第38話:本能寺、炎上──裏切りの刻
天正十年六月一日、京の空は晴れていた。
だがその青空の下、本能寺に滞在していた織田信長は、
まさか自身の命があと一日で尽きようとは、知る由もなかった。
秀吉の軍が備中高松に釘付けにされていた中、 信長は安土を出立し、
わずかな供回りだけで京へ入っていた。 「
いずれの戦も終わりに近づいた」と安堵していたのだ。
その夜、明智光秀は“敵は本能寺にあり”と叫び、 一万三千の兵を率いて密かに京へと進軍。
その足音は、やがて歴史を変える雷鳴となる──
一方、備中では、秀吉がナニワと共に一連の行動パターンを検出していた。
ナニワ『光秀軍:行軍速度・夜間急進。休息なし。兵装:戦仕様。方向、本能寺直進。』
「……来よったか」
秀吉は天幕の中で、怒りと焦りの間に揺れていた。 恩義ある主・信長の命が狙われている。
だが、距離は遠く、間に合う保証もない。
「ナニワ、間に合う可能性は……?」
ナニワ『到達不能。緊急策:毛利との即時和睦交渉、撤退準備。』
秀吉はすぐに毛利方へ使者を出した。
「和睦、今すぐ。信長公に危機が迫っておる!」
そして夜明け──
京では、松明の灯りが徐々に本能寺を包み込んでいった。 光秀の軍が、密かに四方を取り囲み、 その中にいた信長は、初めて異変に気づいた。
「何事ぞ……!」
矢が放たれ、門が破られる。 炎が走り、鉄砲が鳴る。
信長は、最後の力で敵を迎え撃った。
「是非に及ばず──」
その言葉と共に、彼は自刃した。
京の空が朱に染まる中、 秀吉は撤退のための行軍を開始していた。
「信長様……」
ナニワの画面には、信長の行動ログと 光秀軍の進軍記録が交差していた。
ナニワ『復讐行動、最適ルート演算中。』
「ちゃうねん、ナニワ…… これは、戦やない。信義の話や」
そして秀吉の脳裏には、幼き日の自分── 何者でもなかった日吉丸が、
信長に声をかけられた、あの日のことが浮かんでいた。
「よう来たな、猿」
その呼び名の意味が、いまようやく胸に響いていた。




