ルーシー先生の魔法授業 後編
「ふぅー、美味かった!」
「ルーシー嬢ちゃんの食べっぷりを見ると、作った甲斐があるってもんだ」
「アシルの料理は大将と同じくらい好きだ!」
「ふっ、嬉しいこと言ってくれるじゃねえか」
「また今度、ねこねこ食堂行ってみるか」
「余はフレンチトーストを頼むぞ!!」
「あるのか? 食堂に」
「大丈夫だろ。大将が客からのリクエストを断ったことはない」
「マジか。でも、フレンチトーストは本格的に作るなら時間掛かるだろ?」
「ああ。だから行く日を決めて予約ておくといい」
「なるほど予約か」
「さて、勇者よ。続きをやるぞ」
「お! よろしく頼むよ先生」
「先生?」
「あー、今ルーシーから魔法について教わっててね」
「へぇ。ルーシー嬢ちゃんは本当に博識だな」
「あ、その前に食器を洗わないと」
「いいよ。俺がやっといてやる。早く嬢ちゃんのとこ行ってやれ」
「すまんな、ありがとう」
食器洗いをアシルに任せて勇者は教室代わりのリビングへと移動する。
「さて、属性魔法についてなにか質問はあるか?」
「色々あるが、まず魔力回路とは何者だ?」
「そうだな、魔法の基本だから説明しておくか。魔法とは世界の法則を、魔力を以て再現すると言ったのは覚えておるな?」
「ああ」
「その再現をするための装置が魔力回路だ。とはいえ魔導具のような機械ではない。ちょうど勇者が読んでいた入門書に図が載っておるから見るといい」
「えーと……。丸とか三角とか図形が組み合わさってるな。――魔力回路とは魔法を発動させるための設計図であり部品である。法則を正しく再現するために組み合わせる……なるほど」
「理解できたのであれば次に進むぞ?」
「……先生の解説をお願いします」
「フフハハハハ、よかろう。魔法陣は聞いたことあるな?」
「ああ。魔法を発動させる時に描く図形だろ?」
「その魔法陣の中身が魔力回路なのだ。様々な図形が複雑に噛み合ってできておる」
「つまり、さっきの火属性と水属性の魔力回路を合体させたっていうのは、これらの図形を抽出して組み合わせたってことか?」
「うむ。その通り」
「あれ? でも12人の魔法使いのうちトルマリンやパールは魔法陣使ってなかったよな? エメラルドはなんか文字使ってたけど」
「良い質問だ。奴らは最高位の中でも国王直属に選ばれるほどの実力者だ。そういう魔法使いは頭の中で魔法陣を構築できる」
「頭の中で!?」
「超高度な暗算のようなものだな」
勇者は想像してみるが、頭の中で描いた図形はあっという間に消えていく。
「無理だろ!?」
「それをやってのけるのが上級のさらに上である最高位の魔法使いだ。要は天才の類というやつだ」
「天才か……」
「勇者も天才の類ではないか」
「え?」
「たったの3年で勇者スキルをマスターした人間など見たことがない。だからこそ余を追い詰めることができたのであろう?」
「そ、そうか」
「魔王討伐など、普通は『誰かやってくれないかなー』と他力本願だ。しかし勇者は自ら立ち上がり、300年以上も人類が敵わなかった魔族の王まで辿り着いたのだ。誇ってよいぞ」
「なんか、魔王に褒められるのも変な感じだな」
「素直に喜べ。ちなみエメラルドの魔法はヒクト魔法陣という古代魔法でな。古代ヒクト文字を用いた魔力回路を構築する」
「それってさ、魔族の魔術に似てるよな?」
「うむ。鋭いな。実はヒクト魔法陣が主流になっていたら魔術と同じ道を辿っていた可能性は大いにある。ではなぜ主流になれなかったかを解説しよう。
ヒクトというのはまだ魔法が確立されて間もない頃にいた少数民族だという。その民族は文字には力があると信じておった。そこで魔力回路にも文字を使おうと考えたのだ」
「俺も文字のほうが良いと思うけどな、図形みたくややこしくないし」
勇者は入門書を睨んで文句を言う。
「勇者の考えも分かる。だが魔力回路に文字が使われないのには理由があるのだ。その一つは扱いやすさだ。図形による魔法は一見複雑でよく分からんが、法則の再現性が高い。逆にヒクト魔法は文字による魔力回路のため分かりやすいが再現性はイマイチなのだ」
「どうして?」
「そもそも世界の法則を再現しようという魔法の言語化などできないからだ」
「火が燃える……とかじゃダメなのか」
「恐らく当時のヒクト民もそうやって試行錯誤したことだろう。しかし世界の法則は人間の言葉だけで再現できるほど易くはないのだ。
そしてもう一つは、禁忌を犯せてしまう魔法であること。これが一番大きな理由ではある」
「禁忌って、……まさか」
「そう。時間操作や死者蘇生など理に反する魔法だ。もちろん当時はまだそんな技術はない。しかしそれを実現し得る魔法であると判断され、ヒクト魔法は禁止された」
「それでもエメラルドは使ってたよな?」
「口伝だ」
「口伝!?」
「魔力回路を書き残すことはできぬが、ひっそりと口伝で継承され研究は続いたのだ」
「口伝で……頭痛くなるな……。それじゃあ、もしかして今は時間操作とかできるのか?」
「口伝ゆえ詳しくは知らぬが、それはないだろう。そんな魔法が完成していたら魔族の連絡橋が来ないよう封印してしまえば、魔王などそもそも存在せぬ」
「な、なるほど……」
ルーシーから教われば教わるほど勇者の中で魔法の可能性が無限大にあるんだと感じるようになった。
そして密かに考えていた構想が実現するのではないか、と思い始めていた。
「さて、次は属性魔法に戻る」
「そうだ、ルーシー先生。土属性ってどんな魔法が使えるんだ?」
「ふむ。主な使い道と言えばゴーレムであろうな」
「あーあれか。なんか、どちらかと言えば物質魔法ぽいけどな」
「勇者も分かるようになってきたな。ゴーレムは土属性と物質魔法を組み合わせたものだ」
「そんなことできるのか!?」
「ゴーレムの形は土属性の魔法で作り、動かすのは物質魔法だ。だから基本は二人一組で操る。一人で作り操るゴーレムマスターもおるがな」
「ゴーレムマスター……」
「他にも土壌改良したり建築に利用したりと、実に幅広く使われている」
「おいおいなにがオマケだよ。めちゃくちゃ有用じゃねーか」
「だからこそ五大属性と言われておるのだ。しかし魔法使いの中には純粋な属性ではないと言う者がいてな、それで土属性を省いた四大属性派と分かれておる」
「なるほどな」
「では、いよいよお待ちかねの光と闇の属性について解説しよう」
「待ってましたってわけでもないけどな」
「勇者は盛り上げるのが下手だのぉ」
「うっせえ」
ルーシーは教師のような格好から衣装替えして半分黒の白衣みたいな格好になる。
「お前な、いつからそんなの用意してたんだ」
「勇者はコスプレ好きであろう?」
「お前は俺のどこを観察してんだよ……」
「では属性魔法の最後は光と闇だ。この2つはセットで天魔属性と言われておる。実に安直なネーミングセンスだが、分かりやすいのは良いことだ」
「なんに対しての批評だよ」
「さて、ノー知識から余の教示を受けた勇者であれば分かるだろう? どうして天魔属性は生まれたのか」
「……光属性は、闇に対する恐怖からだろうな。それと邪悪に対抗するためか?」
「うむ。ほぼ正解だ。人間は原初から闇を怖れた。火属性が生まれた背景には闇もあったのだ。しかし火属性だけでは色々と限界があるため、もっと明るく長時間照らす魔法が求められた。そこで発明されたのが光属性だ」
「今じゃ当たり前に使われてるものな」
「同じ光でも勇者の光属性とは少々異なる。勇者の場合は勇者スキルとして魔を討ち滅ぼすための光属性だ。そのため明かりとしての機能はないし、光属性魔法は使えない」
「だな。俺も今まで使えた試しがない」
勇者は自身の勇者スキルを確認するが、そこに光属性の魔法は一つもない。
「で、最後に闇属性か。でもこれって魔族の領分なんじゃないのか?」
「そうとも限らん。実は魔法の闇属性と魔族の闇属性は異なる」
「そうなのか?」
「余を代表とする魔族にとっての闇属性は、どちらかと言うと勇者スキルに近い。だからこそ秘術・属性相転移が成立するのだ」
「ちょっ、アシルがまだ……」
「大丈夫だ。いないのは確認済みだ」
「抜け目ないな……。ん? じゃあ秘術って勇者スキルにしか効果ないのか?」
「うむ。そして逆もまた然りだ」
「闇属性になるには魔族と属性相転移するしかない……か。でもルーシーはあの時、自ら戻るって言ってなかったか?」
「あー、あれは相転移が発動する瞬間に闇属性を亜空間に格納し、それを取り出そうとしていたのだ」
「そんなことしてたのか……。そういや、なんで属性戻せないんだ?」
「属性相転移は聖属性を想定してはおらぬ。どうすれば元の闇属性に戻れるのかは余にも分からぬ」
「……ていうかいいのか? 秘術のことそんなペラペラと。盗聴器あるぞ?」
「問題ない。魔族が魔法を理解できないように、人間は魔術を理解できぬ。それに相転移も亜空間も魔法では実現不可能だ」
「ふーん。そっか」
「よし、おやつの時間だ!!」
「闇属性の解説は!?」
To be continued→
最後まで読んで頂いてありがとうございます。
応援よろしくお願いします。




