背後におるようだな」
「まさか、カイルが?」
「いや、こんな作戦は奴になんの見返りもあるまい。別にいるな」
かといって、勇者はほとんど魔族を知らず、ルーシーにも思い当たる人物はいなかった。
「こうして考えていても埒が明かなぬ。今夜はもう寝よう」
「そうだな」
ルーシーは去り際、「寂しくはないか? 一緒に寝てやろうか?」と挑発する。勇者は枕攻撃をするがルーシーはドアを閉じて難なく防いだのであった。
「……ラルドか」
伊達に魔王候補に選ばれた訳ではなく、魔族の中でも上位に位置する危険な男である。そんな男がカイルを使い周到に準備をしているのだしたら……。
ルーシーは勇者の部屋のドアにそっと触れる。
「安心しろ、アーヴは余が守る」
小声でそう言うと、ルーシーはベッドに潜る。そして珍しく夢を見た。
ルーシーがラルドに捕まり、殺されそうになったところを勇者が助けてくれる。そんなロマンチックな夢を見たルーシーは、勇者への想いを強くしたのだった――。
To be continued→
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