音街
「音街」5
5月4日、初めて高田柿子が勝負を仕掛けてくる。今まで仲が良い状態でも、かといって悪い状態でもなかったので、その時はひどく驚いたのを覚えている。初めての勝負は定期考査での点数だ。一回考査の範囲には中学の復習も含まれており、難しいものもなかった。
「星紙さん、私と勝負をしてください」
高田柿子は緊張しているのか、少し上擦った声でそう宣告してきた。
「定期考査の点数で、高かった方が勝ちとしましょう」
断るのも面倒だったし、何より勝算は十分にあるので受けることにした。
「いいだろう。買った方には何かあるのかい?」
「あ、あります」
高田柿子はそういうとスマートフォンを取り出し、操作し始める。およそ20秒後、その画面をこちらに向けてきた。大きく猫の写真が目に入る。最近駅の近くにできた猫カフェのホームページだ。私は息を飲む。
「あなたが勝ったら、私はここであなたが使用する金銭の全てを肩代わりします」
その言葉を聞くなり、私は高田柿子と握手をする。契約成立だ。瞬時に勉強のスケジュールを計画する。絶対に負けるわけにはいかない。いや、別に猫のためなどではない。私の誇りをかけただけだ。
高田柿子のスマホの画面に猫がうつる。危うくほっこりしかけた。
「音街」6
私は800点中791点を取る。およそ60点差での勝利だ。勝利の《《ついで》》に、猫カフェに行ける。あくまでついでだ。それに、全く関係はないが我が家では母が猫アレルギーなため猫を飼うことはできない。全然関係はないが。
「さあ私の勝ちだ。今日の放課後はどうだろうか。今日は日差しも暖かく絶好の日向ぼっこ日和だ」
高田柿子は一瞬驚いた顔をし、その後とても嬉しそうな顔をし、頷いた。
「音街」7
ふわふわだ。全く、ふわふわすぎる。こんな短くて細い足で大丈夫なのか。私が守らなくてはいけない。買った猫用おやつを差し出すと。店中の猫という猫が寄ってくる。
「えへへ」
私はほっこりした。
「音街」8
昼食のお弁当を食べていると、高田柿子が机を向かいあわせにしてきた。
「一緒に食べませんか?」
私は食べ物を口に含んでいたので首肯した。効果音でも流れそうな笑顔を高田柿子が浮かべる。
「それと、敬語は必要ない。ともに猫と戯れた中だし、非効率的だ」
高田柿子はより一層笑みを明るくし、「うん!」と喜んだ。いつもよりきゅうりのちくわ巻が美味しく感じた。
この月には猫カフェに行ったのでこの話を書きました。現実にこの二人の元になったキャラはいません。