☆『二回目』『一日目』『昼』☆ その4
とりあえずお互い冷静になるために数分間、呼吸を整える時間をとって、改めて。
「冷静になった?」
「なんで私がたしなめられる側なのよ……」
「先に暴力に訴えたのはそっちだし」
「アンタが余計なコトをほざくからでしょうが」
「仲良くしたいな、って言っただけでここまでのことをされなきゃいけないのか、という疑問がまず浮かぶんだけども……」
それがクァトランの逆鱗に直結してるとは、まさか思いもしないわけで。
「擦り寄り方が下手くそすぎて逆にイラっとしたのよ。もうちょっとなんかあるでしょうよ!」
「何かって言われても……あ、クァトラン」
「何よ」
「肩に毛虫が」
「きゃああああああああああああああっ!?」
慌ててその場を飛び退き、肩を払うクァトラン。
「やだやだやだ、取って取って! ちょ、嘘でしょ!?」
「うん、嘘だけど……」
クァトランの腕が再び私の顔に伸びて、頭部をガッチリ掴ん……痛い痛い痛い! アイアンクローだこれ!
「………………」
あ、やばい、目のすわり方が今日一で冗談が通じない感じになってる。
「へぇーアンタって正真正銘の命知らずだったのねぇー。私が今まで気まぐれで見逃してやってたってことを心の底から理解してなかったってワケ、そーぉ」
「タップタップタップタップ!」
べちべち手首を叩いてみるが、びくともしない。肉体強度が違いすぎる。
「申し訳ありませんでした! 悪気はなかったんです!」
「じゃあ何があったのか言ってごらんなさいよ」
「悪戯心と好奇心」
「それが遺言でいいのね」
「ごめんなさいすいません許してください!」
みっちり三十秒、頭蓋骨を軋ませてから解放された。
良かった、砕け散ってなかった。ヒビぐらいは入ってるかも知れないけど……。
「次戯けたらマジで殺すから」
「……………………」
「何よ、目なんか閉じて……やっと自分を顧みる気になったワケ?」
「いや、五分後の私ってもう生きてる保証がないんだなって……」
「五分以内に何かやらかすつもりなの!?」
とりあえずわかったこと、クァトランは毛虫が苦手。
「じゃあ真面目な話するけど……ちょっとびっくりしてる」
「絶対に私のほうがびっくりし続けてると思うんだけど」
その分、物理的な暴行被害を被ってるからトントンだと思う、じゃなくて。
「クァトランって凄い周りを見てるんだなって」
「……意図がつかめないんだけど、コケにしてるってことでいい?」
「基本的に獰猛なの止めてよ……そうじゃなくて、さっきは私のことを何も知らないって言ったけど、私が斜に構えてるとか、メアと仲がいいとか、そういうこと」
「はぁ? それぐらい見てればわかるでしょうが」
「それぐらいのことを見てるイメージがなかったっていうか、私のことなんて校庭の砂の一粒ぐらいにも認識してないんだろうなって思ってたから……」
「ほんっとうに喧嘩売ってるわけじゃないのね? ん?」
「下手におもねろうとすると怒るから歯に衣着せないほうがいいのかなって」
「建前と本音ぐらいは使い分けなさいよ」
一部の隙もない正論だった。
「…………まって、アンタ自分でも斜に構えてる自覚あんの?」
それから間を置いて、クァトランが尋ねてきた。うん、まぁ……。
「そんなつもりはないけど、まあ傍から見たらそう見えるかなとは……」
メアと話してなければ基本図書室で本読んでるか、ハルミ先生に呼び出されてるかだから、大雑把な印象がそんな感じなのはわからないでもないというか。
私が客観的に私を見た時の印象は、よくわかんない奴、になると思うし。
「ほんっとに変な奴ね……ていうか、私をどんだけ薄情だと思ってたわけ?」
「いきなり首絞めてくるくらいには排他的だと思ってるけど……」
心からの本音がすっと漏れてしまったので、口走ってしまってからまずいかな? と少し身を固めたのだけれど……返ってきたのは暴力ではなく、
「………………悪かったわよ、やりすぎたわ」
という、ため息混じりに零れ出る謝罪だった。
「…………………………」
「…………何その顔」
「…………クァトランって謝れるんだ…………!?」
「次戯けたら殺すって言ったわよね?」
直前の謝罪が何の意味もなくなってしまう無慈悲な処刑宣言だった。
「今のは心からの本音だけど!?」
そもそも【前回】でクァトランが一言謝ってくれてたらあんなにこじれなかったんじゃないかという思いが私にそれを言わせたのだけど、説明しろと言われても出来ない部分だからどうしたもんか。
「アンタ、ちょっと私に対する印象を三つ並べてみなさい」
「巨乳、最強、暴君?」
一歩距離を取られて、すっと胸元を隠された。心外だ。
「…………そこで『王族』が出ない辺りが《地球》の魔法少女って感じね」
私達がクァトラン達の世界を《魔法の世界》と呼ぶように、向こうの住人はこちらの世界のことを《地球》と呼ぶ。その内、九割は日本を指しているわけだけど。
「正直、《魔法の世界》のその辺の情勢が全然ピンとこないからさ……私がクァトランに抱いてる近づきにくさは、単純に偉そうで何言っても怒られそうだからだし……」
オブラートに包むような会話をすると怒るし、じゃあこちらから歩み寄ろうとすると手が出てくるし、本音で話すと逐一イライラするんだからどれだけ気難しいんだって話だよ。
「………………………………」
あ、今、私の言う事にいちいち突っかかってると話が進まないから、譲歩してやるか……って顔してる。
すっげぇ眉にシワが寄ってる……こんなクァトラン、初めて見た。
「………………ふぅー」
なんとか怒りを飲み下したらしいクァトランは、カツン、とヒールを翻し、歩きながら話しだした。
「じゃあいいわ、《迷宮》探索も退屈だし、ちょっと《魔法の世界》の話をしてあげる、光栄に思いなさい」
「う、うん」
なんか予期せぬ流れになったが、これはこれでいいんじゃない? 要するにクァトランが階層を破壊しなきゃいいんだから、会話で気が紛れるならそれに越したことはない。
最悪、私がクァトランを止められなくても真下に誰か居なきゃいいんだし。




