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怪異撃滅クラブ  作者: 秋野てくと
連結封鎖領域【カダス・アイランド】撃滅戦
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43/46

第五の錠前解明獣【深棲海獣ダゴン】

「――そう。おかしいと、思ってたッ!」


引っかかるのは、第二の謎。

ドッペルゲンガー……ミコネ自身の死体。


死んでいたミコネの服装は――



☆☆☆


半袖よりも短い、

フレンチスリーブのなめらかなシャツに――

ちょっと背伸びして買った、

足長に見えるというハイウエストのジーンズ。

足元はカジュアルなスポーツサンダル。


☆☆☆



「ヨミちゃん達には内緒で買った、

 とっておきのコーデ。

 でも――

 【偽相獣ドッペルゲンガー】の事件を

 成立させるためには、

 その情報を、

 怪異撃滅クラブが知ってなきゃいけないッ!」


ミコネは考える。


――つまり、共犯者はもっといるんだ。


連結封鎖怪異を構成する要素は、怪異撃滅クラブや、秋野ビストだけに限らない――おそらく、秋野ビストが協力しているのも、ミコネが関わった事件の関係者なのだから――そう考えれば、共犯者となり得る人物の候補が推測できる。



()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



マツリやセラにも内緒にして、

服を買う相談をしたのは……

隣のクラスの友達。


「(彼女とは……()()()()()()を通じて仲良くなった)」



★★★


夏休みに入って、すぐ――

ミコネは友達と二人で、古着屋を訪れていた。


「ほ、本当に似合うかな……?

 ちょっと、男の子っぽくないッ!?」


「ミコネっちって、

 けっこーイケ寄りの顔してっからさ。

 大丈夫、大丈夫♪」


鏡の前で、ミコネのコーデを確認しているのは、

鮮やかな赤毛の髪をシニョンにまとめた少女。


ミコネの肩に手を置いて、少女は微笑む。


「にひひ。

 これなら、ヨミっちもメロつき間違いなし!」


「メ、メロ……!?

 よくわかんないけど、信じるね……ッ!」


心配なのは、値段である。

ミコネは、おそるおそる値札を確認した。


「これ、中古なのに、結構するッ!?」

(ちょっと、予算オーバーかもだ……ッ!)


赤毛の少女は、腰に手を当てた。


「私に任せてっ!

 ここ常連だし、言えば値切りしてもらえるから!」


「やった、助かるー!

 値切りとかって、本当に出来るんだ。

 すごいね、()()()()()()()()


ふふん、とホノカは誇らしげに言う。


「ミコネっち、忘れちゃった?

 私、これでも……

 1万円のパズルを、三割引きにした女だよ?」


★★★



ミコネと同じ、私立御簾川(みすかわ)高校の一年生。

竜胆りんどうホノカ――!

彼女も、この領域に鎮座する守護者の一人。


「ヨミちゃんの提示した謎を、撃滅するよ――

 対象は【偽相獣ドッペルゲンガー】ッ!」



Q:ミコネの推理では、

  セラはミコネと同じ格好をしてた。

  でも、怪異撃滅クラブのメンバーは、

  ミコネの服装を当日まで知らなかったはず。

  どうやってコーデを用意した?



「《錠前解明獣ロックド・ビースト》の構成要素に、ファクターを追加ッ!

 追加するのは、竜胆りんどうホノカ。

 あたしに服を選んでくれた、

 ホノカちゃんも共犯者だった――

 だから、セラ先輩はあたしに変装できたんだッ!」


ヨミが再構成した錠前ロックは、再び、撃滅される。


ミコネの姿をした、死体の幻影が消え失せる。


怪異撃滅ディセクトを続けるごとに、

ミコネは”かだす島”の真実に近づいていく。


「(この島は……そもそも、何なんだろう?)」


銀髪の少女――ヨミは、

苦しそうに表情を歪めて、言った。


「ミコネ……っ!

 お願い、信じて……!

 死後の世界は存在する。

 本物の怪異は、この島にあるのっ!」


「――ごめん、ヨミちゃん。

 あたし、これ以上、見たくない。

 ヨミちゃんが……、

 あたしのために、傷つくのをッ!」


「――――ッ!」


「だから終わらせるッ!

 続いて、【再生獣アーキテクト・リボーン】ッ!」



Q:ミコネの推理では、

  ビストは変装してテクトになりすましていた。

  でも、見た目は若くてもビストはオバさん。

  ミコネ以上のスピードで追いかけまわしたり、

  海岸にまで誘導できたのはどうして?



「オ、オバさん……!?」とビストは白目になる。


申し訳ないが、これはヨミの言ったこと。

それに、確かにあの身体能力は異常だった――



☆☆☆


斜め前方、まだ距離はあるように見えるが――

遠くの方から、恐ろしいスピードで走ってきた。

目視だけだが、距離の詰まり方が尋常ではない。


☆☆☆


走って距離を離しては、別方向から制服姿が飛び出す。

逃げたはずが前を塞がれ、方向感覚は壊れて――

ひたすらに闇に突っ込んでいく。


☆☆☆



とにかく、速い――だけじゃない、あの感じ。


もしかしたら、秋野テクトは二人いた?


「最初に現れたテクト先輩は、間違いなくビストさんだったと思う。でも、それ以降に現れたテクト先輩は、走ってたからよく見えないし、森の中は暗かった――ビストさんほどにそっくりじゃなくても、あたしは気づかなかったかもしれないッ!」


以前に、ヨミに聞いたことがある――日曜日の朝にやってるヒーロー番組では、アップの撮影に使う「接写用スーツ」と、アクションに使う「アクション用スーツ」があると――「接写用スーツ」は見た目のクオリティが高い代わりに動きづらく、逆に「アクション用スーツ」はアップの撮影には使えない代わりに動きやすい、とか。


【再生獣アーキテクト・リボーン】の場合。

「接写用の秋野テクト」と、

「アクション用の秋野テクト」がいたと仮定できる。


「接写用の秋野テクト」を担当したのは秋野ビスト。

見た目は瓜二つだが、派手には動けないのだろう。


「(当時、マツリちゃんは、お母さんのメイクをして海岸に待機してた……)」


無明むみょうマツリを【クロノ・アル】に使ったとすると――ここで「アクション用の秋野テクト」を担当できるほどの身体能力を持つ、事件関係者は――ミコネには、一人だけしか思い当たらなかった。



★★★


ある放課後のこと。


久々に会う友達と待ち合わせて、

ミコネは評判のクレープ屋を訪れていた。


「見て見て! ブルーベリーミントアイスバターチーズのクリーム増量ッ!」


「うわっ、カロリーヤバそう……」


亜麻色の髪をした、短髪の少女――

手計てけいリリは苦笑いする。


「えーっ、じゃあリリちゃんは?」


「私? サラチキクレープ。

 油分は天敵だから。

 これでも、真面目に走ることにしたんだし」


「そ、そうだったッ!」


「でもさ。これ、ネットですごい人気らしいよ。

 サラチキなのに、美味いってやばくない?」


それは、ちょっと偏見である。


「サラダチキンだって、美味しいのはあるよ……ッ!」


ミコネとリリは、近くのベンチに腰掛ける。

はむはむ、とクレープを食べながら、リリは呟いた。



「……全部、ミコネのおかげだよ」



「えっ」


淡い藤色のリボン――

白色のオーバーブラウス――

丈の長い黒のスカート。


私立島令(しまれい)女子高等学校の制服を着たリリは、

右足をさすりながら、ミコネに語りかけた。


「こうやって、ヘラヘラできてるじゃん。

 ミコネがいなかったら、私、今頃どうなってたか」


「あたしは、何もしてないよ!?

 事件を解いたのは、ヨミちゃんだし。

 犯人をやっつけたのは、マツリちゃん。

 そうだ、リリちゃん、聞いてッ!

 マツリちゃん、すごかったんだよ。

 あたしを抱えて、ビューンって飛んで……」


「事件は、そうだけどさ」


はむ、と。

リリは、クレープを口にする。


「私を助けてくれたのは、ミコネなの」


★★★



隣町にある、島令高しまれいこうの一年生。

手計てけいリリ――!

彼女も、この領域に鎮座する守護者の一人。


「リリちゃんは、陸上をやってる……ッ!」


本来のスペックをセーブして走っても、ミコネを追い立てることなど容易説が立証できる――こと走る行為においては、マツリをも凌駕するかもしれない。


「《錠前解明獣ロックド・ビースト》の構成要素に、ファクターを追加ッ!

 追加するのは、手計てけいリリ。

 テクト先輩に変装したリリちゃんこそ、

 森の中で襲いかかってきた、怪異の正体ッ!」



【再生獣アーキテクト・リボーン】、再撃滅ディセクト



次々と撃滅されていく怪異。

領域の中心に立ちミコネを迎え撃つヨミは、

その戦力を段々と減らしていった。


「……ホノカや、リリが。

 私に協力した、根拠は……薄い、かも。

 ミコネが言っているのは――

 そう考えれば筋が通る、っていうだけの……」


「もう、いいっしょ。ヨミっち」

 と、割って入る者がいる。



声の主は――


「ホノカちゃんッ!?」


「ミコネっち、やるじゃん♪

 もう、完全に怪異撃滅クラブっぽいねっ」


そこに現れたのは、竜胆りんどうホノカだった。



脇から、手計てけいリリも出てくる。


「ミコネ、意外と足早かったからさ……

 ちょっと、やる気出ちゃったかな」



まさか、この島で二人に会うとは思わなかった。

ミコネは、「あっ」と気づいて言う。


「リリちゃん、あんなことしちゃ、ダメだよッ! 暗い森で走るなんて……リリちゃんは陸上選手だし、もしも怪我でもしたりしたら、大変なんだから……ッ!」


「まぁ、ねー。でも、私がヨミに志願したんだ。

 ミコネのために出来ることがあるなら、って」


「志願、って……ッ!?」


一体、いつから進行していた計画なのか。

怪異撃滅クラブだけじゃ、ない。

どれだけの人を巻き込んだ計画だったのか――


ここに来て、ミコネは思い当たることがあった。


「(もしかして……ッ!)」



【なぜ●●●●〇〇〇は作られたのか?】



ミコネがずっと引っかかっていた謎に、

はっきりとした答えが与えられる気がする。


もう少し。

そのために、怪異撃滅ディセクトを続行するッ!



Q:【鏡面獣スフィンクス】について。

  ミコネの推理では、

  私は小屋で死体のフリをしてた。

  なら、海岸まで先回りできたのは何故?



共犯者を無制限に使っていいなら、これは謎じゃない。


「第三者の協力で説明可能ッ!

 自動車による運搬――

 あるいは、ヨミちゃん自身が自転車などで移動したッ!」


自転車、と口にしてミコネは思い当たった。


そういえば『くれくれさん』の事件で、『くれくれさん』の正体を突き止めるために、自転車部に協力してもらったことがあった――も、もしかして。


チリンチリン♪とベルを鳴らす音がする。


現れたのは、自転車部の女の子だった。



「なんだか、自白の流れっぽいので便乗しますわっ!

 ヨミ様を運んだのは、わたくし。

 二ケツ(二人乗り)して、海岸までゴーでしたの!」



「そうだったんだ……。

 え、でも、どうして協力してるの?」


ホノカやリリについては、想像がつくものの。

この子とは面識が薄いので、本当にわからない。


自転車に乗ったまま、女の子はニコリと笑った。


「お姉さま(マツリ)に頼まれましたのーっ!

 とりあえず、

 旅費は負担してもらいましたわーっ!」


「旅費以外の負担がデカいよーーーッ!?

 うん、なんか、ごめんねッ!?」


これで残る謎は、一つだけ。



Q:【深棲海獣ダゴン】――

 島神様。あれは、怪異以外の説明がつかない。



「あたしも、びっくりしちゃった。

 初めて見る、怪獣……本物の怪異かも、って」


全ての手札を撃滅されて――

共犯者を全て失って――

それでも、目に宿す澄んだ闇を抱えて。


ヨミは息を絶え絶えにしながら、答える。


「本物の怪異かも、じゃない!

 ミコネの見たとおり、あれは本物の怪異……っ!」


「気になる点が、二つ。

 一つは海岸に現れた霧。

 霧は、いきなり現れたりしない――!」


あの霧は、人工的に生み出されたもの――

そう仮定すると、考えられる可能性がある。


()()()()()()()()()()()()()()――島神様が現れる直前、ぶおおお、って叫び声みたいのが聞こえたよね? あれはコンプレッサーみたいな装置の、起動音だったんじゃないかな。特殊な液体を空中にばらまくことで、霧を作り出してたッ!」


「くっ……!」


「きっと、音楽ライブや舞台の演出に使う大型の機械を用意したんだッ! それを洋上に浮かべた船の上で起動して、霧を作った――じゃあ、その目的は?」


ミコネが気になる点は、もう一つある。

怪獣が現れたときに――

()()()のようなものが、ちらちらと空中に見えていたのだ。


()()()()()()()()()()()()()。大きいビルとかの立体に映像を投影する技術――あたしが見たのは、投影されていたレーザービームなんだと思う。洋上に発生した霧に怪獣の映像を映して、それをアニメみたいに動かすことで、巨大な怪異にしか見えないような幻影を作ってた――これが【深棲海獣ダゴン】の正体だよッ!」


ミコネの頭の中にも、発想としてはあった。

推理から除外していたのは――

あまりに大規模かつ、高度な技術が必要となるため。


でも、専門的なスキルを持つ共犯者がいるなら話は別だ。



考えられる共犯者は、二人。


「一人は動画配信者の羽住はずみイサキさん。

 プロの配信者であるイサキさんなら、

 そっちの業界に、顔が広いと思う。

 ミストマシーンや、

 プロジェクションマッピングの伝手があるはずッ!」


『さぎり駅』の事件では、VRデスゲームに巻き込まれた参加者の一人として、ミコネやマツリとミステリーゲームで対戦することになった人である。


イサキの本業は怪談系配信者。

怪談の雰囲気を出すために、

スモークの演出などは普段から使っていた。



「もう一人は、

 元インフルエンサーの江藤えどうマイヤちゃん。

 マイヤちゃんはUFOや宇宙人を捏造することで、

 これまでずっと世間を騙すことに成功してた――

 そこには、きっと映像のトリックもあったはず。

 巨大な怪異を生み出したトリックは、

 マイヤちゃんの協力の元で作ったんじゃないかな?」


『UFO』事件で知り合った、キャラの濃い美少女。


マイヤに関しては、ちょっと怪しいが。

ここまで来たら、彼女がいない方が片手落ちな気がする。



そんな、当て勘半分のミコネの推理は――

見事に、的中した。



「やれやれ。

 船から戻って来てみたら。

 どうやら、全部終わってたみたいだね?」


「ミコネちゃん!

 元インフルエンサーの「元」は余計なのですっ!

 ボクはまだまだ、

 フォロワー140万人のインフルエンサーなのですよ!」



塩顔で清潔感のある青年と、

桃色の髪をした奇妙な恰好の美少女。


「イサキさん、マイヤちゃん。

 お久しぶりですッ!」


羽住はずみイサキと、江藤えどうマイヤがそこにいた。



「きゃっ」と小さく叫んだのは、無明むみょうマツリ。

その視線は羽住はずみイサキに注がれている。


「(そういえば、マツリちゃん、ファンなんだっけ……)」



一方で、マイヤの方はセラの方をちらちら見ている。


「何わよ」


「な、なんでもないのですっ!

 セラの方こそ、こっち見んな……なのです」


「あァ!?」


マイヤが向ける、熱い視線――

どうやら、あそこはあそこで矢印があるらしい。


「(へぇーーー!)」



これで、役者は揃い踏みとなった。



殊能しゅのうヨミ。

無明むみょうマツリ。

榎木田えのきだセラ。

竜胆りんどうホノカ。

手計てけいリリ。

自転車部の子(誰?)。

秋野ビスト。

羽住はずみイサキ。

江藤えどうマイヤ。


全員、犯人。



【《連結封鎖怪異チェイン・ミステリー》カダス・アイランド】――

複雑きわまる謎は、ことごとく撃滅された。


錠前解明獣ロックド・ビースト》は屍を残すのみ。


推理作家である母が言っていたことを思い出す。

ミコネは、指を三本立てた。


「キーワードは三つ。

 これは、ミステリを構成する三つの要素ッ!」


ミステリの構成要素――

フーダニット、ハウダニット、ホワイダニット。


誰が、やったのか――

フーダニットは、全て示された。


どうやって、やったのか――

ハウダニットについても、同じく。



残る謎は、ホワイダニット。


――()()()()()()()()



「ヨミちゃん。

 あたしの推理を、聞いて」


ミコネは踏み出す。

ヨミの心の中にある、柔らかい闇を抱きしめるように。


「ミコネ……わ、私……」


「ヨミちゃんに、もう、そんな顔させたくないんだ」


ミコネは、ヨミと相対する。


最後に残された謎に、決着を着けるために。

曰く――


【なぜ怪異撃滅クラブは作られたのか?】

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