ルーシー先生の魔法授業 前編
「勇者よ、なにを読んでいるのだ?」
「……ん? ああ、魔法についての本を」
「ほうほう。魔法について。……なぜ余に聞かぬ?」
不満そうに睨むルーシーに、「いや、ルーシーを頼りたくないってわけじゃない」と釈明する。
「というか、むしろルーシーから教わって興味持ったんだ」
「ほほう?」
「俺はルーシー――魔王を倒すことに全てを懸けて来たから、勇者スキル以外のことは本当になにも知らない。だから、こうして余裕ができた今、興味が湧いた魔法について一から学んでみようと思ったんだ。
ルーシーに教わるのが手っ取り早いのはあるんだけどさ、自分から知識を吸収していくことで得られる経験値もあると思うんだ。その上で分からないことや疑問はルーシーに聞こうと思ってるよ」
そう言ってルーシーの頭を撫でる。
「ふむ。分かった。分からないことはなんでも余に訊ねるがいい」
「ああ。ありがとう」
ルーシーは勇者の読む本がどんなレベルなのか気になり、少し読んでみようとするが……。
「……読めんな」
「そりゃあ人類の言語だからな。しかも他国の言語も混じってるし」
「なに? なぜ他国の言語を混ぜるのだ?」
「うーん。そのほうが伝わりやすかったり、昔から使われてる言葉が定着していたりして、他国言語――特にシルカ語はよく使われるよ」
「シルカ語? どこの国だ?」
「シルカ語はシェリオン連邦で使われる言語だよ。昔の先住民族が使ってた言語が元になってるらしい」
「ほほう。シェリオン連邦といえば、東方の大陸にある国だな?」
「ああ。ルーシーは世界中に魔族がいるから情報入って来るんだろ?」
「うむ。各国の文化、軍容、要人など様々な情報を得ておる」
「アリストリアはシェリオンと深い交流があってな、それでシルカ語が数多く使われているんだ」
「そうなのか。交流があるのはもちろん知っておるが、言語にまで影響を及ぼしておるとはな」
「そういや、ルーシーはなんで人語を、しかもアリストリアの言葉を話せるんだ?」
「アリストリアだけではない。世界中の主だった国の言語を話せる。言葉を解せば相手の考え、思想、感情などが分かるからな。各国首脳を説得するためにも必要だったのだ」
「世界中の……そうか、例の魔力のことで」
人間が兵器などで魔力を大量に消費することで、120年後に世界の魔力が枯渇して星が死ぬ。ルーシーはその事を各国首脳に知らせて魔力消費を抑えて欲しいと伝えたが、誰も信じようとはしなかった。
「でもなんで文字は読めないんだ?」
「簡単な話だ。興味がない」
「え?」
「勇者も今しがた言っておったではないか。興味が湧いたから魔法を学ぼうと思ったと」
「そう……だな」
「余が人語を話せるようになったのは、あくまで必要に迫られたからだ。本を読んだり外交をするためではない」
「そうなのか。ならルーシーの悪口を書きまくっても分からないわけか」
「分からない。が、不穏な気配は察知できる。そうなったら解読してやろうと本気を出すだろうな」
「それは興味というより執念だな……」
「それで? なんと書いてあるのだ?」
「ああ、……火属性は魔法の基本であり根幹である。属性魔法を始めるにはまず火属性の基本から。だとさ」
「ふむ。それは間違ってはいない」
「どういうことだ?」
「本にはなんとあるのだ?」
「えーと、火は全ての属性魔法の基礎となっているため、火属性を学ぶことで他の属性魔法への理解が深まる。……ということらしい」
「それも合っている。さすがに入門書だな」
「えーと……つまり、どういうことですか?」
「フフハハハハ、仕方ない。余が教示してやろう」
瞬時に教師の格好になると、黒板を用意する。
「どこからそんなものを……」
「国王陛下の褒美から」
「都合の良い時だけ陛下使うんじゃねえ! ていうか無駄遣いするな!」
「うるさいのぉ、そんなケチだからモテぬのだ」
「うぐっ」
「さて、まず属性魔法の概念から話そう」
「属性魔法の概念?」
「勇者は今、全くのノー知識状態だ。なのでまず属性魔法とはなんなのか? というところからだ」
「なるほど」
「属性魔法は火、水、雷、風、土の五つだ」
「おいルーシー先生よ、光と闇が抜けてるぞ」
「ふむ。そこに気づくとは、さすがに勇者だな」
「へへ」
「だがそれらは後回しだ」
「なに!?」
「順序というものがあるのだ。光と闇もあとでちゃんと説明してやる。――この五大属性の最初は火だと言われておる。それはなぜか、分かるか?」
「えーと……火がないと困るから」
「愚か者。それを言うなら水のほうが困るであろう」
「それは、まあ……」
「火が最初に発明されたのは、文明の始まりに通じるからだ。人類は火によって暗さを誤魔化し、肉や魚などを焼いて食べてきた。文明の根幹たる属性だからこそ火が選ばれたのだ」
「なるほど。ルーシーの話は本当に分かりやすいな」
「フフハハハハ! 褒め称えるがいい!」
「授業が終わったらフレンチトーストをやろう」
「勇者よ。お主も悪よのぉ」
なにが悪なのかよく分からないが、ルーシーをその気にさせるのが日に日に上手くなる勇者であった。
「さて、火属性の魔法が発明されると文明は大きく進む。何事も土台が出来上がると応用が効くものだ。魔法も例外ではない。火属性魔法の仕組みを解析することで他の属性魔法へと発展させたのだ」
「そうか、火属性が属性魔法の基本であり根幹であるっていうのは、そういう意味か」
「うむ。次に作られたのはなにか分かるか?」
「それこそ水だろう」
「フフハハハハ、見事に引っ掛かったな」
「なに!?」
「しかし火属性についてを深く知ると自ずと答えが出るのだ」
「火属性について? ……熱いし燃えるな」
「勇者のその単純な発想は悪くはない」
「マジか」
「物が燃えるほどのエネルギー、威力を持つものが自然界にはあるであろう?」
「自然界にある燃えるほどのエネルギー……。そうか雷!」
「その通り! 実は属性魔法にはそれぞれ相性があってな、雷は火属性の親戚とも言えるほど相性が良いのだ。その証拠に火と雷を組み合わせた魔法は数多くある」
「なるほどなぁ」
感心する勇者は次の魔法を予想する。
「火の次は雷だろ? 雷と相性の良い属性なんてあるか?」
「勇者はさっき答えを言っておる」
「答えを? さっき……まさか」
「そう、水だ。雷単体で考えると繋がりづらいが、雷がどう発生するかを考えるといい」
「どうって、雷雲からだろ?」
「その雷雲はなにでできている?」
「雲だろ」
「では、その雲はなんだ?」
「雲? ……そういや昔、雲は水蒸気だって……あっ!」
「そう、水だ。しかし雷と水は必ずしも相性が良いわけではない。感電というリスクもあるからな」
「よーし、あとは風と土だな?」
「次は風だ」
予想しようとしたら答えを言われて勇者はズッコケる。
「おい、なんで先に答え言うんだよ」
「そろそろ昼飯の時間だからな」
「午後に続きでもいいだろ」
「勇者よ、今はまだ属性魔法の入り口だということを忘れるな? のんびりやってたら日が暮れてしまう」
「ぐうっ……分かったよ」
「今までの展開から水との相性と思うだろうが、実は火には派生が二つある。それが風だ」
「なんでだ? 火と風ってなんの関係もないだろ?」
「そう思うか? 風というのは空気の流れだ。暖かいと上に行き、寒いと下に行く。上だけ寒かったり下だけ暑かったりはせぬであろう? つまり熱の力によって空気は動き風は起こるのだ」
「知らなかった……。属性それぞれに関係性があるんだな」
「そうだ。しかしそれもここで終わりだ」
関係性シリーズの唐突な終わりに勇者はポカーンとする。
「え? あれ? まだ土属性が残ってるよな?」
「実は土属性は例外でな、五大属性と言われてはいるがオマケのようなものだ」
「お、オマケって……」
「本来の属性魔法は四大属性と呼ばれている。なぜなら土属性は火属性と水属性の研究中に偶然発見された合成属性だからだ」
「ご、合成属性?」
「火属性の魔力回路の一部と、水属性の魔力回路の一部が合致するのではないか。と考えた人間がおってな、実際にやってみたら土属性が誕生したというわけだ」
「えぇ……。ていうか、魔力回路ってなんだ?」
勇者が疑問に思うと同時に、アシルが「飯だぞー!」と呼ぶ声が聞こえた。
「ふむ。続きはまたあとだな」
「え、ちょっ、おい!」
「ごはんが先だ!!」
「気になるんだけど!?」
To be continued→
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