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第2話:おい、猿──信長との出会い

尾張・那古野城下。


木下藤吉郎──かつて日吉丸と呼ばれていた男は、風のように戻ってきた。


だが、松下家での仕官と挫折を経た彼の眼差しは、かつての百姓のそれとは違う。

まるで、自らの運命を切り拓く者のように研ぎ澄まされていた。


『織田信長──若き当主。側近層に余白あり。大胆な戦略を好む人物です。

現在の家臣層に、情報処理・物資管理を担える人材は限定的』


「つまり、わしにもチャンスがある、っちゅうことやな」


ナニワの分析は常に冷静だが、藤吉郎の胸は高鳴っていた。


織田家──尾張の中でも特に異端とされる家系。

当主・信長は“うつけ者”と呼ばれながらも、

その行動にはどこか常人離れした切れ味があるという噂だった。


その信長が、今まさに那古野城に滞在しているという。


藤吉郎は、朝早くから城の奉公口に立ち、雑事を請け負った。

薪割り、荷運び、掃除、馬の世話──何でもやった。


そして、やっただけではない。


『水桶の配置効率を5%改善できます。馬小屋の通気性を見直せば病気のリスクが低減』


ナニワの助言をもとに、城内の環境は目に見えて変わった。


やがて、それは城主・信長の耳にも届く。


「おい、その百姓崩れ、何者だ」


背後からかけられた声に、藤吉郎は即座に振り向いた。

そこにいたのは、若く、痩身で、鋭い眼光を持つ男

──織田信長、その人だった。


「……木下藤吉郎と申します。雑事を任されておりました」


「ほう……妙な道具を付けとるな。そこの、眼鏡だ」


「はっ、これは……視力が悪うて、でして……」


『ご主人様、ここは事実の一部のみを開示し、技術的核心は避けてください。

信長の好奇心は強いが、理屈の通らぬ話には剣呑になります』


「それでいて、薪の積み方、桶の並べ方、すべてが理に適っておる。

……百姓にしては、異様に頭が切れるようだな」


信長の目が、藤吉郎の全身を射抜いた。


「よし。今日からわしの草履を預ける。冷たかろうが、暑かろうが、常に温めておけ」


「は、ははっ! 光栄にございます!」


藤吉郎は地に頭をつけた。

だが、その目は、信長の草履の向こう──未来の地平を見据えていた。


『戦国乱世、次の舞台へ。信長との邂逅により、歴史の歯車が回り始めます』


こうして、未来からの知識を秘めた猿顔の男は、

尾張の“うつけ”と呼ばれた若き英雄の足元に仕えることとなる。


──後に、「天下人」と呼ばれる者が、いま静かに歩みを始めた。

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