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第8話 アンドロイドと戦うVTuber

 スポットライトの如く照明で明るいグラウンドでは故麦は傷つきながらアンドロイドと戦っている。


 確かに、見た方が早い。


「……やめさせてくれ」


 これ以上、妹に酷いことをさせないでくれ。大変な目に遭わせないでくれ。


 搾りかすの理性で、絞り出す声。


「無理です」


 さらりと告げるレッタを掴みかからぬよう、屋上の四方を囲む安全柵の金網を強く握って耐える。


 金網の方はあっさりひしゃげてしまう。


 明らかに、人間の身体能力ではない。


「〈ライバー〉とは異種族に突然変異したVTuberのこと。皆さんにはこの世界のために戦ってもらっています」


「だから、なんだよ」


「地球侵略、人類滅亡、歴史の漂白、常世の沈殿、宇宙の消滅等々、滅亡を企む異種族を撃退するために、ですよ。ただの人間じゃあ、わたくし共のような連中に太刀打ちできないことは、少し戦ってあなたも理解するところでしょう。誰かがあの侵略者を討たねば、この世界は一瞬にして終わります」


「だからなんなんだよ。誰かでいいなら、故麦が戦う理由にならないだろうが」


「コムギさんは最強ですから」






 腹をえぐられながらも不敵な笑みを絶やさない白髪の少女は両のガトリング砲を、群れをなすアンドロイドへ投擲。


 連中、バラバラに砕けながらも侵攻は止まらない。


 その行為がもたらしたのは数秒程度の遅延だった。


「【|衣装変更:極上の鎮魂歌デュバーボ・セルバーボ】っ!!」


 が、僅かなタイムラグこそ故麦が求めたものだった。


 突然、立体的な暗闇が彼女周辺を塗りつぶし――あばら家を吹き飛ばすように暗闇を蹴り破り、どこからともなくスポットライトに照らされ、ライブ衣装の、瀟洒なドレスに早着替えした故麦が再登場。


 ワンマンライブのときとは異なり、両手にマイクを模したステッキが握られている。


 コンマ数秒で侵略者に肉薄。壊滅を再開する。


 殺して、殺されて、殺して、殺されて、殺して殺して殺して――何度殺されても、王の風格は絶やさず殺し続ける。






「人間の認知、知名度によって突然変異してしまうのと同様、異種族は影響をもろに受けます。強さや強度もそれに依存します。大体の異種族がこの世界を手中に収めたいのもそれが理由ですしね」


「あいつが、有名VTuberだから最強だって言いてえのか? 最強だから戦わないといけないって?」


「宇宙最速の理解をどうも」


「ふざけやがって」


 コンクリート造の床を蹴り上げ、安全柵の上部、細いパイプに軽々足を降ろす。


 三階建ての校舎からグラウンドは見かけ以上にずっと遠く、高い。


 飛び降りようと意気込んだ瞬間、なおさら人間だったときに染み付いた恐怖心が煽ってくる。


「否穂さんが加勢しても足手まといになるだけですよ」


 レッタは口だけで、髪の毛で拘束しようとはしなかった。


「力を得て浮かれているのか知りませんけれどもね。現状、あなたの戦闘力は異種族の中じゃあ最弱に近いのですよ。例えるなら、やったことのないゲームでSレアを当てただけなのです。レベルもキャラコンもキャラ理解もあったもんじゃ、」


「妹が傷付くのはもう御免なんだよ」


 目の前で妹が轢かれた瞬間がフラッシュバックして、故麦を再び失う恐怖が、落下の恐怖を消し飛ばす。


 あと一歩を踏み出し――重力に従って落下を始める身体。


 風圧に白い髪と学ランがはためき、薄暗がりの地面が急接近、いくつも見えたアンドロイドの人影のディティールと解像度が高まっていく。


 金属光沢のあるボディーに人間と同じ四肢。


 ただ双腕は古典的なドリルを半分に割ったようなビジュアルで、いかにも攻撃的だった。




 ぎょろ。




 ぼんやりとした赤い光を放つ一つ目が俺を視認する。


 一機が気付くと、二機、三機……アンドロイドほぼ全てを視線が俺に釘付けになった。


 当然、それと戦っている故麦も。


 鞘から抜く前より、ばちばちと翡翠の火の粉が散っている。ここで使えと、レベルもキャラコンもキャラ理解もない俺をアシストしていた「わからいでかっ!」。


 台風の目たる故麦から少しずれた密集するアンドロイド軍団目掛けて、妖刀を繰り出す。一機の頭に刃が当たる刹那、思いを込めて吠える。




「【お兄ちゃんの意地(ディアマイシスター)】!」




 刃が触れたアンドロイドは瞬きの間もなく、火炎に包まれ、自由落下の勢いを殺し切れず、真っ二つに斬れてしまった。


 それでも単眼の色は灯ったまま。


 人魂の如き炎は絶命した一機の亡骸を弄ぶようにぱちぱちと翡翠の火種を振りまく。


 これがひらけた土地ならいざ知らず、連中は故麦を倒すべく躍起になって集まっていた。それがよくなかった。




「111001011000101010101001111000111000000110010001111000111000000110100110」




 人語でも尋常でもない機械音声が響き渡る。


 いずれも死体から飛び火を受けた個体の悲痛な嘆きであった。


 翡翠の炎は消えない。


 水を被ろうと、転げ回ろうと、酸素を断絶しようと、傲慢なる焔はその身の可食部を余すところなくしゃぶりつくす。らしい。


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