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第5話:猿と呼ばれし日

空が赤く染まりはじめたある朝。


藤吉郎は、これまでとは違う緊張をその肌に感じていた。


今日は──初めて、武士として戦場に立つ日。


『心拍数上昇、緊張反応。深呼吸を3回。人工交感抑制アルゴリズムを作動します』


「ナニワ、戦が始まるっちゅうのに、よう落ち着いてるなぁ……」


『私は未来で1,243回の戦闘解析を行っています。戦は、計画と実行の精度で勝敗が決まります』


信長軍は、美濃との国境に位置する小さな砦

──蜂須賀の備えに向けて出陣。

藤吉郎は百人弱の兵を率いる部隊の副頭として、その戦列に加えられた。


「草履取りが……いや、今や“木下”殿か」


「なんであいつが指揮を? 信長様の寵愛か?」


まだ嘲笑の声は消えていなかった。

だが、藤吉郎の目はその先

──地形、風向き、部隊の配置と補給の流れを冷静に見据えていた。


『敵の布陣、丘陵の裏に伏兵の可能性あり。前線突出は危険です』


「ナニワ、案は?」


『陽動で右へ引きつけ、主力を中央から流し込む形。

貴殿は第三波の“遅れて現れる伏兵”の形が最も効果的です』


「よっしゃ、それでいこか!」


藤吉郎は素早く味方の陣を動かし、自身の部隊はあえて遅れて出撃。

敵の虚を突いた形で丘の裏から突入した。


「なんや!? 背後に!?」


「伏兵だ! 撤退しろォ!!」


混乱する敵兵を、織田軍が挟撃。 小規模な戦ではあったが、見事な勝利だった。


そして──


その戦後の陣で、信長は肩を揺らして笑った。


「ほほう、やるではないか……おい、そこの猿!」


「……は?」


「目がギラついとる、顔が妙に賢そうで小憎らしい。おぬし、まるで山から降りてきた才猿じゃ」


「それ……誉め言葉でございますか?」


「当然だ。わしが名を付けるのは、気に入った証よ」


家中がどっと笑いに包まれる。 藤吉郎は少しだけ頬を赤らめたが、

その目の奥には──燃えるような光があった。


『“猿”という通称が定着開始。以後、信長との関係が安定・深化する兆候』


「……猿でもなんでもええ。わしは、もっと上に行くんや」


風が吹いた。


まだこのとき、誰も知らない。 この猿顔の男が、いずれ“天下人”と呼ばれることを──

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