容態急変【EMYROM】
かだす島の怪異は、全て撃滅された。
「今まで、ありがとう――ヨミちゃん」
ヨミの背中に回した手で、そっと撫でる。
服越しに伝わる体温。
ミコネは、抱き寄せる力を少しだけ強めた。
「んっ……はぁ……」
ヨミは抵抗せずに、服越しに鼓動を合わせる。
「怪異撃滅……ヨミちゃんの見てた景色。
あたしも、ヨミちゃんに近づけたかな……?」
「物理的には、近い……かも」
「えへへ……うん。そうだね」
月明かりが、二人の瞳に映った。
じわりと汗がにじむ頬に、ヨミの細い指が触れる。
鍵盤楽器を奏でるように、指がたおやかに動いた。
「ううっ、ヨミちゃん…………ッ!」
「ミコネっ……はぁっ……はぁっ……」
夜の静寂に、二人の呼吸だけが響く――。
「あ、あのさァ……アタシ達もいるんだけどぉ」
「しっ! セラ殿、空気を読むでゴザル」
「青春、と言っておきましょう……!」
「ミコネっち、行けっ! 差せーっ!」
「うふふ。デッドヒートの始まりですわーっ!」
「いや、競馬とかじゃないからさ……」
「あはは……まぁ、仲が良いのは良いことだよ」
「むむっ。なんか、様子が変なのですっ!」
抱き合う二人を、江藤マイヤが指さした。
――はぁっ、はぁっ、はぁっ。
熱っぽく息を荒くしたヨミは、
ぐったり、とミコネに倒れかかる。
「えっ……ヨミちゃん、どうしたのッ!?」
「夏、夜。あ、暑すぎる……かも。
外になんか、出かけるんじゃなかった……」
――バタン。
「うわぁ、すごい汗ッ!
これ、たぶん熱中症だよーーーッ!」
気づけば、殊能ヨミは汗だくになっていた。
額には玉のような汗がしたたっている。
竜胆ホノカは「やばっ、エミロム案件じゃん!」と叫ぶ。
ミコネは、腕の中で倒れたヨミを支えた。
「ヨミちゃんの身体、ひんやりと冷たくて気持ちいい……って思ってたら。あ、あたし、ヨミちゃんを、暖めすぎちゃったみたいだ……ッ!」
ミコネがヨミの顔を覗きこむと、
すんっ、とヨミが鼻をひくつかせる。
「……ミコネ、良い匂い……」
「嗅いでる場合じゃないよッッッ!」
ミコネだって、汗だくなのに……!
は、恥ずかしいッ!
どうやら、ヨミは精神が錯乱しているらしい。
ミコネはヨミを抱えたまま、あわあわと見回した。
「ど、どうしよう……」
スイッ、とセラが進み出て、ヨミの額に手を当てた。
「ヤバわよ。とりあえず、応急処置しましょ」
「待機小屋に、氷とスポドリを用意してるでゴザル!」
「頼んだわ、マツリ。
クーラーや病院は本土に行かないと無いから、
応急処置しながら、船で帰るしかないわね」
「えっ……でも、片道2時間あるんですよねッ!?」
そんなに長時間をかけてたら、
容態が悪化してしまうかもしれない!
ミコネが慌てていると、セラは「あ」と言った。
「そういや、アンタには言ってなかったわね……」
「な、何をですかッ!?」
「ここ、かだす島じゃないのよ」
え。
「え?」
かだす島じゃ、ない?
「それって、どういう……」
「榎木田財閥《アタシん家》が持ってる私有地。ホントは無人島なのよ、ここ。本土までは30分もあれば着く……行きの時は、沖の方をグルグル回るようにして時間を誤魔化してたし、島に着いてからは、本土側が島に隠れるようにして見えなくしてたけど」
「えっ、じゃあ途中にあった集落は――?」
「映画用のオープンセットね。今度、ウチが出資してる映画会社が因習島ホラーを撮影するってんで、いかにもな集落を建ててたから。利用させてもらったのよ」
いくらなんでも、スケールがデカすぎる。
もはや『怪異模倣案件』というか、ドッキリだし……
水曜日のダウ〇タウンよりも、お金がかかってそう!
「あ、あたし一人を騙すために……
みんなで、そこまでしてたんですかッ!?」
「そうわよ。もしもアンタが殊能ヨミなら、島民が一人も出てこなかった時点で、きっとピンと来てたはず。まァ、ミコネもまだまだってことね」
無茶を言わないでほしい。
そんなトリック、いくらなんでもわかるわけないッ!
「嘘が……おっきすぎるよぉーーーーッ!」
ちなみに。
この後、ヨミちゃんは無事に助かりました。
(エピローグへ続く)




