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怪異撃滅クラブ  作者: 秋野てくと
コラム
8/46

「ブラックアートの忍術」

 いつも『怪異撃滅クラブ』を読んでくれて、ありがとうございます。


 秋野てくとです。

 作者ということになってます。


 都市伝説や幽霊、妖怪といった存在に見せかけた犯罪を解いていくというオムニバス・ミステリ・シリーズである本作ですが、これは単に流行りに乗ったわけではなく――いや、こういう作品が最近だと増えてるから、読者にウケるといいなぁという下心もあるとは思いますが――本作品に書かれている物語は実話をベースにしているようです。


 何を隠そう、物語の一部は私自身が学生時代に体験した話も元にしているみたいですね。


 『怪異撃滅クラブ』……。


 私がまだ女子高生だった頃の話ですから。

 そのままを書いてしまうと、今の読者さんとはジェネレーションギャップがありますし、そういうわけで、時代背景は現代に変更することにしました。


 巫女音みこねちゃんや黄泉よみちゃんが隣にいるような気がして、読んでいると懐かしい気持ちになりますね。


 今回は本編の内容を補足するコラムとなります。

 題して『ブラックアートの忍術』。

 読者の皆さんは、物語の中でこんな描写があったのを覚えてますか?



☆☆☆


「浮いていた……? なるほど」


ミコネの話を聞いて、

マツリは口元を歪めた。


()()()()()()()かな――」


☆☆☆



 ここでマツリが口にした「飛び加藤」という人物は、戦国時代に活躍した忍者として名を知られている人物です。「飛び加藤」は別名であり、「加藤段蔵」と聞けば名前を聞いたことがある方も多いかもしれません。


 「飛び加藤」が使う忍術には「呑牛の術」という術があります。

 どうやら幻術の一種であるらしく、『甲越軍記』によると「牛を呑んでいるように見せる」という効果があると記されています。


 なんとも奇怪な術ですが、これには元になったと思われる芸があります。


 江戸時代中期にあたる元禄時代、塩屋長次郎なる人物が得意とした「馬呑の術(呑馬術)」です。塩屋長次郎は塩売りを生業としていた人物ですが、放下(曲芸)にも通じており、中でも得意とした大道芸が、馬を丸々と吞み込んでしまうという「馬呑の術」でした。


 「馬呑の術」は大人気の見世物となり、模倣者が次々と現れるほどの盛況となりました。江戸時代の長次郎の芸が、戦国時代の忍である「飛び加藤」の元ネタと聞くと、なんだか不思議な気がしますが――実際のところ、「飛び加藤」の逸話の多くは、江戸時代に記された戯作が主となっているので、さもありなん。


(もっとも、長次郎以前にも「馬呑術」は知られていたという説もあります)


 ところで、泡坂妻夫先生(※)の著作『大江戸奇術考』では、この辺りの話に詳しく、泡坂先生は当時の長次郎に関する記録から「馬呑の術」は奇術の原理である「ブラックアート」を利用したトリックなのではないか、と考察しています。


(※)泡坂妻夫

   ミステリの巨匠。

   代表作に『乱れからくり』、

   亜愛一郎シリーズなど。

   奇術研究家としても多くの実績を残している。

   

 塩屋長次郎の芸は見世物小屋でおこなわれていた可能性が高い。そういった見世物小屋は薄暗く、視界が限られます。そこで白い体毛をした目立つ馬を使い、少しずつ黒い布をかけていくことで「ブラックアート」の原理で馬を消したのではないか――というのが泡坂先生の考察でした。


 お気づきだと思いますが、「ブラックアート」の原理は「飛び加藤」の「呑牛の術」にも応用できますね。


 マツリが「飛び加藤」の忍術、と口走ったのは、おそらくですが、この時点で『くれくれさん』のトリックが「ブラックアート」の原理を用いたものであることにマツリが気づいていた、ということになるみたいです。


 というわけで、本編の補足でした。

 次回からは本編に戻ります!



 秋野てくと

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