☆『一回目』『一日目』『夜』☆ その2
その視線は……当然といえば当然のごとく、クァトランに向けられている。
「ファラフにとってジーンはただの《使い魔》やない、魔法少女になってからずっと側にいた相方や。あれが事故やったのはウチもわかっとる。正否はともかく、アンタが最短で《迷宮》を攻略しようとしたらアレが一番効率がええんやろうから」
……諭すような口調だったから、ミツネさんも時間を置いて色々考えて、最大限クァトランに譲歩して、手打ちのキッカケにしようとしているのは、多分この場にいる全員がわかってる。
「やけど、そこで起きたことは、なかったことにならへんのよ。あの子はもう、どっちにしても試験を合格できのうなってしまってん」
「…………えっ?」
思わず声を上げてしまった私に、ミツネさんは細い目を更に細めて、寂しそうな表情を作った。
「《使い魔》と絆を深めましょう、ってのがファラフの課題や。ルームメイトには相談可、っちゅうんが補足されててん、ウチ、《迷宮》行く前には聞いとったんよ」
《迷宮》内での、ミツネさんのクァトランに対する怒りは、自分が死にかけたとか、ファラフの友達が失われてしまったから、だけではなかった。
「それが具体的に何を指すかは先生にしかわからへんけど……亡くならはったモンとは、無理やろ」
大前提として、私達は敵同士ではない。お互い手を取り合う理由はあっても、敵対する理由はない。
個別課題だって、出来るなら全員で顔を突き合わせて終わらせていくのが良いに決まってる。人によっては開示して協力を求められる条件があるみたいだけども。
だからこそ、親友の将来が、安易な一手によって摘まれてしまった、その事に怒っていたんだ。
対するクァトランは……俯いて、表情は伺えない。
「なあクァトラン、頼むわ。せめて謝意が聞きたい。一言でも謝ってくれたら、あとはウチがファラフをなんとかする。やけど、このままじゃあの子、あんまりに可哀想や」
クァトランも一人で過ごす時間はあった、冷静になって自分の振る舞いを見直すぐらいの余裕はあったはずだ。
ミツネさんは誠心誠意、言葉を尽くしている。
クァトランはきっと、それもわかってる。
左右にいるクローネとニアニャ、従者二人の顔を見てから。
「…………ぁー」
それら全てをわかった上で。
最強の魔法少女は、その祈りを踏みにじった。
「――――雑魚が一匹、落第決定したのを盾に、この私に頭下げろって?」
膝を組み、頬杖を着いて傲慢に。
「思い上がってんじゃあねーわよ、平民共。答えなんて決まってんのよ」
クァトランは、吐き捨てた。
「弱いほうが悪い。だからアレは《使い魔》を守れなかった、それだけよ」
謝るつもりも反省するつもりもない。
それを態度と言葉で示し、クァトランは立ち上がった。これ以上会話をするつもりはない、という素振りだった。
ミツネさんが飛びかかった。椅子を跳ね飛ばし、机を踏みつけて、
「――――クァトラアアアアアアアアアアアアアアアン!」
吼えた。
残った全《魔力》を注ぎ込んだ刺突、躊躇ない顔面狙いの一撃。
クァトランの眉間に指が触れるその寸前で、黒い《魔力光》を圧縮した防壁が、触れることを阻んだ。
ほんのわずかにでも動けば触れられるのに、薄紙一枚分、届かない。
それはミツネさんとクァトランとの間にある、絶対的な実力差だった。
「…………別にアンタが居なくても」
眼前の手首を掴んだクァトランは、ミツネさんの身体を軽々持ち上げると、テーブルと反対方向を向いて、床に叩きつけた。
「かっ…………」
「《迷宮》の突破に支障はないんだけど、そーね、アンタ自身が他の連中の課題に関わってる可能性もあるのよね、忘れてたわ」
がっ、と動けないミツネさんの頭を踏みつけて、クァトランは冷めた目で見下ろした。
「だから、明日動ける程度で済ませてあげる」
ごっ、と一発、《魔力》を込めずに顔を蹴り飛ばして、壁にミツネさんが叩きつけられた。苦悶の声が響く中、クァトランは歩き出す、もう振り返らない。
「……あー、やっちまったにゃー、お嬢」
『こりゃもう駄目だナー!』『呆れたニャー』
ごちそーさま、と告げて、クローネがその後に続く。
ニアニャはしばし腕を組んでいたが、やがて盛大に息を吐くと。
「……ごめんねー、でも、わたし達、お嬢の付き人だからさー」
困り顔で一礼して、二人の後を追った。
「…………………………ぁー」
一日目の夜、楽しい夕飯の時間は、こうして幕を閉じた。




