☆『六回目』『一日目』『昼』☆
クジ引きが終わり、ペア決めの段になって。
メアはうむむむ、と複雑な表情のまま、一番のクジを掲げて言った。
「じゃあ……マグナリア委員長、お願いします」
全員がえっ、と驚いた顔をした。そりゃそうだろう、メアが選ぶとしたら私だと、誰もが疑い無く思っていたはずなのだから。
「……私でいいの?」
選ばれたマグナリアですら困惑した様子だったが、メアはコクリと頷いて。
「必要なことなんだよ、そう…………試験的に!」
「……なるほど? なら、異論はないわ」
試験の内容は基本的に明かしてはならない、という事を逆手にとって、試験を盾にすれば不自然な行動をごまかす事ができる。これは私の入れ知恵ではなくメアの判断だが、さすが我が親友。愛してるぜ。
「せやったら……ウチはファラフやねえ」
「は、はいっ」
ミツネさんは当然のように、空いていればファラフを選ぶ。
続いてニアニャがんー、と首を傾げ。
「……あれー?」
私を、いや、私の右手で視線をピタリと止めた。
「あれ? あれ? あれれ?」
不思議そうに左右に首を揺らしている……あ、駄目だこれ。約束が継続してるのが、ほぼほぼ確定してしまった。
多分ニアニャは今、『自分がした覚えのない約束が、私との間に成立している』事に気づいて、疑問を抱いている……!
「ちょっと、ニアニャ、さっさと決めなさいよ」
業を煮やしたクァトランが、すぱんとニアニャの頭部を叩いて、みぎゃっ、と悲鳴を上げて転倒した。
「うぇーーーー? もぉー、じゃあお嬢でいいやー」
「ぞるっ!?」
「でいいや、って何よ! ……アンタ《使い魔》のしつけどうなってんの!?」
「ぞる、ぞるる、ぞる!!」
なんかよくわからんけど、くーちゃんがやたらと抗議している……普段全然感情めいたものが伺えないから、慌ててるの初めてみたかも知れない。クァトランのこと苦手なのかな……。
何にせよ私にとってはありがたいトラブルだ。後々言及は避けられないだろうけれど、この場を凌ぐことができた。
「マジかー。じゃあどうしよっかなー」『どうするかニャー』『悩むナー?』
そして四番目のクローネがぴょんぴょんと前に出た時。
「クローネ、私にしない?」
そう言った。
この場にいる全員の視線が、再び私に集まった。
「お? お? お?」
まさか自分から名乗り上げる奴がいるとは思っていなかったんだろう、クローネは目を白黒させた。
しかし周囲にとってはそれ以上に大きな意味がある――何せここで私が選ばれるということは。
「ちょ、ちょっと待ってくださいませ! それではわたくしがこの女と――!」
「そうだ、申し訳ないがリーンは私に譲ってもらいたい」
ルーズ姫とラミアのペアが、強制的に成立してしまう、ということだ。
客観的に見ればそれは最悪の組み合わせであり、ともすれば試験の進行に支障が出かねないのだが。
しかし私は知っている、知っているのだ。だから声を大にして言いたい。
…………うるせえなあ! どうせ隠れていちゃつくなら人目につかねえ迷宮の奥で好きなだけイチャイチャしてろよ!
それらをぐっと飲み込んで、私は笑顔のままクローネを見つめた。
「ね。私を選んだほうが、おもしろそうじゃない?」
「…………リーンっちさあ」
クローネはマペットに喋らせるのも忘れて、私に近寄ってくると、思い切り肩を抱き寄せて、大笑いした。
「さいっこうじゃーーーん! あたしリーンっちの事勘違いしてたかもじゃーん! おもれー! イカスー! あたしリーンっちと行くー! ヨロヨロー!」
そう言ってくれると信じてたよ、クローネ。
かくして全てのペアが決まり、私にとっては五回目の迷宮探索が始まった。
唖然とする皆、苦虫を噛み潰したような顔で、お互いの顔を見るルーズ姫とラミア。
……いや、この二人、本当に演技上手いな。
☆
ちょっと遡って、回想シーン。
クァトランは今まで通り死んでしまったし、クローネは今まで通り暴走したし、皆が死ぬのを見たくはなかったので、ある程度虐殺が始まった時点で頭を弾いて、無事六回目と相成って、現在はクジ引き前。メアを待たせて部屋の中。
「うーん」
流石に五回も死んでいると死に慣れしてくるかなと思ったんだけど、自分の意識がぶつんと途絶える感じはなかなか据わりが悪いというか。
ファラフを助ける方法はわかったけど、結局クァトランを助ける方法は手がかりすら掴めてないから、状況的にはあまり変化がないとも言えるし。
「…………」
クァトランを殺す方法という奴が、今の私には皆目見当がつかない。
誰がやったか、とか以前の問題だ。
だったら……クァトランが殺される理由の方から探っていくべきなんじゃないか。
そう考えた私は、部屋の外で私を待ってくれていたメアの手を、おもむろに掴んだ。
「ひゃっ」
「メア」
「ど、どうしたの、リーンちゃん」
「これから私が言うことを何も聞き返さず、すべて無条件で受け入れてほしい」
「そんな都合のいい要求ってある!?」
口走っておいてなんだが、ないよなあ。少なくとも私なら言われたら怒る。
相手がメアでもちょっと考えてから足元を見た交渉をしちゃう。
「私に出来ることなら、あとで何でもするから」
「うっ」
「試験が無事に終わって学園に戻ったら、メアの言うことを何でも聞く。一日……いや、三日、いやいや、一週間でもいい」
この取引はかなりの諸刃の剣だ――メアはメアで結構尖っている娘なので、私の自由を一週間も委ねたら、どうなってしまうかわからないのだが、そこはそれ。
これは口約束、担保されるのはお互いの信頼関係のみ! ニアニャと交えるわけではないのだから、時間を逆行すればこの約束を無かったことに出来る――!
間違っても唯一無二の親友に働いていい欺瞞ではないのだが、非常事態だからやむを得まい。わかってくれるよねメア、ありがとう、大好きだよ。
「………………本当に一週間?」
「一週間、本当に何でもする。逆らわない。神は居ないから悪魔に誓う」
「………………わかった、いいよ」
熟考の末にそう結論したメアは、きょとんと首を傾げて。
「でも、ボク何をすればいいの?」
「うん、まずこの後、ペアを分けるクジ引きがあるんだけど」
「うん…………うん?」
「それをメアが真っ先に引いてほしい」
「へ? リーンちゃん、それって」
「聞き返さないって言ったよね」
「え、あ、うん、はい、わかった」
「それで、メアがペアを選ぶ時、私を選ばないでほしい」
「え、えええー…………?」
言いたいことが沢山あるぞ、という顔をしているが、全スルー、大事なのはここからだ。
握りっぱなしだったメアの手に、ヘリからここまでで生成できた、なけなしの《魔力》を注ぎ込む。
「ひゃっ、何なに?」
「メア、私の《魔力》を手に留めたままクジを引いて」
「け、結構難しいこと言う……吸収しちゃ駄目なの?」
「だめ、もっと言うと、クジにその《魔力》が触れるようにしてほしいの」
あの箱の中のクジは何度時間を逆行しても順番が変わらなかったことから、恐らく触れた魔法少女の《魔力》に反応して、誰がどれを引いても番号が固定されるようになっている。
だからメアに私の《魔力》を預けて、その状態でクジを引いてもらえば、私の代わりにメアを一番に出来る――――私が選ばれる側に回ることが出来る。
あとはクジを引く順番を最後にすれば矛盾は生じないので、委員長も疑いはしないだろう――という目論見は無事に成功し、私はクローネと共に新たなルートに挑むことになったのだった。
以上、回想終わり。
「ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ」
メアと行ったルートは木のゴーレム、クァトランと行ったルートは土のゴーレムが出てきたが、このルートはどうやら石で出来たゴーレムが出てくるらしい。
……なんか難易度に偏りがある気がするけど、迷宮が魔物を作り出すリソースは一応有限なので、基本的には弱い個体ほど数が多く、強い個体ほど数が少ないとされている。
ウッドマン達が数で押してきたのに対し、ストーンゴーレムはなるほど、散発的に何体か出てくるだけだった。
もちろん、石の硬度にまでなってくると軟弱系魔法少女である私なんかはもう文字通り手も足もでないのだけど。
「にゃははははははははは~」
クローネ・クローネは常識の枠の外にいる魔法少女なので、あっさりと蹂躙してしまう。
布と綿でできた愛らしいぬいぐるみ達がわらわらと群がっては、石の塊を砕いて潰して粉にしていく様はある種のパニックホラーだよ。いや、実際に追いかけられたことがあるので本当に怖いことを知ってるだけにね。
「ところでよーリーンっちよー」『ニャー』『ナー』
そんなわけで出てきた魔物をあっさり殲滅したクローネは、蹂躙作戦をボーッと眺めていた私に声をかけてきた。
「あたしになにか聞きたいことでもある感じ?」『秘密の話にゃー?』『秘め事だナー』
「クローネって察しが良い方?」
「んにゃ? でもわざわざメアっちと順番を入れ替えてまであたしと組みたかったんでしょー?」
その問いに、私は思わず動きを止めて、クローネの顔を見てしまった。
にやにやと、面白そうに、彼女は笑っている。
「いいよ、聞きたいことがあったら教えたげる。代わりにあたしにも協力してもらう。ウィンウィンで行こうぜーリーンっち。あたしはこれ、結構いい取引だと思うんだよね」
軽薄な口調だけど、両手のマペットに口を挟ませない。
つまりクローネにとっても、これは真面目な話なんだ。
「ちなみに、クジに仕組みがある事なんて知らなかったよ? むしろ何でリーンっちは知ってんの? って感じ。でもメアっちの手が消えて見えたからにゃー。あれはリーンっちの《魔力》だと思って」
「消えてるのに見えた、ってのも変な話だけど……え、どういう事?」
「あたしはちょっと特別なのにゃん。くーちゃんに教わったんだけどにゃ?」
ほんの一瞬、緊張から唾液を飲み込みかけたその僅かな時間で。
鼻先が触れ合うぐらいの近さに、クローネの顔があった。満月よりもギラギラ光る金色の瞳が、私の視界を覆っている。
「この目は《魔力》の流れが見えるんだよにゃ。だけどリーンっちの《魔力》は一箇所に集中させると透明だから見えないの。メアっちがわざわざリーンっちの《魔力》を吸収しないように滞留させてたって事はクジが《魔力》に反応するタイプだったんじゃねーの?」
……つまり、私が何度か繰り返して掴んだ情報を、一目で看破したってことだ。
「……それで私の動向を見抜けるなら、クローネは名探偵になれるね」
「にゃははははははは!」『ウケるニャー!』『笑えるナー!』
ひょいと体を離して、大声で笑ってから、ふっと静かになって。
「それぐらいの事は見てわかんないと、生きてけないとこってあるんだよん」
――――一回目のあの時、全ての感情が欠落したあの瞬間と、同じ顔をした。
「………………」
二の句が告げない。次にクローネが何をするかわからない。
何を言っても駄目な気がするし、黙っていても駄目な気がする。
忘れちゃあいけないのだ。
クァトランの死後、私達が全滅するトリガーとなるのは――能動的に周りを殺し始め、全部を終わらせるのは、このクローネなのだということを。
「……そぉーんなにビビんないでよリーンっち~! 今は全然そーいうのないよん。屋根のあるお部屋! 美味しいご飯! 軽口叩けるお友達に殺しても死なねえ御主人様! ほんの数年前までは考えられなかった環境だもん。あたしだって手放したくないし」
『だから真面目に試験も受けるニャー』『しっかりクリアを目指さないとナー!』
私がクローネについて知っていることは、そう多くない。
どんな罪を犯したのか、その罰がどう与えられているのか、あるいは許されたのか。
近寄りがたいクラスメートでしか無かった彼女と、一対一でこうして話すのは……ああ、そうか、それこそ初めてか。
だったら、臆せず行こう。クローネの言う通り、ビビってたって解決しない。
「じゃ、お言葉に甘えて……聞きたいことがあるんだけど」
「うんうん」『何ニャ?』『何でも聞けよナー』
「クァトランってどうやったら殺せると思う?」
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