序章:『尾張中村の奇跡──ナニワがもたらした村の光』
空は、焼け焦げたように灰色だった。
干ばつは三年続き、作物は枯れ、人々の目は希望を失っていた。
そんなある日、一人の若き農民がふらりと村へ戻ってきた。
名は──日吉丸。
その顔には見慣れぬ“眼鏡”があった。
時折、独り言をつぶやくその姿に、村人たちは気味悪がった。
「……干ばつで頭がやられたんじゃねぇか」
「見ろよ、あのヘンな目元。猿みてぇだ」
笑われながらも、日吉丸は黙々と動いていた。
ナニワ『この地の地下水脈、深度3丈2尺。ポイントA、B、Cに井戸掘削を推奨』
「ぽいんと?エビ氏??なんでゃぁそれ?」
『でしたら、地点甲、乙、丙に井戸掘削を推奨』
「よーわ、その場所に水源があるのか?ふむふむ、ならワシが掘ったるわ」
鍬を振るい、土を掘り、時には素手で地を掘った。
三日三晩、汗と泥にまみれながら──ついに、水が湧いた。
「……う、うおおお! 水じゃぁああ!」
村人たちが歓声を上げた。
その後も、ナニワの導きで日吉丸は動いた。
・乾燥に強い麦の種を選び、畑を作る。
・集落の水路を整備し、雨水を貯める桶を配置。
・炭を埋め込んで土壌の保湿力を上げる“未来の農法”を導入。
やがて、田畑は緑を取り戻し、子どもたちの笑い声が村に戻ってきた。
「なぁ、あの眼鏡の兄ちゃん……あんた、何者だ?」
日吉丸はにかみながら、眼鏡をクイッと上げた。
「ただの百姓や。ただ──ちぃと、未来を覗ける天才かもしれんけどな」
それからまもなく、村の周囲で “奇妙な農民が村を潤した”という噂が、風のように広がった。
そしてその名は、やがて“尾張の猿”として戦場にも響き渡ることになる。
──すべては、一つの奇跡の眼鏡から始まった。




