☆『五回目』『一日目』『昼』☆
「……ゃん、リーンちゃん」
メアの声が、遠くから聞こえる。
即座に目を開いて、私は移動中のヘリの上で立ち上がり、反射的にルーズ姫を凝視した。
「ど、、どうなさいました?」
慌て半分、困惑半分と言った感じのルーズ姫は、愛らしくきょとんと首を傾げて私を見返してくる。
次に、ラミアに視線を向けた。
腕を組み、目を閉じているが、私の視線に気づいたのか、ん、と顔を上げて。
「どうしたんだい? リーン。悪い夢でも見たのかい? 例えば……」
お前に身体を真っ二つにされて殺されたんだよ、とは流石に切り出せずにいると、視線は次いでルーズ姫に向かい、
「ああ……そこの女が出てきたとか」
「こちらのセリフですわね。自らの姿をしっかりと認識できていないから、己が他者の眠りを妨げた可能性に思い至れないなんて」
「口だけは相変わらず達者なことだ。是非教えてほしいものだね、どうすればそこまで自意識の高い恥知らずが生まれてくるのかと。やはり血が穢れているからなのかな」
またバチバチと口喧嘩を初めて陰鬱な空気が漂い始める機内だったが、私にはもうどうでもよかった。
こ、この二人、こいつら! しれっと憎まれ口を叩き合ってる裏で!?
え、じゃあ何か、今まで『ほんっとうに止めてほしいけどでも異国の家系の繊細で複雑な問題だから迂闊に口を挟むわけにもいかないし……』っていう私達の配慮、全部お前らの茶番につきあわされた結果のストレスだったの!?
全ての不満をノータイムでぶち撒けてやりたいんだけど、何せ現場を見られた瞬間、躊躇なく私を殺しに来たぐらいだ。
もしこの場で暴露したら、多分、最終的にこのヘリそのものが落下して海の藻屑になる。
……うん、それは流石に不味い、冷静になろう、落ち着こう。
「リ、リーンちゃん?」
「ああ、メア、ごめんね。大丈夫、ちょっと嫌な夢を見てたみたい。大好きだよ」
「そんな雑な流れで!?」
☆
「ラミアとルーズ?」
第二階層を攻略し、第三階層に差し掛かった所で、私はクァトランに尋ねてみた。
二回目と同じくクァトランをペアに指名して、大まかに似たようなやり取りを挟み、普通に話ができるぐらいの距離感になった――石人形の出す問題も変わりなかったので、サクサク答えられた分、先に進む余裕ができて今に至る。
「うん、あの二人、すごく仲悪いじゃん」
「そーね、呆れるぐらい。昔っからよ? 個人の問題じゃなくて、完全に家の問題だけどね」
「貴族のしがらみ的な奴?」
「もうちょっと質が悪い。っても、あまり他人の悪口を言いたくはないんだけど?」
「それをっ、言うならっ、私…………はっ」
第三階層はかなり高低差が激しく、さっきから幾度となく上に下に、ジャンプを繰り返していた。代わりに魔物はあまり出てこないのは助かるんだけどさ。
三mある段差をよじ登って、スカートの裾を払う。
「その昔のことが原因でずーーーっと悪い空気を吸わされ続けてるんだから、原因ぐらい知る権利はない?」
まして、その空気の悪さが全部茶番だったと判明した日にはだよ。
「…………言っとくけど、あの二人を仲直りさせてやろう、みたいな馬鹿なことは考えてないわよね?」
「いや、そこまで首を突っ込むつもりはないよ」
そもそもしてるもんな、すでに仲直りをな。情熱的なキスまでな。
「じゃあ、ざっくり概要だけ教えてあげるわ。もともとジュリィ家は、リック家のいくつかある分家の一つだったのよ。もう何百年も前の話だけど」
「じゃ、ほんとに歴史が長いんだ」
「長いってことは色々あるってこと。簡単に言うとジュリィ家がリック家を裏切ったの。何代目だったか忘れたけど、当時の当主一族を事故に見せかけて皆殺しにして、《秘輝石》を奪って自分たちがリック家になろうとしたんだったかしら」
「うわぁ」
詳細までは知りたくはないけど、そりゃドロドロだ。
「ただ当主の妹が奇跡的に生き延びてて、ジュリィ家を告発しようとしたんだけど、その頃のリック家は地位を盾に結構な横暴を働いていたから、ジュリィ家側に着く勢力も多くて、対立関係になれてしまったのよね」
力の差があれば一方的に叩き潰して終わりだが、拮抗していると勝負が続いてしまう。
「拗れに拗れた?」
「拗れに拗れたわね。今はもう貴族のあり方が変わったから、昔みたいに血で血を洗うような抗争はないけれど、関係性の修復って意味じゃあ、絶対無理ね。先祖代々、お互いがお互いを殺しすぎたし、奪いすぎたし、破壊しすぎてるもの。その跡取り同士の二人よ? 険悪に決まってるわ。同じクラスに配置したハルミが間違ってるのよ」
「それは私も本当にそう思う……」
まあ実際はその険悪であるはずの二人が恋仲であることが判明してしまったんだけども……あれだな、二人はロミオとジュリエットなんだ。モンタギュー家とキャピュレット家。毒を飲むぐらいなら目撃者を消す方向に突っ走ってるけれど。
「仮にだけどさ、ラミアとルーズ姫が和解して仲良くしよ、ってなったらどうなるの?」
「…………前に一回あったのよ。ちょうど《地球》との国交が始まるかどうかの頃に、時代は変わるんだから、過去の遺恨を忘れて手を取り合うべきだって、当時の両家のトップ同士がね」
「…………それは、その、上手くは……いかなかったんだよね?」
「そーね、《秘輝石》を抉った死体が二つ転がっただけね。詳細まで知りたい?」
「いいです……」
「厄介なことに、憎み合って競い合うことで発展してきた家同士でもあるのよ。だから当主の一存ぐらいじゃどうにもならないし、考えを変えさせるにはどっちの家も勢力が大きすぎる、ましてラミアとルーズはその最前線。もし二人が和解した、なんて事になれば」
「なれば?」
「戦争……内戦になるのかしら? どっちかの家が滅びるまで殺し合いになるかも知れないわね。それか被害が大きくなる前に、二人の首を吊るす事で決着にするか。ろくな事にはならないのは確かね」
「…………」
つまり、二人の蜜月は――目撃者を問答無用で消すぐらいの絶対にバレてはいけない禁則事項、ってことだ。
……だったらこんなところでいちゃついてんじゃねえよ! という気持ちを、私はそりゃあもう、全力で飲み込んだ。
なお、第三階層の階層主は、クァトランが指を弾いたら消滅した。合掌。




