第20話:三つの殿──藤吉郎・家康・光秀、各々の夜
金ヶ崎の戦い、その夜。
織田信長本隊が撤退を開始し、金ヶ崎の山間に静けさが戻る頃、
三人の男が、それぞれに異なる任務を背負っていた。
【藤吉郎──“猿”の殿】
泥と血に塗れながら、藤吉郎は仲間を逃がすため矢面に立っていた。
「前だけ見とれ! ワシらが最後の壁だで!」
ナニワ『地形分析:北側谷道に伏兵配置、再誘導に成功』
焦げた煙の中、藤吉郎は疲れた眼で戦場を睨む。
「信長様が生きとるなら、それでええ……」
この夜、彼の名は“捨て身の武士”として確実に刻まれた。
【家康──若き獅子の殿】
別路を取った松平元康(徳川家康)は、 近江街道側の退路を確保しつつ、兵の誘導に従事していた。
「味方を守るのが将の役目だ。退け、退けぇっ!」
鉄砲隊を小刻みに移動させながら、 規律正しい退却戦を演出していく。
「藤吉郎か……あやつも、必死に働いておるな」
若き家康の目に、同じ未来を見つめる者の背中が浮かんでいた。
【光秀──静かなる影の殿】
そして、京へ向かう将軍・足利義昭の警護に就いていたのは明智光秀。
だがその道中、義昭の駕籠を狙う奇襲を察知し、光秀は決断する。
「殿を務めているのは、木下殿か……ならば、我が道もまた殿だ」
少数の兵を率い、義昭の安全確保を最優先に戦術を展開。
「影に徹し、命を守る……これもまた、戦の本懐」
静かに、そして確かに──彼は任を果たした。
それぞれの夜。
三人の“殿”が命を懸けて守ったもの。
信長の命、将軍の威信、そして未来への可能性。
戦の喧騒のあと、彼らが見た夜空は、 それぞれ違いながらも──同じ星を見ていた。




