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勇者は働きたくない!!  作者: そらり@月宮悠人


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ルーシー誘拐!? 前編

「勇者さんよ」

「ん?」

「昨日は俺が持ってきた食糧で作ったんだが、倉庫が空だぞ?」

「あ! しまった! 街に行こうと思ってたんだ!」

「なら、俺も行ったほうがいいな」

「そうだな、食材などはアシルに任せるよ。料理道具とかも足りないものあったら買ってくれ」

「そうだな、家庭にあるだろうと思って用意して来なかった物がほとんど無くて驚いたぞ」

「すまん……」

「まあいい、それよりルーシー嬢ちゃんはどこだ?」

「外で散歩してるんじゃないかな」

「危なくないのか? 魔族がいないとはいえ動物はいるだろう。迷子になることもあるぞ」


 魔族がいたら談笑するだろうし、動物はむしろ魔王を畏れるだろうし、制約魔法があるから迷子になることもない。

 しかしそれらはアシルには分からない。なので勇者はできる限り保護者のように言う。


「心配ないさ。あの子は強いよ」

「……そうか」


 勇者がそう言うのなら大丈夫なのだろうと、アシルはそれ以上何も言わなかった。


「それで、どうやって街まで行くんだ?」

「魔法使いが連れて行ってくれるってさ」

「魔法使い?」

「こんにちはー!」


 ちょうどそこへ玄関ドアを勢い良く開けて魔法使いがやって来た。

 髪も瞳も翡翠色なため一目で印象に残る。


「……これはまた、元気な魔法使いだな」

「ははは。こんにちは、はじめまして」

「あ! あなたが勇者様ですねー? はじめまして! 私は12人の魔法使い、エメラルド・フォーシスと申します。今日は王都ラクタートに買い物へ行くということですね?」

「はい。よろしくお願いします」

「ところで、ルーシー様は?」

「あー、ルーシーなら……」

「余ならここにおるぞ」


 いつの間にかエメラルドの足元にいたルーシーは、しばしエメラルドを見上げる。


「……」

「なんでしょうか?」

「いや、なんでもない。街へ行くのだろう?」

「はい!」

「それで、どうやって行くんですか?」

「えーと、パッと行くのと景色を眺めながら行くのと、どちらがいいですか?」

「パッと行くのと……」

「景色を眺めながら、ねぇ」

「余はどちらでも構わん」

「そうだな、じゃあ行きはパッと行って帰りは景色を見るのはどうかな?」

「分かりました! では皆さん、私の周りに集まってください」


 勇者、ルーシー、アシルの三人はエメラルドの近くに立つ。


「では行きますね」


 エメラルドはどこからともなく取り出した大きな杖で床をトンと叩く。すると杖から光る文字が床に広がってゆく。


「これは珍しいな、ヒクト魔法陣か」

「ヒクト……?」

「古代魔法の一つだ。文字による陣を敷くことで、より高度に複雑な魔法を可能とする。まさか12人の魔法使いに継承者がいようとはな」

「さすがルーシー様、博識でいらっしゃいますね。その通り、私は古代魔法継承者です」


 文字を敷き終わるとエメラルドは聞いたことのない言葉を紡ぐ。すると周りが真っ白になった。


「――っ!」


 眩しくて勇者は思わず目を閉じる。と、その直後に「勇者様、着きましたよ」と言われ目を開ける。


「……すごい」


 半信半疑だったエメラルドの魔法。しかし目を開けると、そこは人気(ひとけ)の少ない場所ではあったが、確かに王都ラクタートだった。


「こいつは驚いた。古代魔法ってのは便利なもんだな」

「便利は便利だが、万能なわけではない」

「その通りです。足元を見てください」


 三人が足元を見ると、そこには見たことのない小さなマークが刻まれていた。


「それが今の転移魔法の印なんです。その印がある場所にしか転移できません」

「それでも便利には変わらんだろ。食材を運ぶのも楽だ」

「そうなんですが、質量が増えると転移距離も短くなってしまうので……。古代の文献にも買い出しの帰りに転移しようとしたら目的の印まで届かず、全く別の印へ転移してしまった。という話があるんです」

「印を増やせば中継点も増えるだろ?」

「それをやって大混乱になったようで……。なので、国が管理するようになったんです。今も勝手な増設はできません」

「それに魔力消費が大きいからな。大昔は画期的だったが、今は移動手段としての魔導具が発達しておるし、印のある場所にしか移動できない限定的な魔法は使われなくなっていった。というわけだ」

「ほぉ……ルーシー嬢ちゃんは本当に博識だな」

「フフハハハハ、褒め称えるがいい」

「さて、買い物に行くか」


 メインストリートに行くと、転移した場所とは打って変わって賑わっていた。


「おおーっ!!」


 ルーシーは目の前に広がる美味しそうな料理や食材に目を輝かせる。

 こんな食い意地張った少女が魔王だと知ったらどうなるか、勇者は少し考えて止めた。どうせ誰も信じないだろうからだ。


「それじゃあ俺は諸々調達してくる」

「ああ、頼む」

「私は勇者様とデートです!」

「え? いやいや魔王を狙うんじゃないんですか?」

「私の古代魔法はかなり大雑把なので、市街地での使用は禁止されているんです」

「そうなんですか? じゃあまさか、移動のためだけに来てくれたんですか?」

「そうなりますね。だから勇者様とデートくらいしたっていいじゃないですか? それに――」


 色んな店を見て回るルーシーを見て「こうして見てると、市場を楽しむ普通の女の子じゃないですか。もしなにかあっても制約魔法がありますし」と、安全性をアピールする。


「……まあ、そうですね」

「それとも、親子ってことにします?」

「えっ!?」

「勇者様のご年齢でしたら不思議じゃありませんし、こう見えても私、アリストリア王国最高位の魔法使いなんですよ? とても優良物件じゃありません?」


 なぜか婚活アピールをはじめるエメラルドは腕組みをして胸を押し付ける。


「そそ、そ、そうですね」


 突然の誘惑に勇者は声が上擦る。――と、勇者は危険を察知して「伏せろ!」とエメラルドを抱いて地面に伏せる。直後、光の矢が頭上を掠めた。


「ちっ!」


 勇者はルーシーから目を離したことを後悔した。まさか王都の市場でルーシーが誘拐されるとは、誰も予想していなかった。


「まあいい。制約魔法の範囲を狭めれば……」


 勇者がコントローラーを手にした瞬間、エメラルドが勇者の手首を掴む。


「エメラルドさん!?」

「ダメです!!」

「ど、どうして」

「制約魔法の範囲を縮小すればルーシーの正体がバレかねません! 範囲内で取り返さないと!」

「……分かりました。エメラルドさんは他の魔法使いに連絡を。たぶん近くにいるはずですから」

「はい!」

「ルーシー、待ってろ!」



 To be continued→

最後まで読んで頂いてありがとうございます。

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