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第53話:鶴松の死──夢に綻びが走る夜

文禄二年(1593年)秋。


太閤・豊臣秀吉にとって、この年は心の拠り所をひとつ、またひとつと失っていく季節だった。


朝鮮出兵は泥沼に陥り、明との交渉も頓挫。

もはや征服とは名ばかり、兵たちの命と意地だけが戦野に残されていた。


そして──その悲劇の最中、 名護屋城の奥深く、ひとつの命が静かにその光を失った。


秀吉と茶々の間に生まれた待望の嫡男、鶴松。


わずか三歳。 未来を託された小さな命は、疫病にかかり、 秀吉が駆けつける間もなく、儚く散った。


「なぁ、なんでだて……なんでだ……っ……!」


床に膝をつき、鶴松の亡骸に縋るように泣く秀吉。


これまで、どれほど多くの命を見送ってきたか知れない。

だがそれらは、戦であり、戦略であり、己の野望の上で選び取ってきた道だった。


だが、この命だけは違った。 守りたかった。 未来そのものだった。


夜更け。 名護屋の海から風が吹き込む。


そばにいた茶々は、 涙ひとつ見せず、ただ鶴松の小さな手をそっと握り締めていた。


「この子が死んでも、あたしは太閤殿下の女や」


強く、凛としたその声に、秀吉は救われる気がした。


だが、 NANIWAを失い、 鶴松を失った今、 彼の夢には、深く大きな綻びが走り始めていた。

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