☆『一回目』『二日目』『朝』☆ その2
がらんどうで、光のない、くすんだ金色が、私を見た。
「あは――――――『『やっちまったナー!! あはははははははは!!』』」
一人の口から発せられる、三重の声。
高笑いをするクローネ。目だけが笑ってない。空っぽだ。何もない。
もう、何も映してない。
呆れ顔のニアニャは、まだ少し痙攣しているマグナリアに近づいて、おもむろにコスチューム……胸の中に手を突っ込んだ。
何してるんだ、と制止できる魔法少女は、この場に居ない。皆、現状の急展開に、頭が追いつけていない、私も。
「あったあった、ばいばい、マグマグ」
ビシリ、ミギッ、と鈍い破裂音がして、マグナリアの身体が一際、大きく跳ねた。
服の裾からパラパラと、割れたオレンジ色の結晶の欠片が、こぼれて落ちた。
――――《秘輝石》を、砕いた?
「クーロークーロー、せめてやるなら、ちゃんとやろうよー、可哀想だよー、まだ生きてたよー?」
「『『あははははははは――――』』って、悪い悪い、勢い余っちゃった」
クラスメートとして親しんできたから、忘れてしまっていたんじゃないか。
この二人は問題児だけどいい子なのに、何をしたんだろう、だなんて、気楽に考えていたんじゃないか。
最初から知ってたじゃないか。
クローネ・クローネとニアニャ・ギアニャは―――クァトランの監視下でのみ在学を許されているだけの、大罪人であることを。
「――――――いやああああああああっ!」
この場から逃げ出そうと、階段を駆け上がったルーズ姫を、誰が責めることができよう。
「――――待て!」
それを追いかけたラミアを、誰が更に追うことができよう。
この場に残った、私と、メアと、ミツネさんが。
黒い《魔力光》を燻らせるクローネとニアニャ相手に身構えたことを、誰が咎められよう。
「元気だなー、ルーズっちはさー」
クローネも視線で二人を追いかけるだけで、意識は私達に向いている。
ニアニャは、くーちゃんを抱きかかえて、頭に乗せて、瞳の中の歯車を、くるくると回している。
「――――はよ逃げぇ」
ミツネさんが、小さな声で言った。
「もうどうにもならん、終わりや。ウチらは全部間違えた。二人だけでも、逃げぇ」
「ミツ、ネ、さん――――」
「ウチはやらかしたことの責任を取る。ホンマ、どこで間違えたんかな……」
「あはははは、ミツネっち? 遊んでくれるの?」
返答は、ミツネさんの先制攻撃、狐の顔を指で作る、いつものポーズ。
バチンッ、と音がして、クローネの顔が大きく揺れた――いや。
「――――――あははははは! えっぐー!」
右目が破裂していた。
視界に映るものに触れる事ができる固有魔法、《遠くにある物を動かす魔法》。
それは言い換えるなら、射程距離のない接触攻撃が可能という意味だ――手が届かないところから、眼球を潰すことだって出来る。
「痛い痛い! うわー! すっげぇー! こんな事ができるならもっと早く言ってほしかったナー! そしたらあたしさー、ミツネっちともっと仲良く出来たはずニャー!」
そして、その程度で、クローネは怯まなかった。スカートの中からわらわら、ぞろぞろと、無数の小さなぬいぐるみ達が這い出てきた――何体いるのか、すぐには数え切れないぐらいの量だけど。
マグナリアの……魔法少女の首を一撃でへし折る殺傷力を有する、クローネの兵隊達。
「歯ぁ食いしばれやおどれらァ!」
「ひひひひひひひひひひ! たぁのしぃーっ!」
なにかしなくてはいけない。
なにかしなくてはならない。
それがわかっているのに、体が動かない。
無力でも、無能でも、憧れの背中に追いつくために。
泣いている誰かに手を差し伸べて。
助けを求める誰かの、絶望を払う希望になれるような。
あの日の私を一人でも減らす為に。
魔法少女になる為に、ここに居るんじゃないのか、語辺リーン。
なのに。
なんで私の足は、動かない。
「リーンちゃんっ!」
ぬいぐるみの群れが押し寄せる、メアが私をかばうように、抱きついた。
違う、そうじゃない。
「メア――――」
哄笑、戦闘音、悲鳴、絶叫。
傍若無人な質量が、メアもろとも私を押し出して、玄関の扉を破壊し、身体が外へと吹き飛ばされる。
仰向けのまま、引っ張られる身体、押し出される感覚。
建物の屋上から、赤い何かが吹き上がるのが見えた。
「大丈夫だよ、リーンちゃん」
メアの《秘輝石》が生み出した、ココアブラウンの暖かな《魔力光》が、私の全身を覆っていく。
「ボクが、絶対守るから」
違うよ、メア。
それは、私がメアに言いたかった事なのに。
ぬいぐるみが、黒い《魔力光》を迸らせながら殴りかかってくる。
自分の《魔力》を、全て私を保護するための防壁に注ぎ込んで。
あまつさえ、生身の身体で覆いかぶさって、一身に暴行を受けるメアを、私の貧弱な力では、色彩のない《魔力》では、押しのけることも出来ない。
身代わりになることすら出来ない……守られることしか、出来ない。
衝撃が、頭に響く。《魔力》の膜の上から、ぬいぐるみの殴打が続く。
意識が揺らぐ、視界が霞む。
私を抱きしめる、熱の感覚だけが、身体に伝わってくる。
そして、




