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☆『一回目』『一日目』『朝』☆ その5

 もう《魔弾(タマ)》も撃てないし、《防壁(かべ)》も創れないし、電池にすらなれない。


「……………………なんとか睡眠時間作る…………」


 頑張れカツサンド、私の胃の中で《魔力(エーテル)》を生み出せ、最悪、《使い魔(マスコット)》から供給してもらおう。


 とかやってるうちに、ファラフがよたよたとこちらにやってきた。


「おかえりファラフ、おおきにねえ」

「い、いえいえ……お恥ずかしい、所を……!」


 ミツネさんの隣に座って、包みを片方手渡すファラフ。まあ当たり前といえばそうなんだけど、こういうときってルームメイトとか仲の良いグループで固まりがちだ。私、メア、ミツネさんは日本出身という繋がりがあり、ファラフはミツネさんのルームメイトなので、クラスではよく会話する仲なんだけど。

 ……じゃあ逆に仲が悪い者同士が近づかないかというとそんなことはなくて。


「あら」


 小さな口でちまちまとカツサンドを食んでいたルーズ姫は、笑顔を崩さぬまま、


「カチャカチャと鎧の擦れる音がうるさいと思ったら、田舎騎士様でしたか。てっきりこのまま欠席するものと思っていましたわ。恥じらいという感情があれば、試験に顔を出すだなんて出来るはずがないと思っていましたから」


 本当に私達にウインクをくれたお姫様と同じ顔から発せられてる言葉なのかよ、と思うくらい棘だらけの言葉が飛び出した。予め言っておくがルーズ姫の固有魔法(オリジン)は《言葉に棘を生やす魔法》ではない。


 一方、ラミアはラミアで優雅にマントを広げて一礼し、


「これはこれはご忠告痛み入る、ルーズ姫。あいにくだがジュリィ家に恥じ入る事など一切ないのでね。ドブネズミの様に餌にかじりついているから誰かの《使い魔(マスコット)》かと思ったよ、心の卑しさは立ち振舞いに現れるものとはよく言ったものだ」


 慇懃無礼という言葉だってこんなに毒は入ってねえよ。座るルーズ姫を見下した、《魔力(エーテル)》の流れはないのに、絶対にバチッと雷光が走った確信がある。


 そう……他の生徒に対しては、温厚で、優しく、愛らしいルーズ・リックと、紳士的で、王子様的で、格好いいラミア・ジュリィは、もう、すごい、とんでもなく仲が悪い。


魔法の世界(マギスフィア)》の歴史は授業で触れた程度で、本格的に学んだわけではないのでかなり聞きかじりの知識だが、向こうはこっちで言う中世の貴族社会をもうちょっとブラッシュアップした感じらしい。家の歴史が古いほど権力がある、みたいな。


 そんでもって、ルーズ姫曰く『大恩あるルーズ家に唾を吐きかけ地位を得た、薄汚い裏切り者のジュリィ家』、ラミア曰く、『民を奴隷として搾取することだけしか考えていない、薄汚い外道共のリック家』って姿勢だからもう、本当に、側でやられると胃が痛い以外の感情が湧いてこない。まあ、今は二人だけだからまだマシだけどさ……。


 他の学年にはルーズ姫、ラミア両名に取り巻きというか従者的な魔法少女が居て、常に団体行動しているので、これが喧嘩に発展するとちょっとした大騒動になるのだ。まあ忠臣が諌めてくれる事もあるから殴り合いの発生率はトータルで10%くらいだけど。


「まあまあお二人さん、試験前にそんな剣呑にせんと。見たって、ウチのファラフが緊張でサンドイッチが喉がとおらへんようになってもうて」


 やっぱり仲裁に入りがちなミツネさん、頼りになるぜ。ただ話を振られたファラフはえっ!? って顔をしながら普通にもぐもぐ食べてた、なんだかんだ神経太いんだよね。


「このままやとウチもファラフもお腹をくうくう空かせて集中できへんで、試験に落ちてまうわ……」


 よよよ、と泣き崩れるふりをするミツネさん。ここに割り込める根性は本当にすごい。


「……今日は彼女に免じて見逃してやろう、《汚れた王冠のリック家(ディミドレア・リック)》」

「こちらのセリフですわ、《血濡れた手の(ラヴァルハン)ジュリィ家(ジュリィ)》」


 わあいマギスフィア・スラングだ。由来とか語源は忘れたけど、どっちも最上位クラスの罵倒だった気がする。

 ふんっ、とお互い顔を背けて、ラミアはルーズ姫と一番距離のある、角の席に座った。

 これで七人、一クラス十人なので、後三人……あれ?


「そういえば、進級試験はクラス合同じゃないのかな?」


 二年と三年に上がる時は、二クラス合同だったんだけどな。


「グレープちゃんは実習室に集合って言われてたらしいから、そうじゃないかな?」


 私の全《魔力》と引き換えに救助されたカツサンドを無事に完食したメアが言った。


「ってことは豊胸詐欺(レイヴン)とロロルルも別かぁ……お嬢(ヘクセンナハト)がいたら安心できたんだけどな」


 魔法少女になれるかどうかは先天的な才能に左右されるので、どうしても総数が少なくなりがちだ。クラス合同授業も多く、結果として横の繋がりも出来る、なんなら『友達』というくくりでいうなら隣のクラスの方が多いぐらいだ。

ちなみに私達は月組(ルナ・クラス)で向こうが星組(ステラ・クラス)、覚えなくてもいい。


 ……なんかなあ、ルーズ姫とラミアを一緒にしてる事といい、月組は厄介というか処理に困るというか、面倒な魔法少女を一纏めにして隔離する為のクラスなんじゃないかって気すらしてくる。


 ()()()()()()()()()()()()()()()がいるって言うのにね。


「ナハト嬢がいるとなんか楽なん?」

「とにかく頑丈だから囮に最適……!」

「友達に言うセリフじゃないですよぉ……」


 それは本当にそう。

 ちなみにお嬢こと如月塚(きさらぎづか)ヘクセンナハトの固有魔法(オリジン)は《同化する魔法ヘクセンナハト・マジック》、有機物無機物問わず自分に同化して体の一部にしてしまう魔法で、頭か《秘輝石(スフィア)》さえやられなければ実質無限再生できる優れもの。対象のエーテルまで取り込んでしまうので消費と供給が釣り合っているのも便利だ、私に分けて欲しい。


「は~い、おはよ~皆、集まってる~?」


 そんな雑談をしていたら、不意に、メア以上に間延びした声が講堂内に響いた。

挿絵(By みてみん)

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