一番列車「異界駅」
「立川~立川~。
青梅線・南武線はお乗り換えです」
JR中央線の下り快速は、
終点となる立川駅に到着した。
東京都西部・最大の繁華街、立川。
休日の昼間ということもあって、人であふれている。
リュックサックを背負った家族連れや、老夫婦も多い。
おそらくは、近郊の高尾山や御嶽山への観光客だろう。
車内アナウンスの軽い声に合わせて、
無明マツリは網棚からリュックを下ろす。
「ミコネ殿、乗り換えでゴザル!」
「はーいッ!
マツリちゃん、すごい荷物だねッ!」
ミコネが手にしたのは小さなトートバッグ一つ。
対して、マツリの方は登山に行けるような大荷物だ。
「備えあれば憂い無し、でゴザルよ。
食料は七日分。ミコネ殿の分もあるでゴザルッ!」
「たしかに……それだけあれば、安心だったかも」
――とはいえ、だ。
もしも、迷ったなら「七日」では済まないのかもしれない。
二人は立川駅のホームを駆け上がり、
青梅線へと乗り換える。
目的地は奥多摩方面――ではなかった。
ミコネとマツリの目的は「さぎり駅」。
この世界には存在しないとされる、異界の駅である。
☆☆☆
「異界駅、ですか?」
「そうわよ。異世界系都市伝説の定番ねェ……。
アンタも聞いたこと、あるんじゃない?」
ミコネがマツリと調査に向かう、前日のこと。
放課後――怪異撃滅クラブ、部室にて。
怪異撃滅クラブの生き字引、元オカルト研究会・会長である”歩く大図書館”こと榎木田セラは、門外不出の怪異蒐集秘録のデータを共有した。
スマートフォンで検索するタグは「#異界駅」。
怪異蒐集秘録を手元で開くと、
ズラッと並んだ項目の多さにミコネは驚いた。
「うわッ! いっぱいあるーッ!」
「にひひ、いっぱいあるわよぉ。中でも、一番有名なのは、遠州鉄道の新浜松駅から行けるっていうアレかしらね」
セラは項目の一つを指で示す。
項目の名は――『きさらぎ駅』。
「静岡県の……あっ、あたしも知ってます!」
「映画にもなったしさァ。遠州鉄道に実在する『さぎの宮駅』が元になったとされてるけど、これと似た異界駅の逸話には『つきのみや駅』なんてヤツもあるわ」
「なんだか、名前が似てますねッ!」
「他にも『かたす駅』や『やみ駅』……あとは『ごしょう駅』なんてのも。ああ、でも最後のやつは本当に『ごしょう駅』なのかわからないのよね。怪談の中では「『ごしょう』が最終地点です」としか言ってないから、実際は『ごしょう』かも」
「『ごしょう』って?」
「後生。つまり、あの世に行くってことじゃない?」
セラによると、異界駅にはいくつかパターンがあるものの、おおむね物語として共通する内容がある――それは、影のような人がいたり、あるいは誰もいなかったりと、『この世のものとは思えない駅』に降り立つというものだった。
「アンタが見つけた『さぎり駅』のウワサ。
確かめてみる価値はあるかもね?」
☆☆☆
ミコネは、先日の事件を思い出す。
蒼龍館で起きた殺人事件で、犯人はミコネに言っていた――
「(この世には……死者と生者が交わる場所がある……って。それって、もしかして……『さぎり駅』のような、異界のこと?)」
「ミコネ殿?」
ミコネは傍らに立つマツリに問いかける。
「ねぇ、マツリちゃん。
異界駅が、本当にあったとしたら……
そこでは、死んだ人と会うことができるのかな?」




