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第56話:関白、秀次──追われゆく継承者

慶長元年(1596年)、夏。


かつて関白の座に就き、豊臣の名を背負った男──秀次。


秀吉の甥にして、長年にわたり政権を支えた忠臣。


だが、秀頼の誕生は、その立場を一気に変えていった。


「秀頼様こそ、太閤様の真の後継にふさわしい」


「関白殿下は、もはや……」


ささやきが、名門の廊下を伝う。


三成ら文官派は露骨に秀次を排除し、 大坂城の儀礼の場にも、その姿は徐々に遠ざけられていった。


そしてある日── 秀吉は、秀次にこう告げる。


「高野山にて、しばし静養せよ」


名目は“病の癒やし”であったが、 それが事実上の追放であることは、誰の目にも明らかだった。


「わしは……何のために生まれて、何のために尽くしてきたのか……」


高野山に身を置いた秀次は、 かつて秀吉に見せた誠実な眼差しを失っていた。


酒に溺れ、詩に耽り、 その胸中には、深い虚無と疑念が渦巻いていた。


やがて、謀反の嫌疑がかけられ、 秀次は切腹を命じられる。


その妻子や近しい者たちまでもが、 一斉に処刑された。


それは、天下人・豊臣秀吉の名において行われた、 もっとも冷酷で、もっとも哀しき断罪だった。


秀吉の心にもまた、確かな傷が残った。


「すまなんだな、秀次……ワシの夢の、犠牲になってしもうた……」


その独白に、誰も答える者はいなかった。

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