第8話:策謀の女、濃姫と美濃攻めの始動
桶狭間の勝利からわずか数か月
── 信長の勢いは、まさに雷光のように尾張を駆け抜けていた。
だがその輝きの先に、またしても黒雲が立ち込める。
「美濃か……道三亡き今、斎藤家は若造の義龍が継ぎおった。だが、奴は器じゃない」
ある晩、清洲城の一室。
そこには、信長と、その正室である濃姫──斎藤道三の娘・帰蝶の姿があった。
「殿、義龍が道三を討ったことで、美濃の家中にはいまだ混乱が残っています。
攻めるなら今。けれど、正面からでは兵も足りません」
「ふむ……裏から崩す、か」
「そう。殿のもとに、策を生み出す男がいるでしょう?
草履を拾い、猿と呼ばれる……あの者」
信長の目が細められた。
「藤吉郎……たしかに、面白い才を持っておる」
翌日、呼び出された藤吉郎は、緊張の面持ちで濃姫と対面した。
「お初にお目にかかります。お噂は、よう……いや、大変、かねがね」
「ふふ……あなたが、あの“未来を読む”男? いいえ、冗談よ」
『危険:機密保持レベル高。ナニワの存在が疑われた可能性0.8%』
「いやいや、わしの知恵なんて、ただの地べた這い回った泥やに……」
「その泥こそ、殿の力になるわ。……墨俣に、砦を築けるかしら?」
藤吉郎は、一瞬たじろいだ。 墨俣──濃尾平野の要衝。だが、敵地の真ん中。
「無理とは申さぬが、敵の目ぇをかいくぐって物資を入れるのは、至難の業ですわ」
『地形分析中……最適な築城地は木曽川南岸の微高地。夜間移動と小規模分隊での運搬が有効』
「……ナニワ、やれそうやな。姫様、ひとつ、わしにやらせてくだせぇ」
「いい返事。殿にも伝えておきます。あなたなら、できるでしょう──“あの方”に似てるもの」
「え、誰に?」
「……うちの父に。あの“マムシ”の道三にね」
こうして、藤吉郎は新たな任を得る。
信長の命を受け、敵地・美濃に砦を築く、命がけの“築城戦”が始まる。
だが、それは同時に── 猿が“智将”へと進化する試練の始まりでもあった。




