☆『一回目』『一日目』『夜』☆ その4
私達がカレーを食べてる間に外に出て、部屋に戻ってる間に食堂でカレー食べてる、というのが一番ありがちなすれ違いなんじゃないかと思って、エントランスホールを抜けて食堂を見に行った所、
「ぞる」
くーちゃんが暗闇の中、テーブルの上に鎮座して私、というか食堂の出入り口を凝視していたので慌てて逃げ出した。怖い怖い怖い怖い。何目的!? 何目的なの!? 怖いよぉ!
とりあえずあの中にファラフは居ない、居ないはず、居てほしくない、居たら事件だ。
「あら、リーン様」
ホールに引き返すと、ルーズ姫が中に扉を開けて、中に戻ってきた所だった。
「ルーズ姫? どうしたの、こんな時間に……」
「少し散歩を。考えることも色々ありましたし……ミツネさまがお辛そうでしたので、お眠りになるまでは、席を外しておこうかと思いまして」
「ああ、そっか……」
ミツネさんを部屋まで運んだのは、そういや私だった。
「リーン様こそ、こんな時間に……どうなさいまして?」
「や、ファラフの姿が見えなくて……夕飯の時までは、部屋で寝てたはずなんだけど」
驚いた顔をするルーズ姫、この感じだと、ファラフを見てはいなかったのかな。
一応聞いてみると、ええ、と頷いて、
「といっても、わたくし、海の辺りまで行って、戻ってきたくらいですので……その間に外に出られたのであれば、申し訳ありませんが、わかりかねますわ。……中には居られませんの?」
「んー……でも食堂以外は個室しかないしな……ああ、それこそミツネさんのとことか?」
ルーズ姫が外出していたなら、部屋にはミツネさんしか居ないはずだし……目を覚まして様子を見に行ったってのはありえる……か?
……いや、私達の部屋とミツネさん達の部屋は同じ一階だ、ミツネさんを介抱してから自室に戻る間にファラフが外に出てたら気づかないわけがない。
「…………くしゅっ、申し訳ありません、リーン様、お部屋に戻っても……」
「あ、うん、ごめん、足を止めちゃって。もしファラフを見つけたら、部屋に戻ってくるように伝えてくれる?」
「かしこまりましたわ、では、また明日」
ルーズ姫が部屋に入るのを見送って、扉を開けて外に出る。
途端に、冷たく肌を刺す空気と、鋭い海風。秒で戻りたくなった。
「…………外に出て、することもないはず、だよね」
人工的な光源が、拠点となる洋館以外には無いから、空の星がよく見える。
満天の星々は、地球が魔界に蝕まれる前も後も変わらない、ずっと昔から、これからの未来も、他人事のように輝き続けている。
けどそれは、遠すぎて、星という光を、点でしか認識出来ないからだ。
もしあの星の根本に同じような惑星があって、地球を見ていたら、こっちだってただの点でしかなくて……うーん、何が言いたいのかだんだん自分でもわからなくなってきた。
「近くで見てみないと、その星がどういう光なのかもわかんない……とか」
びゅう、と一際強い風が吹いて、身体がぶるりと震えた。
……ただでさえ寒そうな格好をしているファラフが、外に居るかなあ。
体温を維持する為に《魔力光》で身体を包んだら、それこそ一目でわかるし……。
あるいは、一人になりたい時間が欲しくて、姿を潜めているのかも知れない。
「……戻るか」
結果から言うと、私のこの判断は、正しくて、間違っていて、手遅れだったことになる。
部屋に戻ると、明かりは着いたままだったけど、メアはもう、いつも通りの寝息を立てていた。
手早くシャワーを浴びて、ざっくり髪の毛を乾かして、照明を切ってベッドに潜ると、そういう生物であるかのように、メアの腕が伸びてきて、あっという間に抱きまくらにされた。
「…………」
結局、人肌が一番温かいんだよな、というのを実感しながら、多分、十分もしない内に、私の意識は溶けて消えた。




