第11話:潜入・美濃動乱
美濃──濃尾平野の要衝。
斎藤義龍の死後、跡を継いだ斎藤龍興は、父に比べて統率力を欠いていた。
城下には不満が渦巻き、家臣の中にも密かに織田への寝返りを企てる者が現れ始めていた。
その動乱の気配を、藤吉郎とナニワは見逃さなかった。
「ナニワ、義龍が死んでから、美濃の中はだいぶぐらついとる。今が好機やがね」
『斎藤家内部安定指数:42%。離反リスク高。分断工作・提案』
「ほんなら、ちぃと“風”を起こしてこようか」
藤吉郎は旅商人に化け、美濃城下へ潜入。
持ち前の話術と観察眼で商人、町人、
さらには武家屋敷の奥向きにまで入り込み、情報を収集していった。
『斎藤家の家老・稲葉一鉄は頑強。だが西美濃三人衆の一部に動揺あり』
「……離間の種は、ここにあるわ」
ある日、町の書肆でひときわ異彩を放つ若者に出会う。
一見、文弱な書生──だが、その目は鋭く、藤吉郎の目をごまかせるものではなかった。
「おぬし……ただの旅人ではなかろう」
「なんのことやら。わしは尾張の紙商人──筆と墨の商いしとるだけや」
「ふむ。では、なぜこの書にだけ手を伸ばした?
『孫子』に『呉子』、それに……戦略学まで」
「……見とったんかい」
青年は口の端を上げた。
「竹中半兵衛。美濃の書庫番……ということにしておこう」
『対象識別:竹中半兵衛重治。推定IQ170超。現在、斎藤家直属。離反確率:52%』
「“未来を見る目”か。どうやら、こちらの目もごまかせぬようだな」
藤吉郎は小声で呟いた。 「ナニワ……この男、ヤバいがね」
『推奨対応:慎重接触・対話誘導。敵対避け、共闘への布石構築』
その晩、城下の小さな茶屋にて── 半兵衛は藤吉郎を招き、盤面に石を並べた。
「囲碁を打とう。戦は盤上に如かず、というだろう?」
「お、乗ったろか。わし、ちぃとばかし勝負好きでな」
二人は静かに打ち始める。 一手ごとに、視線が交錯し、盤面の外でも火花が散る。
「おぬしの狙い、墨俣ではなく美濃城か」
「……さぁな。単なる通商ルートの確保、ちゅう話もあるでよ」
「ふむ。だが、尾張の“猿”がここまで潜る理由としては浅すぎる」
「“猿”っちゅうても、まだ毛の生えた猿やけどな」
『竹中半兵衛の興味指数上昇。態度:敵対から中立へ』
囲碁は終局。 半兵衛が最後の一手を打つと、藤吉郎は肩をすくめた。
「負けたがね……でも、これで借り一つってことにしとこか」
「貸しに変える機会なら、すぐに来よう」
「たのもし。そん時ゃ、“猿”が面白い芸見せたるで」
こうして、藤吉郎は美濃の乱世に足を踏み入れる。
書庫の奥、策略の渦。
斎藤家を崩すための、情報と知恵の戦いが今、幕を開ける──
そして、もう一人の天才・竹中半兵衛との知略の火種が、確かに灯り始めていた。




