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第37話:静寂の前夜──猿、予感の刻
天正十年(1582年)、初夏──
備中高松城水攻めの成功で、西国の均衡が大きく揺らいだ。
秀吉は、戦後処理と毛利との講和交渉を進めつつ、 その裏で、心に澱のように残る違和感を抱えていた。
半兵衛の死、松永久秀の自爆、 未来を知る者たちの幕引き……
それは、秀吉にとって“終わり”を感じさせる連鎖だった。
ナニワ『予測:本能寺方面にて、異常な動き。武将移動情報が収束傾向。
天候:晴天続き、風向:東。』
「なんや……胸騒ぎがする」
そのころ、信長は明智光秀を京都へ差し向け、 秀吉には毛利攻めを継続するよう命じていた。
だが、ナニワが検出した微細な戦況変化、 信長周辺から漂う緊張、
光秀の動きに現れる不規則な移動パターン── すべてが、どこか不吉な未来を予兆していた。
「ナニワ……光秀の動き、分析できるか?」
ナニワ『不自然な兵の再配置あり。ルート分岐複数発生中。
信長公の居所・本能寺への接近パターン予測、確率28→54→81%──上昇中。』
「まさか……!」
秀吉は、戦勝の興奮が冷めぬ軍陣の中で、 静かに手綱を握り直した。
その夜、遠く京の空に向かって、 風が騒ぎ始めていた。




