第15話:岐阜、炎上──斎藤家最期の夜
岐阜城本丸。
堂々たる石垣と、天を突く楼閣。
だがその堅牢さも、混乱と炎に飲まれつつあった。
「火の手が……城下から、火の手が!」
「敵の兵がもう本丸手前まで来ていますッ!」
家臣たちの悲鳴が飛び交う。
斎藤龍興は、目の前の状況が信じられなかった。
「なぜ……なぜ、ここまで崩れる……!」
その問いに、答える者はいなかった。
彼が築いてきたものは、すでに音を立てて崩れていた。
一方、藤吉郎は、ナニワの指示を頼りに先鋒隊を率いて本丸裏手へと迫っていた。
ナニワ『敵主力、東側へ誘導成功。本丸裏門の防衛は極端に薄い』
「──チャンスだわ、ここで決めたる!」
藤吉郎は仲間に手を振り、裏門へ一斉突入の合図を送る。
突破。 一人、また一人と城内に躍り込む“猿軍”。
そして、ついに藤吉郎が本丸の門を押し開けた。
「……尾張より、信長様のお使いじゃ! 岐阜を受け取りに参った!!」
炎と混乱の中、斎藤龍興は小姓たちとともに脱出の用意を進めていた。
「これ以上は持たぬ……美濃を捨て、いずこかで立て直す他は……」
その眼に、敗北を知った将の哀しみが宿る。
遠く、北の空が明るく染まり始めていた。
夜明け。
信長本隊が、静かに岐阜城内に入る。
藤吉郎が門で出迎えた。
「お待ちしておりました、信長様」
信長は一瞥し、そして笑った。
「まさか……お前が、ここまでやるとはな」
藤吉郎は深く頭を下げた。
「まだまだ、これからでございます」
岐阜は落ちた。
斎藤家は滅び、信長の名は美濃を越えて響き渡ることになる。
そしてその背後に、一人の“猿”の姿があった。
──歴史は、いま、再び塗り替えられた。




