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怪異撃滅クラブ  作者: 秋野てくと
第一章「死を呼ぶ呪いのパズル『エミロム』」
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第二形態「鷹」

夕暮れの街を抜け、御簾川みすかわ高校から北へ10分。

竜胆りんどうホノカはマンションの一室に住んでいた。


ピンポーン。


チャイムの音に続いて扉が開く。

現れたホノカは見るからに顔色を悪くしていた。


ミコネは事前に連絡していたとおりに自己紹介する。


「ホノカちゃん、こんにちは!

 あたしは1組の玄野くろのミコネ。

 こっちはヨミちゃん。パズルの件でお話を――」


「具合。相当、悪そうかも……頭が痛いの?」


ヨミの問いかけに、ホノカは頷いた。


「別に頭痛持ちってわけじゃないんだけどね。

 めまいや立ちくらみもするし……。

 しんどくて……学校も休んじゃった」


頭を抑えるホノカの様子を見て、ミコネは言った。


「ごめんね、つらいときに押しかけちゃって!

 やっぱりLINEで済ませた方が良かった……?」


「ううん。私も誰かに会って相談したかったから。

 怪異撃滅クラブ、だよね?

 あのウワサの、さ」


ホノカは意味深な笑みをした。


あのウワサ、がろくでもない内容なのは想像できる。

それでもわらにもすがりたい気持ちなのだろう。


怪異撃滅クラブが――

これまでに『怪異模倣案件モキュメント』を解決してきたのは事実なのだ。


もっとも。

ヨミは怪異撃滅クラブの部長ではあるが――


「(あ、あたしの方は帰宅部だって言いづらい……!)」


ホノカに案内されて、

ヨミとミコネは室内に入っていく。


「……学生向けのワンルームマンション。

 窓の外はブロックべいでカバーされてるし……。

 1階だけど、防犯的には問題なさそう…かも」


「防犯って?」


「パズル――エミロムは、

 ホノカがいじらなくても勝手に変形した……」


「そっか! 誰かが忍び込んだのかもしれないんだ!」


二人の話を聞いて、ホノカはコクリ、と頷いた。


「心配になって、私もマンションの管理人さんに言ったんだよ。エントランスの防犯カメラを見せてもらったけど、パズルが変形した夜には、不審な人物は誰も映ってなかったんだ。窓もきっちり戸締りしてたはずだし、誰かが侵入してパズルをいじったってことは無いと思う。それに……」


ホノカは机の中から金属製の物体を取り出した。

ミコネは「えっ」と息を呑む。


「ホノカちゃん。

 これ、エミロム……!?」


「そうだよ」


「ウワサだと『熊』って聞いたんだけどッ!」


金属の像は大きく翼を広げていた。

これって……まるで、鳥!?


「ミコネ。私は言ったはず……。

 エミロムには第二形態が存在するって。

 『熊』から『鷹』への形状変化――」


「今朝起きたら、急にこうなってたの。

 彼氏に電話したら捨てろって言われちゃった」


あれ? ミコネは引っかかるものを感じた。


「ホノカちゃんの彼氏さんって、新しいものとか、珍しいものが好きなんだよね? エミロムにも興味を持ってた、って話を聞いたけど」


「うん。最初は面白がってたんだけど、パズルが勝手に変形したことを伝えたら急に態度が変わって。それからずっと「捨てろ」「捨てろ」って不気味がってる」


呪いのアイテムかもしれない、と聞けばそうもなるか。

ミコネはうなずく。


「それはまぁ彼氏さんの言うとおりかー。っていうか、そうだ、ホノカちゃんは何でまだエミロムを捨ててないの!?」


「えっ。だって、こういうのって……捨てても帰ってきたりしそうじゃん。変に呪いが強くなったりしそうだしさ。だから捨てるのも微妙かなって思って……」


「なるほどね!」


「それに……6500円もしたし」


「高くない!?」


「いや、元は1万円だったの。そりゃ高すぎだって店のおじさんに言って値切って、なんとか6500円にまけさせたんだよ、すごいでしょ!?」


「すご! 3割引きだねッ!」


ああいうのって本当に値引きされるものなんだ、

とミコネは感心した。


値引きしても尚、高い気がするけど……。

スーパーで半額シール前提で売られてる和牛みたいな。


「そういえば、ヨミちゃんは何してるんだろ」


「見て見て、ミコネ。

 面白いかも……これ、何かわかる?」


ヨミはキッチンで銀色の棒を持っていた。


「えっ、何それ何それ!」


「低温調理器。これを水につっこむと、水が低温になるから、茹でたばかりのうどんやそうめんをキンキンに冷やすのに便利……かも」


「へぇー!

 じゃあ、氷水を用意しなくていいんだねッ!」


ヨミはにへへ、と笑う。


「嘘。本当はローストビーフとかサラダチキンをねらった温度で加熱するためにあるやつ。うちにもある。肉のタンパク質を変性させずに低温で調理できるから、しっとりと……柔らかく……ジューシーにできる。ミコネにもごちそうしたよ?」


「なぁんで嘘つくのーっ!?

 そういえばヨミちゃんのローストビーフ美味しかったぁ!」


言われてみると――

ホノカの部屋には見慣れないものがいくつもあった。


「ホノカちゃん、あの丸いのは?」


「ロボット掃除機。勝手に掃除してくれるのはいいんだけど、床にモノを置けないから結局は自分で掃除してないといけないんだよね」


「ホノカちゃん、あの四角いのは?」


「IoTリモコン。エアコンとかTVのリモコンをスマホで使えるようになるやつで、あれがあると寝る直前までスマホ使えるから便利だよ。よく導入がわからなかったから設定は彼氏にやってもらったけど」


「ひょっとして……全部彼氏さんのプレゼント?」


「そうそう。こういうのも好きなんだよね、アイツ」


「新しいもの好き、

 珍しいもの好き、ってそういうことかぁ!」


と、そこに突然スマホの着信音が響いた。


「ホノカちゃんの電話かな?」


「あー……またイタ電だよ、きっと」


ホノカは「非通知」の画面を見て着信を切った。


「ここ数日、多いんだ。電話に出ても変な声で「パズルを捨てろ」みたいなこと言ってくるだけで……きしょいから無視してる」


「パズルを、捨てろ……?」


ミコネは不思議に思った。


「(それって、あの人と言ってることが同じ……?)」


「きっと、私のウワサを聞いた誰かがイタズラしてるんだと思う。これ聞いたら、ますますパズルを捨てるのが嫌になってさ」


「いいや」とヨミがきっぱりとした声で言った。


「ホノカ。パズルは捨てた方がいい」


ぴりぴりぴり、

と音を立ててヨミはガムテープを引っ張った。


「貸して、ホノカ」


「えっ、うん……」


ホノカから「鷹」に変形したパズルを受け取ると、ヨミはガムテープでパズルをグルグル巻きにし始めた。


ヨミの奇行に、ミコネも困惑する。


「ちょっと、ヨミちゃん!?」


「ミコネ、大丈夫……。

 呪いを遮断しゃだんして、ホノカから遠ざける。

 エミロムの呪いは……これで解けるかも」


「そう、なの……?」


ホノカは「ガムテープでいけるんだ……」と呟いた。



――その後。



「お邪魔しましたー!」


ミコネとヨミはホノカのマンションを後にした。


「ホノカちゃん、大丈夫かなぁ」


ミコネの呟きに、ヨミは答えた。


()()()()()()()()()()()()……少なくとも、今晩は問題なし。ホノカも明日には病院に行く、って言ってたし。不幸中の幸い……今がまだ6月で良かったかも」


「6月って?」


「ホノカの体調不良は……呪いじゃないよ」


ヨミはガムテープが巻かれたエミロムを手に取る。

びりびりびり。


「ヨミちゃん、それ剥がして大丈夫なの!?」


「さっきのはホノカを安心させるために言っただけ。

 病は気から、っていうし……。

 つまりは、嘘」


「ヨミちゃん、それは嘘じゃないよ。

 思いやり、でしょ?」


「……そうとも言う、かも」


ヨミは『鷹』と化したエミロムを眺めて、言った。


「帰ったら実験しとくね、ミコネ。

 パズルが変形する条件が特定できれば……

 『怪異模倣案件モキュメント』の正体を暴ける」


「もしかして……もう謎が解けたの!?」


ヨミは指を三本立てた。


「キーワードは三つ。

 『ホノカの症状』、

 『新しいもの好きの彼氏』、

 そして『パズルの名前』――」


「んん? パズルの名前って!?」


「ホノカの彼氏、アナグラムが好きなのかも」


アナグラム――

文字を入れ替えて別の言葉を作る遊びのことだ。


指を一本ずつ折り、ヨミは拳をにぎる。


「あとは撃滅するだけ。怪異撃滅クラブの本分」


ヨミの白い肌に灯る熱を、パズルの金属面が映していた。

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