☆『四回目』『一日目』『昼』☆ その2
「《使い魔》とうまくいかない……ですか?」
「そう、ファラフはウチのクラスでも一番《使い魔》と仲良くやってるじゃない?」
『ホッホッホッホ』
ファラフの傍らで、ジーンが腕を組みながら笑った。
一度攻略したルートだから隠し部屋の場所もわかっているんだけど、会話の時間が欲しかったので一度ぐるりと回ってみる事にした。
幸い、ウッドマンはファラフが問題なく蹴散らしてくれているので進行は円滑だった。相変わらず他人頼りの魔法少女で申し訳ない。
「仲良く……というか、あの……すいません、《使い魔》が協力してくれない事って、あるんですか……?」
うん、それは私もそう思うんだけど、それを言われたらこの話が終わってしまう。
「少なくともウチのレムリアは……手伝ってくれないなあ。ジーンはどう? 反抗期はあった?」
ファラフは傍らのジーンに軽く触れて、首を横に振った。
「た、確かに、ジ、ジーンは僕が駄目な時は、励ましてくれたり、怒ってくれたり、しますけど……指示に逆らったり、反抗したり、はなかったです……」
『ホッホッホッホ……』
端から見てても、ジーンはかなり感情豊かな《使い魔》だ。
喜怒哀楽がしっかりしていて、自我が確立されているのがよく分かる。
「あとは、相性が悪い生物を《使い魔》にしちゃうと……っていう話は、聞いたこと、ありますけど……」
《使い魔》にはざっくり『自分の《魔力》を使ってゼロから作る個体』と『自然物に《魔力》を注いで作る個体』の二種類に分けられる。
ファラフの《魔力》から作られたジーンは前者、黒猫を素体としているニアニャのくーちゃんは後者。
「でも、レムリアは、リーンさんが作った《使い魔》ですよね?」
役に立たないとは言え私が《使い魔》を持っている事は周知の事実で、人前で披露したこともある。つまり羽と角の生えた水まんじゅうというあのなんとも言えないビジュアルを、ファラフも当然知っている。
あれはどう考えても私の《魔力》から生まれてないとおかしい形状だ、それは認める。
「なんだけど……半々、かなあ」
「半々?」
「レムリアは、死んじゃった魔法少女の《秘輝石》を材料に作った《使い魔》なんだよ」
「…………………………はぇ?」
「や、魔法少女って言うと語弊があるかな? 《魔法の世界》にも《地球》にも属してない娘だったから。そいつは私のお父さんを殺した奴でさ、私にとっては憎き仇って感じで」
「…………え、えええ?」
「色々あって仇討ちは出来たんだけど、満足して死のうとしてたから、絶対に許してやるもんかって。砕けた《秘輝石》にその場でありったけの《魔力》を注いで《使い魔》にしたんだよね。それがレムリア」
「…………………………………………」
「ファラフ?」
いつの間にか私のほうが前を歩いていた。
振り向いてみると……しまった、ファラフがドン引きしてる。
「……………授業外の話だから、大丈夫だよ?」
「すいませんごめんなさい僕は何も聞きませんでした知りませんでした!」
聞いたことのないレベルの早口で謝られた……まあ、これを知ってるのは、学園じゃハルミ先生と、メアと、あとは隣のクラスの《烏》ぐらいか。
「で、でも、あの、すいません、一言、いいですか?」
「うん」
「その経緯で《使い魔》にした子が言うこと聞いてくれるわけなくないですか」
「それは本当にそうなんだけども」
あの女を《使い魔》にした一番の理由は復讐と嫌がらせだし。
「でも、もしかしたら、ファラフならば、こんな最悪な関係性の《使い魔》とでも、仲良くなる方法を教えてくれたりするかもって……」
「例え全人類に同じ質問をしても全員が無理だって言うと思いますけど……」
おいおいおい、結構なことを言うじゃんか。
「少なくとも、僕とジーンの関係性とは、似ても似つかないですし……一緒にしてほしく……ないです」
……うん、これは結構、あれだね。明確な拒絶の意思と共に放たれた言葉だね。
ここまで言われてなお食い下がると、今後の友情にも影響が出そうだ、いや、すでに引き返せないレベルまで来ている気がする。
「……あの、無理やり、言うことを聞かせることだって、できますよね?」
「それもそうなんだけどね」
どっちのタイプであっても、結局、《使い魔》とは魔法少女自身の《魔力》で動いているので、その気になれば意思を無視して無理やり命令することはもちろん出来る。
「けどまあ、最終手段と言うか、一度それをやっちゃうと、自発的に動いてくれることは一生なくなるじゃない?」
単純に《使い魔》を『目』や『耳』として使う場合も、自分で操作しなきゃいけないのはかなり本末転倒だし……その辺りに完全に無頓着で、《使い魔》は魔法少女の便利な道具だ、と割り切って運用している娘も学園にはいるけれども。
ま、今回はレムリア抜きでやるしかないか……まあ、どっちにしたってここまでの会話はもともと時間潰しみたいなものだ。
「……本当に、どうしても力を貸してほしいなら、《使い魔》に寄り添うしかないんじゃないでしょうか」
そう思ったのだけれど、ファラフは意外なことに、そこから更に話を続けてくれた。
「寄り添う?」
「僕も、最初にジーンを作った時は、困ることもありました。《魔力》の受け渡しが上手くいかなかったり、言う事を聞いてくれなかったり……」
「それはこう、うるせぇ黙れ死ねって言われるか、完全に黙殺されるかの感じで?」
「そんなの魔法少女と《使い魔》の会話じゃない…………」
またしても完全否定された。いいよわかってるよ。私達は普通じゃないよ。
「そうじゃなくて、ジーンはちゃんとジーンの考えがあって、それを私が無視して命令すると……すごく嫌なんだなっていうのがわかって」
傍らのジーンのヒゲをくい、と引っ張るファラフ。
『ホッ!?』
痛覚的な物があるのか、ビクンッ! と身体を跳ねさせた後、主をじとっと睨み、トゥーンアニメさながらに、ぐるぐるとその場で回転して抗議の姿勢を見せた。
ごめんごめん、と宥めながら、ファラフは続ける。
「僕から生まれたこの子が、僕の知らない事を考えてて、僕とは違う意思を持ってる、僕じゃない誰か、っていうのが、不思議で……凄いことだと、思うんです。ジーンが初めて星を見たときは、すごかったなあ」
「星?」
「はい、夜空の星です。もう、大興奮で、見て見て! 空が光ってるよ! なんで? すごい! って大はしゃぎで」
『ホッ? ホッホッホ!』
ちょっちょっとご主人、恥ずかしいから言わないでよ! みたいな感じでぺしぺしとファラフのターバンを叩き始めるジーン。なるほど、確かに感情表現豊かだ。
死ね、か殺す、かくたばれ、以外の言動を発しない、我が家の《使い魔》とは大違い。
「それから、僕も気づいたら、星を見るのが趣味になっちゃって……こういう島って、星が綺麗だから、今日も夜になったら、見に行こうかなって……」
「へー、それは知らなかった」
「あはは……落ち込んだり、嫌な事があった日とか、あと、眠れない日とか……ふと夜中に目が覚めたら、星を見に行ったりするのが好きなんです…遠い遠い光がこの世界に届いてるって、何だかすごい不思議で……」
そう続けたファラフの頬に。
「…………ん?」
瞳から、雫が溢れて、つぅと伝って落ちた。
たった一滴、樹皮で出来た迷宮の床に染み込んで、すぐに消えてしまった。
もしかしたら気のせいだったのかも、と思うぐらい、それはあまりに一瞬の事で…………いや、待てよ?
今なんか大事なこと言ってないか?
「ファラフ」
「……? はい?」
「今日も星を見に行くつもりなんだよね?」
「は、はい、そうですね。ご飯食べ終わったら……」
「夜中にふと目が覚めても星を見に行くことがある?」
「え、えと、そうです……ね? 割と頻繁に……」
「………………………………」
「リ、リーンさん?」
一回目も二回目も、ファラフは夜に居なくなった。居なくなって、帰ってこなかった。
「ファラフ」
「な、なんでしょう」
「今日だけはちょっと星見に行くのやめない?」
「な、なんでですかぁ!?」
「そうなるよなあ」
「きょ、今日のリーンさん、ちょっとおかしくないですか……?」
あるいは元からおかしかったのを今のままで気づいてなかったのか? という疑問がありありと見てとれる、警戒心に満ち満ちたすげぇ顔をされている。
何を間違えたんだろう、人生かな。
「…………実は、今日ちょっと嫌な未来を見て」
「ふぇっ」
「今までと違って数秒先じゃなくて、ちょっと先の未来というか……うん、そんな感じなんだけど、おかげで《魔力》がからっけつでさ」
「な、なるほど……?」
「その未来的には、こう、今夜はさ、出歩くとすごくマズいらしいんだよね」
「そ、そうですか……」
………うーん、いまいち信用されてない感じだ。私自身が自分の言動に説得力がないのを分かっているから余計にそう。
数秒先の未来を見るのに《魔力》がからっけつになる、ということになってる私が何を見たんだ、という話だし、仮に未来から時間を逆行してやってきた、と真実を主張したとして、クァトランが死にました、その流れで全滅しました、リソースはどこから引っ張ってきたのかわかりません、というやっぱり現実味のない話をしなければならないわけで……こればかりはメアでも信じてくれなさそうだ。悪巧みしてるのかな? とは勘ぐられると思うけど。
「じゃ、その、今日はやめておきます……だからその、いつものリーンさんに早く戻ってくださいね……?」
私の言っていることを信じたというより、逆らうとどういう奇行に走られるかわからないから刺激しないでおこう、という感じの物言いだった。
まあ、夜歩きを止めてくれるなら、どっちでもいいか。
「あ、ファラフ、そこに隠し部屋あるよ」
「ええっ!?」




