☆『六回目』『一日目』『夜』☆~『二日目』『朝』
夜になっても誰かが帰ってこない、というのは初めてのことだった。
夕飯の前に皆が集まって、あれ? ミツネさん達は? となるまで誰も気づかなかったんだから、私達も抜けている。
「不覚を取ったってこと?」
誰かがそう言ったが、私ならいざ知らず、ミツネさんとファラフが迷宮の魔物程度に? という疑問はどうしたって拭えない。
今の今まで気づかなかったのは、皆が『この迷宮はそれほど難しい構造ではない』と、実際に探索をして、口にせずとも自覚していたからだ。
「道に迷って、外に出られなくなったとか?」
委員長が怪訝そうな顔で言ったけれど、私は今までの『一日目』の経験から、全員の報告を受けて、そういう『迷わせて閉じ込める』タイプの《迷宮》が無い事を知っている。
「《迷宮》の中で二人を見たペアはいる?」
委員長の問いに、皆一様に首を振る。
「そもそもあたしらは誰とも会ってねーし」『二人きりだったニャー』『蜜月だナー』
「蜜月!?」
「メア、ちょっと静かに」
今大事な話してるから。
「あ、えっと、ボク達も誰とも……というか、委員長、すごい速度だったから……、多分一番最前線を走ってたと思う……」
委員長と組まされた奴は誰であっても最速最短総当たりルートを走らされるらしい。
「言うまでもないけど、私らも会ってないわよ」
クァトランとニアニャペアも同じく。石人形との問答で大分時間を使ったことは容易に想像できる。
余談だが、クァトランは今回、下方向への破壊を実行しなかったらしい。
私にとっては、結構意外なことだった。ニアニャなんか焚き付けてもおかしくないなと思ってたし。
そして……。
「……私も、誰とも遭遇しなかったな。そもそもほとんど一人で《迷宮》を探索していたが」
「わたくしもですわ。あれと隣り合っていたくはありませんでしたので」
ラミアとルーズ姫が、示し合わせたようにお互いへの拒絶の意思を見せながら言う。
……………………。
いや、これ絶対嘘だよな。
対外的にはそう言うだろうけど、裏では周りに誰も居ない二人きりになって、そりゃもういちゃこらしながら進んでたはずなんだ。
何せ迷宮が途中で合流することは私以外誰も知らなかったはずなんだから。
ラミアとルーズ姫は、そのシーンを他人に見られたら躊躇なく殺害して証拠隠滅を図ろうとする事は、私が自分の体で実証済みだ。
…………こいつら殺ったな!?
ミツネさんとファラフを! あの《迷宮》の中で!
予想でしかないけど、私はほぼほぼ確信していた。
あの二人だって強力な魔法少女だけど、ラミアとルーズ姫だって《魔法の世界》のエリート中のエリートだ。不意打ちを仕掛けられたらひとたまりもないはずだ。
「………………うわあ」
しかしそれはそれで、私が今この場で『お前ら実はグルで二人を殺したろ!』と追及しても証拠が無いので証明できないし、疑惑をかけた時点で私もラミア達のキルリストに入るし、多分委員長が暴走するし、二日目を待たずして全滅してしまう。
だったらいっそ、この状態でどんな変化があるか見てから七回目に行ったほうがいいか……。
「予定変更、今から二人を探しにいくわ」
委員長がガタっと音を立てて、椅子から立ち上がった。
「二人が入ったルートを全員で追いかける。もしかしたら拘束される類の罠に引っかかった可能性もあるわ」
もしそうだったらラミアとルーズ姫にごめんなさいしないといけないな、私。
死体は多分、《物の大きさを変える魔法》で目視し辛いサイズにされて隠蔽されているはずだから、見つけるのは難しい気がするけれど……。
「はぁ、アホくさ。雑魚の尻拭いなんて」
また憎まれ口を叩くクァトランだったが、足は食堂の外に向いていた。
「さっさと見つけ出して食事にしましょう、もうカレーの口になってるんだから」
かくして魔法少女八人による《迷宮》探索が始まった。
☆
魔法少女八人による《迷宮》探索は深夜早々、打ち切りとなった。
進めば進むほどルートが収束していく《迷宮》の形と、マンパワーで最速進行できたことで、途中で『あ、ここ見たことある』となってしまい……。
第三階層に到達した時点で『物理的にこれ以上二人が進んでいるわけがない』という結論に達し、明日のことも考えて引き返す事になった。
「夕飯は各自適当に。《迷宮》の構造はわかったから明日全員で挑めば半日で攻略できるでしょう。明日の出発は少し遅らせるから、各自《魔力》の回復に努めること」
という委員長の指示で私達は解散、自由行動となった。
食欲は沸かなかったが食べないと《魔力》は回復しない。栄養補給をしっかりするのは魔法少女の義務なので、カレーを無理やりねじ込んで、シャワーを浴びて、体感的にはすごく久しぶりに、ベッドを広々と使って眠った。
そして翌日。
重たい足で水でも飲もうかと食堂に入った私の視界に入ってきたのは、
「…………………………………………え?」
「何、その顔、烏が魔弾を喰らったみたいな顔して」
山のように盛ったご飯に、活火山の噴火みたいなルーをかけたカレーを、大さじで平らげていく……クァトランの姿だった。
「ク、クァトラン……?」
「何よ」
「い、生きてる………………!?」
顔の横を《魔弾》が掠めて、頬が少し裂け、食堂の扉をぶち抜いてその対面の壁を破壊した。
「朝から喧嘩売ってるなら買ってあげましょうか、ん?」
……今回の私はクァトランと同行していなかったので好感度はゼロスタートなこともあって、失言に対する制裁に容赦がなかった。
だけど、そんなことは問題じゃない。問題じゃないのだ。
「ちが、あ…………え、本当に、クァトランだよね」
「……何、カタリベ。本当に気持ち悪いんだけど……私以外の何に見えるってのよ」
クァトランが生きている。
それの意味する所を、私は理解した。
理解してしまった。
「クァトラン」
「だから何よ!」
「ありがとう」
「………………はぁ?」
「後、ごめん」
「……ねえ、待って、それ何の感謝で何の謝罪? 気持ち悪いんだけど」
まあ、そりゃ意味がわからないよな、と思って。
「生きててくれてありがとう、かな」
「…………………」
もう完全に理解不能、って顔をされた。ちょっと傷つくが、まあ、そりゃそうだ。
私にしかわからない感情を、わかってもらう必要はないし。
多分、後何回か死なせることになると思うからごめん、とも言えないし。
食堂を出た私は、そのまま屋敷の外へ向かった。
どこでも良かったけど、どうせなら砂浜がいい。
波の音を聞きながら、私は小さく口を開いて、指先を口腔内に向けた。
「しかし私、自殺してる回数のほうが多いな」
バチンと《魔弾》が弾けて、ご自慢の髪の毛が乗った、柔い頭を吹き飛ばした。




