ユカリ
前向きで、ポジティブで、人気者。
それが、私の座右の銘?
「笑顔がスゲエかわいい」
ありがとう、そう言いながら涙止まらない。
その笑顔は私じゃない。
卑屈で、寂しがりやで、素直になれない。
それが私なんだよ。
「やさしくて、明るくて、本当にいい子」
やめてよ、それは私じゃない。
ユカリだよ、全部。
みんなの好きな私はユカリの方なんだ。
11ぐらいの時だった。
生まれて初めてヒトの遺体をみた。
心臓がパンクしそうになって、
ううん、パンクした。
頭の中の白がゴナゴナに砕けて、
いろんな思い出が心臓に突き刺さる--
そんな感覚に襲われた。
あの時からだったね、ユカリ。
わたしは殆ど灰色の水の中。
ぼんやりと外の景色を眺めるしかできない。
つい、最近。
3つの遺体をみた。
わたしは灰色の水の中からだから、
よくわからなかった。
でも、ユカリが泣いていたのは知ってる。
水が震えていたから。
わたしはユカリに比べたら駄目だと思う。
でも、頑張るからね。
だから、ユカリは少し休んでて良いんだよ。
わたしもユカリになる。
大丈夫だよ、ずっと見てたから。
ユカリがいつでも戻ってこれるように頑張るよ。
正直ユカリのことあんまりよく思ってなかった。
月が空のてっぺんにのぼった頃、
ユカリは眠って、わたしは起きる。
やりたいこといっぱいあるのに、
身体はひとつだから、いつもクタクタで、
横になって眠るだけ。
ユカリだけずるい、好きなこといっぱいやって。
友達いっぱいつくって……。
卑屈な私、なりたいけど成れないから。
ひとつの命に生まれたもうひとつのいのち。
雨と風がやけに強い昼下がり。
リモコンの電源ぽちって押して、なんでだろ?
すごい懐かしい音が聞こえてくる。
胸が高鳴って、点いたテレビ画面がにじんで見える。
「バトンタッチ」 ポンって、背中押してくれた。
ユカリ。 ごめんね、逃げてばっかりだった。
灰色の水の中、ユカリがくれた気持ち、思い出、記憶。
見つけ出して抱きしめる。
さようなら、いままでありがとう。
--ユカリ。
懐かしい、懐かしい、春の日差し……
今日このごろ――