第二の錠前解明獣【偽相獣ドッペルゲンガー】
第二の謎――
ミコネの目の前で死んでいたミコネ自身。
ドッペルゲンガー、という妖怪を思い出す。
自分と同じ姿をした、もう一人の自分。
ウワサでは、ドッペルゲンガーを見てしまったものは近いうちに死んでしまう……という話だ。
新たな《錠前解明獣》に、ミコネは挑む!
手にする論理武装は、第一の謎でも用いた手がかり。
「”死因の不一致”ッ!
あたしはナイフで胸を突いて死んだ。
なのに、あたしの死体は背中から刺されてたッ!」
背中からナイフで刺されたミコネの死体は、うつ伏せとなって倒れていた――これでは、顔を見ることはできない。つまり、犯人の狙いは顔を隠すことにあるッ!
「ミステリでは定番の要素――
”顔のない死体”だよッ!」
そして、うつ伏せになって隠せるのは顔だけじゃない。
犯人が隠したかったのは――胸だ。
「あたしの死体に化けてた人物は、あたしと同じくらいの背格好で、かつ、仰向けに倒れていたとしたら、一発であたしじゃないとバレてしまう人。つまり、犯人が隠したかったのは――ッ!」
☆☆☆
ミコネが頭をうずめると、
同じくらいの大きさの弾力が押し返した。
ふわっ、ふわっ、ふわっ。
「セラ先輩って……ほんと、やわらかいですッ!」
☆☆☆
セラ先輩のおっぱい――
略して、セラぱい。
「セラ先輩ッ!
あたしに変装してたのはセラ先輩ですねッ!」
「なァ……ッ!?」
ミコネが指した新たな犯人は、
怪異撃滅クラブの知恵袋――榎木田セラだ。
「もしも、仰向けに倒れてたら……
立派な二つのメロンで、一瞬でバレるッ!
そのために、うつ伏せに倒れる必要があったッ!」
☆☆☆
「(デッカい……!)」
「ミコネ殿?」
「え、ええと! マツリちゃんはスタイル良いなぁ、って! 何を着ても似合いそうでうらやましい。……あたしってば、肩幅も無いし、ペタンコだし……」
☆☆☆
「そうだよ……あたしの貧相さは、
あたしが一番よく知ってるんだから……ッ!
そうですよね、セラぱいッ!」
セラは慌てた様子で反論する。
「は、はァ!? アタシがミコネに変装してた、ですってェ!? ありえないわ。何を根拠に言ってんのよ!」
「ヨミちゃんの死が狂言であった以上、小屋のすぐ外にいたセラ先輩も共犯だと考えなければ、つじつまが合いません。ヨミちゃんのバラバラ死体……あれだけの大作業を、セラ先輩に知られずに実行するのは不可能ですッ!」
「…………ッ!」
「セラ先輩が壁越しに話してたとき……あたしと同じ格好、あたしと同じ髪型に見えるウィッグを付けて、既に成りすます準備は終わってた。あたしがヨミちゃんの死体を見て足を止めてる隙に、小屋の中に入って死体を演じた……違いますかッ!?」
「ええと、それはその、ねェ……」
セラはちらちら、とヨミに目線を送る。
ヨミは髪をかき上げて、ため息をつく。
「……はぁ。選手交代する。
セラには荷が重い……かも」
「お、お願ァい!」
パン、とバトンタッチしてヨミが前に出た。
「ミコネの推理には穴がある……かも。仮に、セラがミコネの死体のふりをしていたとして、どうやってミコネに知られずに小屋の中に入ったの……?」
「それは……ッ!」
あのとき、ミコネは自分の小屋の入り口に立っていた。
いくらヨミの死体に気を取られていたとはいえ、
知られずにこっそりと入るのは普通ならば無理だろう。
実行できるとしたら、気配遮断スキルを持つ者――
「(忍者なら可能かもしれないけど……ここでカードを切るわけにはいかない)」
忍者には、後でたっぷり働いてもらうのだから。
別の手段をもって、ここは解決したい。
ミコネが繰り出すのは、既知の怪物。
《錠前解明獣》を召喚するッ!
「『スフィンクスの魔術』を適用するよッ! あたしの小屋にもヨミちゃんの小屋と同じ、三つ足の机があった。あの机の下に鏡で隠された空間があったと仮定すれば、抜け穴を設置して室内に侵入が可能ッ!」
「……抜け穴なんて、ミステリでは邪道」
「ここは小説の世界じゃない。
そう言ったのはヨミちゃんだよねッ!」
「くっ……なら、確かめてみるといいかも」
ヨミは不遜な目つきで小屋を示した。
「ミコネが言うような抜け穴があるとしたら、短時間で痕跡を隠すことは不可能……気の済むまで、調べるといい」
「ヨミちゃんがそう言うなら、きっと、この小屋には抜け穴は存在しない……ってことだよねッ!?」
「その解釈でOK、かも。
ミコネの推理は、ただの空論」
「いいや、その謎は既に解けてるよッ!」
ミコネは、傍で様子を見守るセラとビストに質問する。
「セラ先輩、ビストさん。
このあたりで、何かを拾ったりはしませんでしたか?」
これは最後確認だ。
言い逃れをさせないための布石。
「何も……拾ってはないわよ。ねェ?」
「右に同じ、と言っておきます」
予想通りの答えだった。
これで、第二の怪異は撃滅できるッ!
☆☆☆
ミコネは、ポケットの中で手を握る。
手には、硬い感触を感じた。
☆☆☆
ミコネがポケットから取り出したもの――
それを見て、ヨミは呟く。
「キャンディ……?」
「小屋に入る前に、ヨミちゃんにあげようとしたよね……あのとき、ヨミちゃんは受け取らなかったけど。小屋の中で、あたし自身の死体を見つけたときに、あたしはポケットからキャンディを落としておいたんだ。目印のために」
「まさか……ヘンゼルと、グレーテル」
ヘンゼルとグレーテルの物語。
魔女の家に向かう二人は、目印として森にパン屑を置いていた。
パン屑は、森の生き物に食べられてしまうのだけど……
「あたしのキャンディは個包装。
勝手に食べられたりはしない……
でも、どこにもキャンディは無かったッ!」
つまり、この二つの小屋は、
自分たちが偽死忌をした小屋じゃないんだ。
「小屋は二つじゃない、
四つあったッ!
ここに来るまでの道中は、
ビストさんの案内で来た――
さっきも、そう。
まったく別の小屋に案内されたんだよ。
そう考えれば、
セラ先輩が侵入した仕掛けの存在や、
ヨミちゃんの小屋にあったはずの、
”血のり”の問題も解決できるッ!」
短時間で床にばらまかれた血のりの痕跡を消す方法――
それは、よく似た別の小屋に案内することで成立する。
【鏡面獣スフィンクス】
【偽相獣ドッペルゲンガー】
二体の《錠前解明獣》を、同時に撃滅ッ!
「これが、あたしの推理だよッ!」
当然ながら、秋野ビストも共犯。
いや――
「犯人は、全員。
そうなんだよね、ヨミちゃん?」
「ミコネ……ッ!」
あたしは秋野ビストに狙いを定めた。
「ビストさん」
「……受けて立つ、と言っておきましょう」
青みがかった髪を垂らす、魔性の未亡人。
この人が関わっている事件は、もう一つあるはず。
ミコネの目の前に現れた、死んだはずの人物。
次なる怪異の名は――
【再生獣アーキテクト・リボーン】!




