☆『二回目』『一日目』『夜』☆ その2
とりあえずさっと着替えて部屋を出て、ロビーを通過して食堂へ。
既にめいめい席に着いていて、前回と同じようにメア特製無水カレーが卓上にならんでいた。
「リーンちゃん、遅いよ~、ちゃんと綺麗になった?」
「おかげさまで」
当然のように空いていたメアの隣に座る。髪の毛に時間を取られていた事は見透かされているらしく、しょーがないなぁ、と苦笑されてしまった。
……この感じは、うん、言いたいことはあるけど、先に言い訳だけはさせてくれる時のメアだ。食事が終わって部屋に戻ってから、ある程度説明すれば大丈夫そう……かな。
「食べながらでいいから、ちょっと聞いてもらえる?」
福神漬けをどばっと皿に盛りながら、委員長が言った。
内容は、前回とほぼ一緒で、《迷宮》の仕組みを解き、全員の状況を確認し、方針を決めて、明日も頑張ろう、って感じだ。
ジーンの一件がないから空気は和気あいあいとしていて、今度はしっかりカレーを味わえる。メアのカレーはトマトのホール缶を親の敵みたいに入れるので非常に酸味が効いている。
「したら、今夜は自由行動ってことでええん?」
食事も終わり、皿を片付け、なんとなくおひらきのタイミングかな? という空気になってきた所で、ミツネさんが委員長に尋ねた。
「で、いいんじゃない? ただし睡眠はしっかりと摂って《魔力》の回復に努めること」
「りょうかい、りょうかい」
両手を狐の形にして、コン、コン、と狐仕草を添えた。
「せやったら、どないする? 皆でなんかして、時間潰す?」
そうか、今回は特に争いがなかったので、その分の自由時間があるのか……。
ちらりと横を見ると、どうするの? とメアが表情で問うてくる。
部屋に戻ってお話タイムでもいいか……? と思った矢先。
「ちなみに、私はUNOを持ってきたわ」
委員長が堂々と胸を張り、いそいそとポーチからカードの束を取り出した。
「マジかよ」
遊ぶ気満々じゃねえか。
「合理的な判断よ、大貧民はローカルルールが膨大で始まる前から口論になるでしょう」
私が言いたい事はそういうことじゃないんだけど……委員長がいいっていうのならいいのか……?
「素敵なお誘いなのですけれど……わたくしはご遠慮させていただきますわ。少々疲れてしまいましたし……」
ルーズ姫は申し訳無さそうに微笑んで立ち上がると……それから、離れた席にいるラミアを全く光のない、冷めた目で見下ろした。
「穢らわしい者と同じ卓に着いて、楽しく遊べるとも思えませんので」
うわぁ。
「全く同感だな。私も遠慮させてもらおう」
ラミアも応じるように立ち上がり、二人の視線がばちりと交錯した。
頼むよー、ギスギスしないでくれよー。
ちょっと楽しそうな感じに傾いた空気がどんどん淀んでいくよー。
ふんっ、と同時に顔をそむけ、少しの間をあけて別々に出ていく二人。
残された私達の空気ったら……。
「そ、その、僕もちょっと」
続いて、ファラフも席を立った。
「えっと……ジーンとやりたいことが、あって……す、すいませんっ」
こちらが申し訳なくなるぐらい恐縮しながら、何度も頭を下げるファラフ。
……何か、落ち込んでる? どうしたんだろう、ジーンは無事だったし、私の考えすぎかな?
得意満面にUNOを取り出してそうそう、三人が離席してしまって、委員長の表情が固まってしまった。
「……じゃあ、ボクやろっかな。リーンちゃんもやるでしょ?」
「メア?」
「ファラフちゃんが何かしたいんだったら、ちょっと一人にしてあげたほうがいいかなって」
「ああ、なるほど」
メアも私と話したいはずだけど、ファラフが部屋にいるなら話しづらいし、時間潰すのにはちょうどいいか……。
うーん、でもUNOって三人でやっても微妙なんだよな……。
助けを求めるように席を見回すと、ミツネさんは呆れ顔で肩をすくめた。
「ええよ、ウチもルーズの機嫌取るよりはこっちのほうが楽しそうや」
「はいはーい! あたしもやるー!」『負けねえにゃー!』『こっちは三匹だナー!』
「クローネってカード持てるの?」
「麻雀だってできるがー?」『にゃめんなー?』『余計な心配だナー!』
「クロクロ、カードゲーム強いんだよー。やり合いたくなーい」
そういうニアニャもなんだかんだ乗り気の姿勢を見せ、これで都合六人。
これならゲームになるかな、と思って、ふと気づく。
「…………」
クァトランが、席も立たず、かと言って口も挟まず、足を組んで座ったままだ。
座ったままなのだが、気持ちチラチラとこちらを見ているような……。
「…………あの」
「何よ」
私が声をかけると、ものすごい速度で返事が来た。
「……クァトランもやる?」
「……………………」
私を睨んで、一秒、二秒、三秒。
やがて、椅子をズズと近づけて、目を逸らしながら呟いた。
「…………………………ルール、知らないけど」
メアとミツネさんは目を見開き、クローネとニアニャはおっ、と顔を見合わせた。
あの暴君が、最強の魔法少女が、クァトランが、クラスメートとカードゲームやってる姿を、誰が想像できよう。
昨日までの……前回までの私も、多分考えられなかった。
「最初はチュートリアルでプレイしましょう」
そして、委員長は既にシャッフルしたカードをそれぞれに配り始めていた。行動に無駄がなさすぎる。
「場のカードと同じ数字か同じ色なら手札のカードを出せる、一度に複数枚出すのは無し。特別な効果を持ってるカードもあるわ、やりながら覚えて」
一人七枚の手札、そして中央に山札。
勝負の準備が整って、いざ始まるぞという段階で――――。
「お嬢、お嬢、珍しいねー。こういうの参加するの」
誰もが思ったことを、ニアニャが代表してぶっこんだ。
ギザギザの歯がニヤニヤと形作られて、からかっていることがひと目で分かる。
クァトランはふんっ、といつも通り鼻を鳴らし、顔を背け。
「アンタらが残るのに私だけ部屋に戻るわけにいかないでしょうが」
「えー、じゃあわたしとクロクロはやっぱお部屋いこっかなー? 疲れたからぐっすり寝たいしー」
「ぐっ……!」
二人の監視という体裁があればまだ面目も立つというものだが、ニアニャの意地悪が止まらない。
「……………あははは! じょーだんだよお嬢ー。皆でやろー」
言葉に詰まったクァトランが暴力に訴えだす前に、ニアニャは自分に配られた手札を取った。
「でも、ゲームの結果はゲームの結果だから、手加減しないよー?」
「それぐらいわきまえてるわよ! 私はね、例え魔法を使う勝負じゃなくても最強なの!」
意気込むクァトランが札を手に取り、まだルールの説明も受けてないってのに、高らかに宣言した。
「……全員ボコボコにしてやるわ!」
……ということで、ここからはざっくりダイジェスト。
「UNO! UNO! 見なさいあと一枚で私の勝ちよ!」
「そんじゃお嬢スキップゥ~」『飛ばすニャー』『残念だニャー』
「クローネアンタ!」
「じゃあリバースー」
「そしたらドロ2」
「ちょっ…………っと! また札増えちゃったじゃない!」
「リーンちゃんごめんね、ドロー4」
「メア? メアさん?」
「今度こそこれで……!」
「あー、お嬢UNOって言ってなーい!」
「あああああああああ!」
「こないな時間に元気でええねえ。UNO」
「しれっとミツネさんがあがろうとしてる!」
「止めろ止めろ誰か止めろ!」
「任せなさい、マグナリア拳法。虎の子のドロー4」
「何しよんや委員長クラァ!」
「ミツネさんキレるとホント口悪いな!」
「次で上がる次で上がる次で上がる次であがる」
「ごめんお嬢」『ほんとごめん』『ドロー2』
「クローネェエエエエエエエエエエエエエ!」
「あ、私あがりー」
「ニアニャ!?」
とか、そんな感じで。
誰が勝って誰が負けたか、拘ってる割にはあんまり細かく記録を取ってたわけではなく、ただただ遊ぶための時間が過ぎて。
「…………流石にそろそろ休まないとまずいわね。シャワーも浴びたいし」
という、発起人の委員長の一言で、おひらきになった。
「せやねえ。思ったより楽しかったわ。クァトランも」
「……何よ」
「案外とっつきやすい所あるやん、びっくりしたって」
左の袖で口元を隠し、コン、コン、と、右手で狐の顔を作って、何度かつまむ仕草をして、ミツネさんは笑った。
「馴れ合ったつもりはないわよ」
結局一勝も出来なかったクァトランは、別にそれを理由に何かするわけでもなく、ただ、いつも通り不機嫌そうに、ふん、と鼻を鳴らして、そっぽを向いた。
「歯ぁ磨けよー」『お休みにゃー』『また明日ナー』
「お嬢ー、落ち込まないでねー」
「るっさい、さっさと帰れ」
しっしと二人を追い払って、委員長もさっさと部屋に戻ってしまって、気づけば、私とメアとクァトランの三人。
「じゃ、私達も戻るよ。クァトラン、おやすみ」
私が軽く手を上げて挨拶すると、メアもならって小さく頭を下げた。
「おやすみ、クァトランちゃん」
「…………」
「クァトラン?」
「…………おや――――アンタらも、さっさと休みなさいよね。特にカタリベ。《魔力》不足で足を引っ張ったら承知しないから」
「はは……肝に銘じとくよ」
別に笑い事じゃなく、たとえ私が最弱の魔法少女であっても、《魔力》の残量は生命線だ。それぐらいは分かってる。
「それと、ユメミ」
「えっ、ひゃい?」
自分が名指しで呼ばれると思ってなかったのか、メアが反射的に背筋を伸ばした。
「そいつはちゃんとアンタのところに帰すから、安心しなさい。盗ったりしないわよ」
試験以外で面倒なんて見てられないわ、と言い捨てて、クァトランも食堂を出ていった。
「……じゃあ、しょうがないなあ」
メアはにへ、と笑って、その小さな手で、私の空いた手を軽く握った。
軽い感触と仄かな体温。
「今日のことは、許してあげましょう」
やっぱり気にしてたし、やっぱり色々考えてたらしい。
……アフターフォローまでされてしまったら、それこそ私に立つ瀬なんて残っちゃいないわけで。
「申し訳ありませんでした」
せめて試験を無事に終えて、言い訳なしで話せるようにしておきたいものだと、この時の私は気楽に考えていた。
☆
そーっと部屋の扉を開けると、ファラフが静かに寝息を立てていた。
……これで部屋に居なかったらどうしようかと思った。
「リーンちゃん、シャワーは?」
「んー……帰ってきて浴びたからいいや。歯だけ磨いて寝る」
「そっか。じゃあ僕もさっと浴びてきちゃうね。先に寝てて」
「うん、おやすみ、メア」
シャワールームに引っ込むメアを見送ってから歯を磨いて、そのままベッドに潜り込む。
気を張っていたし、色々あったし、疲れていたんだと思う。
メアが戻ってくるまではうとうとしてようかな、なんて考えていたはずの私は、まぶたを閉じて数秒で、意識をそっと手放してしまった。
ようやく、長かった二回目の一日目が終わり。
二回目の二日目が、始まった。




