国王からの褒美
「ルーシーが拐われた?」
サファイアから報告を受けた国王は目を丸くする。
「はっはっは! 魔王を拐うとは、なんとも愉快だな!」
「ルーシーは勇者様とエメラルド、パールによって無事に助け出されました」
「戦力オーバーキルしてない?」
「ちょうどエメラルドと市場に買い物をしに来ていたところだったと」
「ふむ。盗賊団は災難だったな。……確かヤザグレと言ったか?」
「はい。以前より恐喝、強盗、誘拐等で手配されています」
「皆に褒美をやらねばな。サファイアはなにか欲しい物はあるか?」
「国王陛下、セクハラになりかねない発言は慎まれたほうが宜しいかと」
「普通の褒美なんだけど?」
「私は今回事件に関与しておりませんので、エメラルドとパールにお与え下さい」
「ふむ。分かった。では3名に褒美を手配しよう。それとルーシーにも一つ与えよう」
「魔王にですか?」
「今回ヤザグレを捕らえることができたのも、ルーシーがきっかけを作ってくれたからだ。それに、国王として器の広さを見せねばな」
「御意」
* * *
「褒美?」
国王の使者と名乗る正装の女性がやって来たと思うと、勇者とルーシーに褒美を与えるとの事だった。
「はい。先日の盗賊団ヤザグレ逮捕に勇者様が貢献されたことを国王陛下は大変高く評価しておられます」
「あー、あれか」
「勇者様には土地の拡張と破龍のペンダント、金品を贈呈致します」
「土地の拡張?」
「はい。現在勇者様は3エーラの土地を所有しておりますが、10エーラまで拡張されます」
「10エーラ!?」
1エーラは約22,500平方メートル。つまり、勇者の保有する土地は一気に約225,000平方メートルになったのである。
「そ、そんなに拡張していいんですか?」
「はい。辺境の土地ということもあり、あまり住人もおりませんので。それに、捕らえた盗賊団は長年追っていた犯罪集団でしたので、国王陛下も感謝しておられました」
「いえ、とんでもない」
「それと、こちらが破龍のペンダントになります」
豪華な装飾が施された小箱を開けると、中には銀細工の龍が輝くペンダントが入っていた。
「これは?」
「国に対して大きな貢献をされた方に贈られるものです。本来は税金の大幅減額や国の施設を優先利用できる優待といった特典がありますが、勇者様はすでにそれらの特権をお持ちですので効力はあってないようなものになってしまいます」
「そうですか。それでも国に貢献できたのは嬉しいですよ。有り難く頂戴致します」
「ただ、一つだけ勇者様にも使える特典がございます」
「なんでしょう?」
「その前に申し遅れました。私、アリストリア王国騎士団所属のミーナ・エルフリッドといいます。勇者様の持つ破龍のペンダントがあればいつでも私を呼び出し使うことができます」
「はい?」
「これは国王陛下が特別に追加された特典でして、もしまた輩が現れた時には騎士団を自由に使っていい。とのことです」
「あー、そういうことですか。それはありがたいです」
「それと、最後に金品をお受け取りください」
ミーナは持ってきたブリーフケースのような鞄を開ける。中には金貨や宝石などが入っていた。
「こ、これ全部ですか!?」
「はい」
「生活費も貰ってるのに……」
「どうした?」
勇者の大きな声を聞いてルーシーが奥から出て来た。
「あー、先日の盗賊団を捕らえた礼だってさ」
「ほほう、余に献上する宝物か。どれ……ぬおっ!?」
ルーシーも鞄いっぱいの金品を見て驚く。
「国王め、余を買収しようとしているのか?」
「いや、だから盗賊団を捕らえた礼だって」
「勇者よ、これだけあれば遊んで暮らせるのぉ」
「そうだなー、少なくとも向こう30年は金の心配せずに済みそうだ」
「最後に」
「え? まだあるんですか?」
「ルーシー様に」
「なぬ? 余に褒美とな?」
ミーナは「失礼します」と言ってルーシーの首にチョーカーを着ける。
「これは?」
「魔法使いの象徴であるルミリナの花を象った紋章を付けたチョーカーです」
「ルミリナの花というのは、魔法帽子にもあるやつか?」
「はい。そのチョーカーには身に着けた者を守る魔法が掛けられております」
「……ふむ。確かに聖なる気配がするな。しかしいいのか? 余は魔王だぞ?」
「問題ありません。国王陛下は『ありがとう。無事でなによりだ』と仰っておられました」
「前から思っていたが、あの国王は大丈夫か? 魔王を尊敬したり礼をしたり」
「国王陛下は聡明で寛大な御方ですから」
「ふん。よく言う」
「国王陛下からの褒美は以上となります。では失礼します」
「わざわざ遠くまでありがとうございました。あーそうだ、これを」
「これは?」
「うちの料理人が作った鴨の燻製です」
「……よろしいのですか?」
「ええ。ぜひお家で食べてください」
「ありがとうございます」
ミーナが帰ると、入れ替わりでアシルが戻る。
「客か?」
「ああ。先日の盗賊団を捕らえた褒美を持ってきてくれたんだ」
「褒美? ……おいおい、こりゃあすごいな」
アシルも鞄に詰まった金品を見て驚く。
「これだけあれば30年以上は金に困らねえな」
ミーナが去った後、ルーシーは宝石類を一つ一つ手に取って吟味する。
「ルーシー、宝石の価値なんて分かるのか?」
「余は……この程度なら容易に分かる」
ルーシーは「余は魔王だぞ?」と言おうとしたところ、アシルが居るのを察して言葉を飲み込んだ。
「ふむ。さすがに国王からの褒美だな。どれも本物で価値が高い」
「へー」
「……おっと、やはりあったか」
ルーシーは小さなルビーのような宝石を見つける。
「なんだ? それ高いのか?」
「いーや? 無価値だ」
「な、なんで?」
「それは向こうに訊ねてみたらどうだ? ……わっ!!」
無価値という宝石に大声を出す。
「――! なんだいきなり……」
「フフハハハハ。これは盗聴器だ」
「盗聴器!?」
またもや知らぬ作戦の展開に勇者は一瞬ムッとなるが、こんな事をするのは一人しかいないと思い至った。
「どうせトルマリンかサファイアあたりが聞いておるのだろう? このままにしておいてやる。勇者の恥ずかしい話が聞けるやも知れぬしな」
「なんだよ恥ずかしい話って」
「さあ?」
「おい、盗聴器なんて穏やかじゃねえな。大丈夫なのか?」
「心配するな。アシルはいつも通り美味い飯を作ってくれればよい」
「大丈夫だ。遊びのようなものだよ。それに、助けてくれって大声出せば即時通報もできる」
「おー、それはよい考えだ」
「……お前ら、なんというか、逞しいな」
「はは、慣れたよ」
「……ふむ。他には怪しいのは無さそうだ。盗聴器は……テーブルにでも置いておくか」
「そこだと邪魔になるだろう。貸してみろ」
アシルは盗聴器である偽宝石に紐を接着すると、家の中心にある大黒柱に小さな釘を打ってそこに掛けた。
「よし、これでいいだろう」
「おーっ! アシルは器用だな!」
「さて、昼飯にするか?」
「うむ! フレンチトーストが食べたい!」
「はは、好きだな」
* * *
〈なんだ? それ高いのか?〉
〈いーや? 無価値だ〉
〈な、なんで?〉
〈それは向こうに訊ねてみたらどうだ? ……わっ!!〉
「っ!!」
研究室で盗聴器の音声を聞いていたトルマリンは椅子からひっくり返る。
「びっくりするなぁもう」
〈どうせトルマリンかサファイアあたりが聞いておるのだろう? このままにしておいてやる。勇者の恥ずかしい話が聞けるやも知れぬしな〉
「はは、ご明察です魔王様。……勇者の恥ずかしい話ですか、期待していましょう」
トルマリンはそのまま勇者達の会話を聞きながら魔王を倒すための作戦を練るのであった。
To be continued→
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