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勇者は働きたくない!!  作者: そらり@月宮悠人


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幼馴染み

「せんせー! さよならー!」

「うむ。またな!」


 魔法講座の初日を終えて、ルーシーはため息を一つ吐く。

 

「どうした? ため息なんて珍しい」

「ああ。勇者は優秀な生徒だったのだなと思ってな」

「俺が?」

「同じ人間でこうも差があるとは思わなかったぞ」

「あー、個人差のことか。募集にあたって経験者とかの条件は付けなかったからな」

「それは構わん。学びたいという思いさえあればな」

「なんか、コスプレから始まって本当の教師みたいになったな」

「はじめは仕方なく勇者に教えたことがキッカケであったが、教えるというのが意外と面白くてな」

「意外な才能だよな」


 今思えば国王の策略を分かりやすく勇者に教えたことで片鱗は見えていたのだが、それが勇者に魔法を教えることで開花したようだった。


「意外と言えば、子が多かったな」

「魔法を学びたい子、学ばせたいと思う親は多いが、貧困層にとって私塾は高いから通えないんだよ」


 おやつにフレンチトーストを持ってきたアシルは言う。


「ぬ? 魔法大国なのにか?」

「他国に比べれば魔法の教育水準は高い。だが、魔法使いと認められる中級に合格するには通常教育だけじゃ足りないんだよ。だから魔法使いになるためには実質的に私塾へ通うのが必須なのさ」

「そうなのか……。それにしてもアシルは詳しいのぉ。魔法使いを目指していたのか?」

「いや、俺じゃない。幼馴染みだよ」

「幼馴染み? なんだそれは?」

「なんだ、博識のルーシー嬢が幼馴染みを知らないのか?」

「うむ。余の周りにはいなかったからな」

「そうなのか。幼馴染みってのは子どもの頃からの付き合いがある奴のことだ」

「ほほう。アシルの幼馴染みとは誰なのだ?」

「リグルって奴だよ。風の噂じゃ上級魔法使いになったと聞いてる」

「余と同じか」

「ああ」

「今は交流ないのか?」

「俺は料理人、リグルは魔法使い。それぞれ行く道は違っていて忙しくなったからな、自然と疎遠になったんだよ」

「勇者には……そういうのおらんかったな」

「うっさい! 分かってて聞くな!」


 はっはっは! とアシルは笑って夕食の仕込みに戻る。


「勇者よ」

「なんだ」

「リグルという名、覚えがある」

「本当か? 上級だし有名なんだな」

「いや、そうではない」

「ん? どういうことだ?」

「魔族からの報告にあった名だ」


 *   *   *


「よーし! では先週の続きをやるぞー! 皆覚えておるか!?」

「「はーい!!」」


 ルーシーの魔法講座を離れたところで聞きながら、勇者は先日の話を思い出していた。


『魔族からの報告って、まさか!?』

『ああ。リグルという強い魔法使いを倒したとな』

『じゃあ……リグルはもう……』

『余の正体を知ったら、もうフレンチトーストは作ってくれぬだろうな』


 そう言って寂し気な目をするルーシーの顔が頭から離れないでいた。


「どうしたんだ? そんなところでボーッとして」


 魔法講座の昼食を準備するアシルが声を掛ける。


「……いや? のんびりできるってのは至福だと思ってさ」

「はは、勇者は本当にスローライフが好きなんだな」

「そうだ、野菜でも作るか」

「お、いいねぇ。俺も野菜が欲しいと思ってたところだ」

「はは……」

「……なにかあったか?」

「え?」

「顔に書いてあるぜ」

「……ああ、ちょっとショックなことがあってな」

「勇者ほどの男が凹むショックか、女に振られたか?」

「俺をなんだと思ってるんだ?」

「ははは! 人生なにがあるか分かんねえぞ?」

「そうだな。まさか宮廷料理人の飯を毎日食えるようになるとは思わなかったし」

「宮廷料理人、か……」

「どうした?」

「お前らがあんまり持ち上げてくれるんで言えなかったんだけどな、俺は宮廷料理人じゃないんだ」


 衝撃の告白に勇者はリグルの事など忘れて「どういうことだ!?」と訊ねる。


「正確には、宮廷料理人として認められてないんだ」

「認められてない?」

「宮廷料理人になるには、王国立の調理師専門校を修了しなきゃならない。だが俺は修了しないままに中退してるんだ」

「どうして……聞いていいのか?」

「ああ、そんなに重い話じゃない。惚れた女に夢中で単位を落としたっていう馬鹿な話だよ」

「えぇ……」


 心配して損したといった顔の勇者を見たアシルは「だから重い話じゃないって言ったろ?」と笑う。


「でも、それでなんで宮廷料理人になれたんだ?」

「大将だよ」

「大将って、ねこねこ食堂の大将か?」

「ああ。あの人の口利きがあって城での仕事に就けたんだ」

「あの大将ホントにすごいんだな」

「つまり、専門校を修了せずに他人の紹介で来たような奴は宮廷料理人じゃないってことだよ」

「なるほどな。それでアシルはここに飛ばされたってことか?」

「ズバッと言いやがる。……いや、それが分からねえんだ」

「分からない?」

「べつに厄介払いの空気じゃなかったんだ。がんばれよって言われたし、なにより王命だろ? だからよっぽどヤバい仕事だと覚悟して来たんだ。それなのに最高の職場だったんで、それこそ人生なにがあるか分からねえもんだよな」


 ヤバい職場というのは、あながち間違いではないだろうと勇者は思った。

 弱体化したとはいえ、人類を滅ぼそうと企む魔王と一つ屋根の下で生活することになるのだ。何があるか分かったもんじゃない。


「ここってそんなに良い職場か?」

「ああ。勇者は気のいい兄ちゃんだし、ルーシー嬢ちゃんは博識で面白いし、なにより俺の料理を最高の笑顔で食べてくれる。こんなにやり甲斐ある仕事、他にねえよ」

「そっか……」

「勇者も昼飯食って元気出しな」

「ああ、いただくよ」


 勇者はリグルの事を一旦忘れることにした。いつかは分かることだが今はまだ。その時が来たらと、そう考えた――。



 To be continued→

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