ルーシー誘拐!? 後編
その男達は偶然にも目撃していた。
「おい、見ろよ」
「なんですかアニキ?」
「あそこだよ!」
王都ラクタートのメインストリートから少し離れた、薄暗く人気のない裏路地にチカチカと何かが光るのを見た。
「おいおいこりゃあ、たまげたな」
「すげーや! なんもないとこに人間が出てきた!」
そして、その中の一人を見てさらに驚く。
「おい! あの黒い魔法帽!」
「帽子がどうかしたんですか?」
「バカ! ありゃあ国内最高位の魔法使いだ」
「マジすか!? すげー!」
魔法使いは魔法帽という帽子を被ることが多い。それは魔法使いであることの証明であり主張であるのと、魔法使いをサポートするための様々な機能が備わっているからである。
その魔法帽は、色と刺繍と装飾品で地位が表されている。
初級は無地の茶色で刺繍も装飾品もなく機能は最低限。
中級は刺繍の入った緑色で、ある程度の機能が使える。魔法使いとして正式に認められて、名乗れるのも中級からである。
上級になると赤色に金刺繍となって全ての機能が使えるようになり、装飾品として魔法使いの象徴とされるルミリナの花が飾られる。
そして、アリストリア王国最高位の魔法使いに与えられる魔法帽子が黒である。
金刺繍はより豪華になってルミリナの花も帽子のつばに大きく咲き誇る。上級機能の他に特別権限が与えられる。
「俺たちはツイてるな。見ろよガキまでいるぜ」
「家族ですかね?」
「それなら仕事がやりやすくなる。……お、市場の方へ行くぞ」
「買い物ですかね?」
「よし、俺は後を追う。お前は仲間に連絡してこい」
「へい!」
恐喝、強盗、誘拐、何でもござれの犯罪集団ヤザグレ。アニキと呼ばれた男はヤザグレの頭目マゴニアである。
「お、こりゃあいい。娘は離れたか」
もう一人の背の高い男も離れ、優男と魔法使いが残る。しばらく観察していると、なにやら魔法使いは優男に言い寄っている様子だった。
「なんだ、家族じゃないのか?」
誘拐するのに関係性の把握は大事なことである。無関係の人間を拐ったところで何の意味もない。
「うーむ。ガキを見る目は悪くねぇな」
マゴニアは長年の経験で子供を大切に思う人間は目を見れば分かるようになった。
拐う価値ありと判断したところに仲間がやって来た。
「頭、どうですか?」
「悪くねぇ。家族じゃねえようだが、相手は最高位の魔法使いだ」
「手筈は?」
「アシはいるな?」
「はい。待機させてます」
「よし、あの二人に殺さねえ程度に攻撃魔法を撃て。その瞬間にアシを走らせろ」
「分かりました」
仲間から連絡を受けた緑帽子の魔法使いは勇者とエメラルドに向かって光の矢を放つ。その瞬間にアシと呼ばれた男がルーシーを拐った。
「よし! B地点で合流だ!!」
マゴニアの号令で数人の仲間は散り散りに走った――。
* * *
「速いな……!」
勇者は魔王と戦えるだけの力を付けている。足の速さも自信があった。しかし誘拐犯はルーシーを抱えながらもあっという間にどこかへ消えてしまった。
「はぁ、はぁ……! くそ!」
「勇者様! ルーシー様は?」
「分かりません……見失いました」
「ご安心ください。王都は我ら12人の魔法使いの庭。逃しはしません。パール!」
「呼んだー?」
エメラルドが名を呼ぶと、どこからともなく魔法使いが現れた。
ヨレヨレの白衣を着た脱力感ある魔法使いは、エメラルドと勇者を交互に見る。
「あれー? エメちゃんデート中だったー?」
「そ、そんなことはありません!!」
「……」
さっき思いっきりデートの誘いを受けた勇者は、しかしノーコメントにしておいた。
「それでー? 用事はなーにー?」
「ルーシー様が拐われたようです。あなたの魔法で位置を探ってください」
「なーんだ、ルーシーちゃん拐われちゃったのー? しょーがないなー」
パールは白衣の中から杖を取り出す。それを見てエメラルドは勇者に「私の後ろへ」と呟く。訳が分からないままに勇者はエメラルドの後ろへ移動した。
「……くく。はーっははは! 俺の魔法に踊り狂え!!」
「なっ……」
「パールは普段ふにゃふにゃしていますが、杖を持つと別人に変わるんです」
「に、二重人格か……?」
パール・エルフリッド。魔法の杖を持つと性格が変わってしまう奇特な魔法使いだが、12人の中では最も繊細に魔法を操る。
「いくぜっ!」
パールが魔法を展開すると、周囲にホログラムのような映像が浮かび上がる。
「これは……王都ラクタートを表しているんですか?」
「ええ。それも今の状況をね」
「今の……って」
勇者は自分の近くの様子と魔法による映像とを見比べる。
「すごい……。魔法はこんなこともできるんですか」
「私たちからすると、理論上はね」
「それはどういう?」
「ハッ! お喋りしてていいのかよ?」
パールは魔法の映像のとある場所を指で示す。拡大された映像には大人と子供らしき人物が走っていた。
「これはまさか、ルーシー!?」
「そう遠くはねぇな。おいエメラルド」
「分かってるわ」
エメラルドはルーシーがいる方角へ杖を向ける。
「勇者様、私にくっついてください」
「え?」
「早く」
「は、はい」
言われるままにエメラルドにピタリとくっつくと、魔法が発動して景色が変わり場所が移動した。
「これは、転移魔法?」
「はい。転移魔法の本領は点と点とを繋ぐ短距離ワープなんです。ラクタートは私たちの庭と言いましたでしょう?」
「なるほど、パールさんと相性抜群ですね」
「さあ、追いましょう」
「はい!」
* * *
「はぁ、ふぅ、ひぃ」
「随分と速いのだな」
「ははは! 韋駄天のアシってなぁ俺のことよ!」
「韋駄天か、うむ。悪くないぞ」
「って! なに冷静になってんだよ! お前は拐われたんだぞ!?」
「おー、そうであったな。きゃー! たすけてぇー!!」
「ばか! 騒ぐんじゃねー!!」
「なんだ、誘拐の雰囲気を出すのではなかったのか?」
「なんなんだコイツは……」
集合場所であるB地点に着いたアシは無人の建物に入る。そこにはすでに頭目のマゴニアと仲間達がいた。
「マゴニアのアニキ! 連れて来ましたぜ!」
「おう、ご苦労だったなアシ」
「お前が頭目のマゴニアか。目的は金か?」
「おう、そうだ。あの兄ちゃんと魔法使いにたんまり請求してやるぜ」
「うーむ。残念ながら勇者は貧乏でな」
「勇者?」
「そうだ。余の近くにいた優男は勇者だ」
「勇者だ? おいおい、勇者ってのはもっと強そうじゃねえのか? それに勇者ってんなら金持ってるだろうが」
「それがなー、魔王討伐に失敗して報奨金や成功報酬が貰えていないのだ」
当事者である魔王本人の言葉には妙な説得力があった。
「そうかぁ。勇者も大変なんだな……。って違う!!」
「む?」
「俺たちの狙いは魔法使いのほうよ」
「魔法使い? あー、エメラルドか。なぜ彼女が身代金を払えると思ったのだ?」
「やつの帽子よ。黒い魔法帽に金刺繍、そしてルミリナの花の装飾品。あれはこの国最高位の印だ」
「そうか、アリストリアの魔法使いは帽子によって地位が分かるようになっておるのか。しかし妙だな」
「あ? なにがだ」
「エメラルドの帽子は緑色だったはずだが」
「なに?」
次の瞬間、ルーシーとマゴニアの間に勇者とエメラルドが現れた。
「なっ!?」
「おー、勇者ではないか」
「ルーシー! 無事か!?」
「うむ」
「あなた方を少女拉致の容疑で逮捕致します」
エメラルドは杖を突きつけてそう宣言すると、マゴニアの周りにいる仲間の武器を全て魔法で叩き落とした。
「くっ、野郎!!」
マゴニアは抵抗しようと剣を抜く――が、手元に剣はなく、いつの間にか横にいた勇者がその剣をマゴニアの喉元に当てる。
「諦めろ」
優男だったはずの勇者の迫力に気圧されたマゴニアは力無く膝をつく。
「くそぉ……」
「な? 緑色であろう?」
ルーシーはマゴニアにエメラルドの魔法帽子を見せる。
「ど、どうして……俺が見た時は確かに黒だったぞ!」
「え? 帽子がどうかしたのですか?」
「こやつがな、その魔法帽を見て黒だと思ったそうだ。大方、転移魔法で移動した路地が薄暗かったので見間違えたのであろう」
「くそっ! ……いや、おかしいじゃねえか、なんで緑帽子がこんなに強えんだ!?」
「あのー、緑というのは中級のことでしょうか?」
「そうだよ!」
「失礼ですが、これは同じ緑でもエメラルドグリーンなんです」
「あ? それがどうしたってんだ!」
「私は国王陛下直属の12人の魔法使い、エメラルドです。我々の魔法帽はそれぞれの名に因んだ色になっているんです」
「こ、国王……直属!?」
「はい。これが証明IDです」
魔法使いの杖から証明IDが映し出される。そこには王家の紋章を背景にエメラルド・フォーシスの名と顔写真が表示されていた。
「ほう、真面目な顔をしておるな」
「あはは、一応証明用なので」
「あ……が……」
証明IDを見たマゴニアは衝撃のあまり固まっていた。
「ん? そういえばアシルはどうした?」
「「あっ」」
To be continued→
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