第2話 魅惑の香りの持ち主は?
翌朝のお話です。
窓の外が白みかけた頃に美穂子は布団から出て台所でお湯を沸かし、洗面器とタオル、新しい下着を用意した。
沸かしたお湯を水で埋めてタオルを浸し、布団を背中にシュミーズを脱ぐとギリシャの彫刻の様な白い肌が露わとなり、美穂子は自身を清拭し、昨夜の後始末を試みた。
そういう時に限って髭面のチン獣が目を覚まし要らぬ手を伸ばす。
「ちょっと!止めて!」
「昨夜とは随分態度が違うじゃねえか?!」
「当たり前でしょ! 私、これから会社なのよ! 昨日は銭湯にも行けなかったからお洗濯もできなかったし……今、着ている物も汚されたら本当に困る!」
「オレが汚す前にお前自身が汚すんじゃねえのか? こうすれば……」
この不埒な言葉と手の動きを美穂子はパシリ!と払い落とした。
「本当にいい加減にして!! あなたもご自分の洗濯物をまとめて置いて! 銭湯へ持って行ってコイン式洗濯機で洗うんだから!」
「お前のと一緒に洗えばいいじゃないか?」
「私は会社のブラウスも洗わなきゃいけないの!今日はもう時間が無いからトーストでいいわよね?!」
こうやって勝二の世話まで焼いて慌ただしく家を出た美穂子は、駅のミルクスタンドで牛乳瓶を片手にあんパンを齧っている嶋本とバッタリ出会ってしまった。
「おはようございます。朝食ですか?」
「おはようございます。 みっともない所を見られてしまいました。『独身男にウジが湧く』ですね」
「そんな事はありませんわ!お忙しい中、どんな形であれ朝食をお摂りになり、キチンと身だしなみを整えてらっしゃる」
「身だしなみと言っても……ワイシャツはクリーニングですし、髭をあたるくらいですよ。あなたこそ……今朝もお兄さんの面倒を見てから家をお出になられたんでしょ?!」
「ええ、兄は……髭も剃らない人ですから……」
そんな二人は、話しながら山手線を待つ長い行列のお尻に付いた。
一つ目の電車には乗れず二つ目の電車でようやく乗り込めたものの、ドアが開くたびに人が乗り込んで来て二人は車両の反対側へと押し込まれ、ついにはドアを背にした美穂子を嶋本が“壁ドン”する構図となった。
「タバコとは違いますよね。バラの香りみたい……」
「ああ、エルメスのエキパージュというオードトワレですよ……スミマセン、男なのに香水なんて……でも顧客に外国の方が多くて日本人は魚臭いと言われてしまいますので……」
その時、電車が大きくカーブし人波が嶋本の背中に更に押し寄せて来て、嶋本の太い腕でさえ少しブレて美穂子の鼻先にワイシャツの胸が触れた。
「大丈夫ですか?」と囁く嶋本の声に少しだけ胸に顔を寄せた美穂子はそっと言葉を返した。
「ええ、とても素敵な香りですわ」
今日は主に黒楓が担当いたしました(わかるでしょ?!(^_-)-☆)




