☆『一回目』『一日目』『朝』☆ その7
もうちょっとだけキャラ紹介が続くんじゃ。
……とまあ、この辺りは小学生ぐらいになれば、世界中のどこでも習う歴史なんだけど、当時の日本に生じた大混乱と、そこから《魔王》と敵対する《魔法の世界》の勢力……現在、日本と国交を結び、七つの魔法学園を設立する事になる《クアートラ王国》とのファーストコンタクトはこんなに簡単な話で済むわけがなく、《魔王》を横目に日本との戦争なんてのが勃発したこともあるんだけど、そういうあれこれは、今は置いておこう。詳しく語ると歴史の授業になっちゃう。
現状では、テレビ番組で魔法少女の活躍が報じられて、グッズ販売や握手会が行われるなど、ある種のアイドルのような扱いを受けるぐらいには、民衆に馴染んでいること。
大戦で消耗した《魔王》の力は未だ完全ではなく、現在進行系で治療中であること、《魔界》を大規模な結界で封印することに成功していること。
魔法の技術は広く認知され、現在は軍との連携も進んでいること。
様々な要素から、現在の日本は『時折、結界をすり抜ける魔物という危機はあるものの、大まかには《魔界》出現前の水準の日常を取り戻せている』、と言えるらしい。
らしい、っていうのは、そもそも私は《魔界》出現前の日本を知らないからだけど。
まあ、確かに学園に通い出す前までは、魔法少女たちの活躍に目を輝かせられるぐらいには安全だったし……平和というものは、無条件で与えられるものだと信じていた気がする。
閑話休題。
重要なのは、今も《魔王》との戦いは続いていて、侵略行為もまた然り、ということだ。
《魔王》は新たな《魔界》を作り自分の支配を広げたいし、私達はそれを阻止したい。
「厳密には準魔界、と言った所ですね~。侵蝕率は35%、今回の中等部三年月組の進級試験、全体課題は~……魔界攻略となります」
高等部からは、魔物との実戦に参加することを考えれば、それは確かに試験として相応しい課題に聞こえてくる。
「…………ただなあ」
問題は私が戦闘力皆無な魔法少女だってことなんだけども。
☆
試験の詳しい詳細は現地に移動してから、とのことで、しおりを確認しながら、その他の注意事項が告げられる。
《魔界》化の影響で電波が遮断されているので、一度中に入ったら外部と連絡が取れないこと、現地へは生徒のみで赴き、外部からはいかなる助けもないこと、島への迎えは明後日の昼過ぎに来ること、命の危険を感じたら離脱しても構わないことなどなど。
……そりゃ実戦だし、あるよね、命の危機。
魔物は魔法でなくては倒せない。
魔法は魔法少女でないと使えない。
だから魔法少女は、戦う生物だ、当然、魔物とのそれも命がけとなる。
入学前からわかっていたし、入学時にも承諾のサインをしたし、そのつもりで授業を受けてきたけれど、やはり目の前にその事実が近づいてくると、身構えてしまうものがある。
……いや、引率無しもどうかと思うんだけど、その辺りも試験ってことか。
「大丈夫、リーンちゃんはボクが守るよ!」
「ありがと」
そんな様子を感じ取って、励ますように笑ってくれるメア。
おかげでちょっとだけ安心できた。持つべきものは胸の大きな友達だ。
ポジティブに考えるなら、私みたいな魔法少女でも、他の皆のサポートに徹すれば合格の目がある、とも言えなくもないし。
むしろ問題があるとすれば……。
私の思考がそこに至るのとほぼ同時に、『問題』そのものが現れた。
「遅刻だ遅刻、大変だー!」
『怒られちまうナー!』
『謝らないとニャー!』
扉がばぁーんと勢いよく開け放たれる音と共に、到底遅刻を反省しているとは思えない明るい声、追随する二つの甲高い声が響く。
ゴシック・パンクなミニスカドレスに、ツギハギのついた猫耳のカチューシャ、右手には同じくツギハギだらけの猫のマペット、左手には兎のマペットをそれぞれ嵌めている魔法少女――クローネ・クローネ。
「先生、ごめんなさーい! でもちゃんとくーちゃんが聞いててくれたからセーフ! だよね! わはーい!」
次いで、クローネとは正反対な印象を与える、白いシルクハットに、大きく肩の露出した、これまた白のタキシードをベースにしたコスチュームの魔法少女。
特徴的といえば、先程から端の机で丸まっている黒猫と同じように、真っ赤な瞳の中で回る歯車の瞳孔があることだ――――魔法少女、ニアニャ・ギーニャ。
そして――――。
「やかましい、早く行きなさいよ」
そんな二人を左右に従えて、つかつかとヒールの音を立てながら、最後の一人が姿を表した。
片腕で抱え込むように、山程カツサンドの包みを抱えた彼女のシルエットは、一言でいうと『四本角』だ。
メアはゴツゴツとした、山羊の様にぐるりと巻いた角をしているが、彼女のそれは同じ巻き角でありながらも、金属的な光沢を放つすべすべとした質感に覆われている。
それだけでは飽き足らず、床につきそうなほど長いツインテールの基部を高く結い上げて、第三、第四の角に見えるように尖らせていた。
最大の武器にして、最大の弱点になりうる為に、ほとんどの魔法少女が首から下に持つ《秘輝石》を、彼女は額の中央に埋め込み、隠すことなく堂々とさらけ出している。
「それで? 誰をぶち殺せばいいわけ?」
クァトラン・クアートラ、《魔法の世界》四大国家の一つ、《クアートラ王国》の第四王女。
二つ名は《最強の魔法少女》。
以上三名が、ウチのクラス――いや。
クロムローム学園における、三大問題児である。