恥ずかしい勇者
「今日で第一回の魔法講座は終わりだ!」
「先生ありがとうございました!」
「うむ。魔法使いとして認められる中級は、上級とまでは言わぬが狭き門だ。だが、余の魔法講座は中級に十分通用するものとなっている。皆の合格を祈る!」
「「はい!!」」
こうして、アシルの一言から始まったルーシーの魔法講座。その記念すべき第一回目はひと月の講義を全て終えた。
「お疲れルーシー」
受講生が帰ると、勇者はフレンチトーストを持ってくる。
「おお!!」
好物のフレンチトーストを食べる。と、違和感を覚えた。
「これは……勇者のフレンチトーストか?」
「はは、やっぱり分かるか。アシルに教わって少しはレベルアップしたんだけどな」
「うむ。確かにレベルアップしておる。以前の手抜きフレンチトーストよりも格段に美味くなっておるぞ」
「え? ……じゃあ、なんで俺が作ったって分かるんだ?」
「ん? 勇者の作るフレンチトーストは、なんというか、安心する味なのだ」
「安心? おふくろの味みたいな?」
「おふくろの味とはなんだ?」
「母親が作ってくれるような味ってことだ」
「母親……。余からすると先代魔王か。ふーむ、イメージできぬのぉ」
「え? 先代魔王ってルーシーの母親だったのか?」
「いや、そうではない。新たな魔王を決める頃になると魔族は生まれてすぐに選別される。その中から数十名が選ばれて英才教育を受け、ある程度まで育ったら選抜試験が行われる。そうやって選ばれた一名のみが魔王となれるのだ」
なぜルーシーがこれほどまでに博識で強いのか。話を聞いた勇者は納得した。
「じゃあ、親を知らないのか」
「うむ。生みの親は知らぬな。余にとっては先代魔王が母親代わりだったからな」
「魔王は女性が多いのか?」
「そうでもない。というか先代が史上初の女だったな」
「魔族の世界も男が強いのか」
「強いというか、魔王の継承制度の問題だったのだ」
「制度の?」
「魔王は男が継承しなくてはならない。という制度があったのだ」
「なんでそんなものが?」
「さあ? 誰がなんの目的で制定したのかは不明だ。が、それを不服とする者が特にいなかったために魔王は代々男だったわけだ」
「で、先代魔王が不服としたわけか」
「うむ。そんな意味のない訳わからん制度は即刻廃止しろとな」
「先々代に廃止させたのか?」
「ああ。実力で分からせてやったと言っておったな」
「実力で……」
どこの世界でも女性は強い。それは魔族でも変わらないようである。
フレンチトーストを食べ終えたルーシーは魔法講座に使った椅子や黒板などを片付ける。
「そういや、予約でいっぱいになったと言ってたが、隔週なら大して忙しくないんじゃないか?」
「勇者は報告書を見ておらんのか?」
「ああ。あまり介入はしないようにと思って」
「それではモテんぞ」
「うっさいわ!」
「希望者が多過ぎるのでな、週3回やることになったのだ」
「3回か、それはまた受講生も大変だな」
「なにを勘違いしておる?」
「え?」
「第二期生、第三期生、第四期生をそれぞれ面倒見るのだ」
「……つまり、同じ講義を週3回やるのか?」
「そういうことだ」
「ちょっと待て、来年まで予約が埋まってるっていうのは、その体制でか!?」
「そうだ。だから言ったであろう、今は魔法講座で手一杯だとな」
「あ、ああ……」
昨夜、勇者はふて寝したあとルーシーの話を無言で聞いていた。勇者の気持ちは分からないが、今の生活が気に入っていること。
そして、勇者の隣が心地良いということ。
「それで、勇者はどうするのだ?」
「どうって?」
「客員教授の件だ。特にアイデアが無かったら断ってもいいが」
「……いや、なんとか考えてみる」
そう言って外に出る勇者を見て、ルーシーは笑みを浮かべた。
外に出た勇者は、しかしこれといってアイデアは浮かばないままに散歩する。
「ルーシー……」
魔王を少女と認識してしまってから、勇者はルーシーのことを魔王と思えなくなっていた。倒すべき標的のはずが、守りたいと思うようになった。
恐らくは12人の魔法使いから国王へも報告が入ってることだろう。勇者はここ最近、自分の身の振り方を考えなければと思うようになっていた。
「……誰だ?」
散歩していると何者かの気配を察知する。
「貴様が勇者か」
「――! 魔族か」
構える勇者に、青いスーツ姿の魔族の男は手で制す。
「私は戦いに来たのではない」
「なんだと? 魔王を連れ戻しに来たんじゃないのか?」
「そうだな、魔王様が勇者に拉致されたと聞いた時はすぐに追いかけて殺してやろうと思ったのだが、魔王様が来なくていいと仰られたのでな」
「魔王が?」
「なにかお考えあってのことだろう。それに勇者は80年もすれば朽ちるであろうし、それならば私共は待っていればよい」
「なら、なんでここに来た?」
「一つ、魔王様に報告を」
「報告?」
「はい。ラルドという魔族の実力者が不穏な動きをしていると報告が入りました、と。お伝え願います」
「魔王に直接言えばいいだろう」
「いえ、魔王様には来るなと言われている身なので」
「なるほどな。分かった。伝えておく」
「……」
「どうした?」
「気が変わりました。一つお手合わせ願えますか?」
「結局そうなるのかよ。いいぜ、来いよ」
瞬間、魔族の男は勇者の眼前に迫る。
「速ぇ――!」
顔への攻撃を、上半身を反らすことで紙一重で躱し、身体を捻って一太刀浴びせる。
「ほう」
無理な体勢から有効な一撃を放つ勇者に、魔族の男は感心しながら一歩引いて右腕を前に突き出すと、魔族言語による魔法陣が展開される。
「アヴグレルド」
「魔術か!」
勇者は防御スキルを発動させる。魔術による黒い光線が勇者を集中砲火するが、光の防御により勇者は無傷であった。
「……ふむ」
「今度はこっちの番だ!」
勇者はスキルを発動させると剣を構える。
「死んでも文句言うなよ」
「ええ、もちろん」
「ハウンズ・ファング!!」
技を放つと、魔族の男は正面からそれを受けた。地面が抉れるほどの強力な技だったが、魔族の男は涼しい顔で立っていた。
「へっ、やるじゃねえか」
「貴方も、なかなかのものです」
「なら、次行くぜっ!!」
と、気合を入れた勇者だったが、「なにをしておる」とルーシーの声が聞こえてズッコケた。
「る、ルーシー!? なんでここに!?」
「勇者はアホか? 家から大して離れていない所でド派手に戦いおって、眠ってても分かるぞ」
「いや、アイツがお手合わせ願うって言うから!」
「アイツ……? 誰だ?」
「は?」
勇者が振り向くと、さっきまでいた魔族の男は忽然と姿を消していた。
「どこ行きやがったあの野郎!!」
「……勇者よ、寂しいからといって妄想の相手を」
「してねえわ!! なんだ寂しいからって! お前がいて寂しいわけあるか!」
「ほう?」
「……っ!?」
なんとも恥ずかしい発言をしたことに気づいた勇者は顔を真っ赤にする。
「安心しろ、勇者と余は離れたくとも離れられぬ運命。寂しくなどさせぬよ」
「うっ、うっさい! 帰るぞ!」
恥ずかしさで俯き歩く勇者の後ろを、ルーシーはニヤニヤしながら付いて行くのであった。
To be continued→
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