☆『八回目』『二日目』『朝』☆ その2
「だって、ジーンを殺したのはファラフだから」
今度こそ。
今度こそ、全員が理解を放棄した目で、私を見た。
頭がおかしくなったのか、そういう顔だった。
ただ一人。
ファラフ・ライラを除いては。
「なん…………で………………?」
絶対に知られるはずがなかったこと。
絶対に見抜かれるはずがなかったこと。
だって当然だ、《使い魔》を自分で殺す魔法少女がどこにいる?
何でその必要がある?
「あの迷宮の中でさ――たまたまクァトランが上にいて、たまたまクァトランがブチキレて、たまたまクァトランが床を破壊して、たまたまその下に誰かが居て、たまたまジーンだけが巻き込まれるなんてことが、たまたま起こると思う?」
一度だけなら不幸な事故だったかも知れない。
二度目でようやく違和感が芽生えて、三度目で確実な疑問になった。
私が時間逆行して四回目、ファラフとペアを組んで迷宮に潜って、崩落に巻き込まれかけた時。
ファラフは崩落の兆候が生じるより早く私を突き飛ばした。
最初から、あの場所で崩落が発生することを知っていたかのように。
「ま、待ってくれ」
割り込んできたのは、まさにその崩落の現場にいた当事者たる、ラミアだ。
「クァトランが迷宮の破壊に及んだのは、本当に偶然というか、流れというか……その……」
言い淀むラミアに、私は躊躇なく切り込んだ。
「イライラしてたんでしょ?」
「…………は…………?」
「だからさ、クァトランは迷宮探索が進まないのが嫌だったんじゃなくて、ラミアと一緒にいるのが嫌で、イライラしてたんだよ。だから……ストレス発散?」
「は――――――――」
我ながら酷い物言いだ。
だけど振り返ってみれば一目瞭然で……クァトランが迷宮破壊に至ったのは、ラミアとペアを組んだ時だけだった。まあ私とペアの時も壊そうとはしたが、止められたし。
気まずい相手と一緒に、面倒な迷宮を攻略して、溜め込んだフラストレーションがやがて爆発。
まあ、私はそんな偶然あるもんか、って言い切ってみたけれど、崩落のタイミング自体は、実はそんなに重要じゃない。
要するに、後から巻き込まれたぞって難癖をつけられる位置に居られれば、それでいいんだから。
私のあまりに悪辣な物言いに、ラミアの頭に血が昇っていくのがわかる。それでも冷静さを保ちながら、会話を試みようとしてくれる、素敵な騎士道が大変ありがたい。
何せ、話が早いから。
「だ、だからといって、何でファラフが自分の《使い魔》を殺す必要がある!?」
「それは勿論、ミツネさんを守る為だよ」
私は努めて感情を乗っけない、平坦な口調で、淡々と話し続ける。
「――――あの、少しよろしいですか?」
無言を貫いていたルーズ姫が、ついに会話に割り込んできた。
表面上不仲を装っているけれど、実はデキてる二人だから、助け舟を出さずには居られなかったのかも知れない。
「リーン様の物言いですと、ファラフ様とミツネ様…………そこの女とクァトラン様が組み合わさる事が、決まっていたように聞こえますわ」
「そうだね」
……の割にそこの女扱いだから、ちょっと面白くなっちゃったな。
「おかしくありませんか? わたくし達のペアは、クジで決めたではありませんか」
「そ、そうだ! 私がクァトランを指名したのは、彼女が最後に残ったから――――」
「クジは誰が何番になるか、最初から決まってたんだ」
ラミアの声を遮って、私は事前にちょろまかしておいたクジ、例のプラ板を取り出した。
「触った人間の《魔力》に反応して番号が変わるようになってるから、誰がどれを引いても選ぶ側と選ばれる側は決まってたんだ」
今、私が手にしているクジには『1』の数字が刻まれていて、皆にそれを見せてから、ひょいとラミアに向けて投げる。
「っ」
片手でキャッチして、表面を確認したラミアは……そのまま顔をしかめて、数字が『5』に変わったクジが皆に見えるよう、手を広げた。
「……っ、で、ですが、誰が誰を選ぶかなんて、わからないじゃありませんの!」
「予測はできるよ、例えば、私だったら間違いなくメアを選ぶし――――」
「選ばなかったじゃありませんの」
やべ、しまった、そうだった。
仕方ない、ゴリ押しで行こう。
「…………ミツネさんは間違いなくファラフを選ぶし、クローネも――――」
……クァトランの『課題』を考えたら、その機会を潰すようなことは、しないはずだ。
だけどそれを口にすると、クローネがどう反応するかわからなかったから、強引にぶった切って、無理矢理次に進んでしまおう。
「で、このクジを持ってきたのは――――誰だったっけ、委員長」
「それは――――」
委員長の視線が、一人の魔法少女を見て。
釣られるように、皆の視線もそちらに向かう。
「クァトランの暗殺には、三人の魔法少女が関わってる」
人差し指を一本。
「一人目は、実行犯のミツネさん。クァトランの結いた髪の毛を気づかれずに解けるという、ただその為だけに、才能に目をつけられて、選ばれた。実行しなければ命を奪うと脅されて、自分の仕送りを頼りにする家族がいるミツネさんは、従わざるを得なかった」
ミツネさんの顔に、何でそれを知っている、という驚愕が浮かぶ。
ごめん、ミツネさんから聞いたんだ、とは、言えないよなあ。
「二人目は、協力者のファラフ。クァトランが起こす騒動の被害者になることで――――ミツネさんとクァトランが接触する機会を設ける為に、ジーンを殺すことを強要された」
びく、とファラフが肩をすくめた。
そう、本来ならクァトランは、高慢で、傲慢で、高圧的な暴君で、他者を寄せ付けない排他的な性格だと、皆が思っている。
如何に遠くから精密な動作が出来る固有魔法があると言っても、クァトランを視界内に収めながら、気づかれないよう、程よく髪を解くだけの時間が、実行犯のミツネさんには必要だ。
だから、ジーンの犠牲が必要だった。
親友の《使い魔》を不注意で殺め、それを追及されて謝罪をしない。
それはミツネさんが近寄って、《魔力光》を発しても、不自然じゃない状況を作る、ただその為だけに。
暗殺が成功しなければ、ミツネさんは約束を破ったことになってしまうから。
ファラフ・ライラの【嘘】。
それは、大好きな親友と、相棒を天秤にかけて――自らが生み出した《使い魔》を、己で殺めた事だった。
「そして三人目は――二人の才能と、関係性を知っていて、計画への加担を強要できる能力を持っていて、クァトランの性格を熟知し、行動を予測できて、弱点を知りうる立場にいて、クァトランを殺す動機がある、魔法少女――――」
三本目の指を立てて。
「――――っていうのが私の考えなんだけど、あってるかな」
私は、その名前を呼んだ。
「《クアートラ王国》の王女様のスパイで、二人をクァトラン殺害に巻き込んだ首謀者。クァトランを殺す事で無罪放免になれる、約束の魔法少女――ニアニャ・ギーニャ」




