『高い城の女』
いつも『怪異撃滅クラブ』を読んでくれて、ありがとうございます。
秋野てくとです。
作者ということになってます。
本日の舞台は、
都内某所のイギリス風パブチェーン店にて。
「死んだーッ!?
え、てくと先輩が死んでるーっ!?
なァんでぇ!?」
「いやー、どうせ犯人やるなら、一回やってみたかったんですよね。探偵に謎を解かれて、毒をあおるタイプの犯人♪」
「やだーーーっ!
死なないで、てくと先輩ッ!」
「大丈夫、私は死にましぇーん」
お酒が回ったせいで、ろれつが怪しくなってます。
最新話のテキストを巫女音ちゃんに読ませつつ、私は注文したばかりのサングリアをジュースのようにグビグビと飲んでいました。
私たちが私立御簾川高校に通っていた頃から、7年の月日が経ちました。
この私、秋野てくとが「まだ女子高生だった頃の話」を小説として書いてくれないか――という話を巫女音ちゃんから聞いたのは、つい先日の話のことです。
「最初は気が引けましたけどね。聖良さんとは幼馴染だから付き合いが長いですけど、茉莉ちゃんや黄泉ちゃんとは当時は絡みが少なかったですし。そうは言っても同じ学校ですから、怪異撃滅クラブの大暴走……いや、ご活躍については、人づてに聞いていましたが」
基本的には、みんなから貰った当時の体験談をベースにしています。
「でもでも、てくと先輩ってば、ちゃんと小説になってますよッ!」
「一応は小説やってますからね、私」
アマチュアですけど。
この小説、上手いことウケたら書籍化しないかな?
「ところで、てくと先輩。あたし、あんまり理解してないんだけど……第三章って、結局のところ、どういうトリックだったの?」
「ええと、つまりですね。小説には『一人称視点』と『三人称視点』があるんですよ。『一人称視点』はその人の視点で物語を書いて『三人称視点』は神の視点で書く……みたいな?」
「へぇー!」
「巫女音ちゃーん、わかってないですよねぇ?」
「はーいっ!」
じゃあ、わかりやすく説明すると――
・『一人称視点』の場合
[ミコネはカルーアミルクを飲んだ。私はサングリアを飲んだ]
・『三人称視点』の場合
[ミコネはカルーアミルクを飲んだ。テクトはサングリアを飲んだ]
みたいな感じです。
「なるほどッ、わかった気がしますッ!」
「それで、これまでの第一章と第二章では、私は巫女音ちゃんを主人公にした『三人称視点』で書いてたんですけど……第三章だけは、私(秋野てくと)を主人公にした『一人称視点』で書きながら、そのことを読者には秘密にして、これまで通りに巫女音ちゃんが主人公の『三人称視点』だったように見せかけて書いたんです」
第三章では『一人称』の視点人物の正体は巧妙に隠されていました。
見分けるポイントとしては、私は聖良さんを「セラさん」と呼びますが、巫女音ちゃんは「セラ先輩」と呼ぶ――とか、一人称が「私」と「あたし」で違うとか、大体はそのあたりですね。
「それって、何の意味があるんですか?」
「こうやってややこしい書き方をすると、普通に読んだら、聖良さんと同じ客室にいるのは巫女音ちゃんだったように読めちゃうんですよ。そうなると、最後にやった黄泉ちゃんの謎解きで導かれる犯人は――なんと、巫女音ちゃんになっちゃうんです!」
★★★
【本当の真相】
・毒を手に入れることが出来た者、改め
ウイチグス呪法典のページを破ることが出来た者
[御堂ヒカル]
[榎木田セラ]
[秋野テクト]
↓これが
【偽・真相】
・毒を手に入れることが出来た者、改め
ウイチグス呪法典のページを破ることが出来た者
[御堂ヒカル]
[榎木田セラ]
[玄野ミコネ]
こうなっちゃいます!
★★★
「ずるーいッ! あたし、犯人じゃないですよッ!」
「ずるいですよね。こういうずるいトリックのことを、ミステリの世界では“叙述トリック”と呼ぶんです」
ややこしくなるし、読者も疲れるので。
第四章以降では、やらないことにしますね。
「ウイチグス呪法典。あのとき、黄泉ちゃんが先回りして撃滅してくれなかったら――小説と同じように、私は本物の犯罪者になってたかもしれません」
「てくと先輩……」
「”小説が書かれ読まれるのは、人生がただ一度であることに対する抗議である”――ウィリアム・シェイクスピアの言葉です。どうせなら、そういった『もしも』を書いてみるというのも面白いかと思いまして」
「なんか、小説家っぽいですねッ!」
――ん?
あれ、なんか気になることが。
スマホをポチポチしてみると――
「あっ、嘘つきました。”小説が書かれ読まれるのは、人生がただ一度であることに対する抗議である”はシェイクスピアじゃなく、ミステリ作家で有名な北村薫先生の言葉らしいです」
「な、なァんで嘘つくんですかーッ!」
「いや、これは勘違いです。大人は勘違いをするものですから……」
「あたしに嘘つくのは――
黄泉ちゃんだけで、充分ですッ!」
「今は、お二人でルームシェアしてるんですよね?
相変わらず、仲良しで……羨ましいなぁ」
こうして、東京の夜は更けていく。
お酒は飲めるようになったけど――
キーボードに向かうと、
いつでも御簾川高校に心がタイムスリップする。
巫女音ちゃん、黄泉ちゃん、茉莉ちゃん、聖良さん――彼女たちが大暴れした、怪異撃滅クラブの日々が蘇る。
その物語を、皆さんにもお届けしたくって!
私がするのは、その、お手伝い。
物語の世界での巫女音ちゃんは、まだ帰宅部だし――
あの島にたどり着くのも、
もう少し先の話だけど。
ひとまずは、彼女たちの冒険譚をお楽しみください!
Episode.Ⅲ…WICHIGUS GRIMOIRE End.
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