☆『一回目』『一日目』『昼』☆ その8
問題です、足手まといの魔法少女ってだーれだ。
答え、私。もう本当にごめんなさいとしか言いようがない。
「メアー、ごめーん」
「リーンちゃーん!」
片足をマザーウッドの根に絡め取られ、両手を縛られて、宙吊りにされているのが役立たずこと魔法少女、語辺リーン。タイツ履いててよかった。
「っ、の……」
苦し紛れに《魔弾》を撃ってみるものの、ウッドマンにすら通じなかった私のそれが、その大本に通じるはずもなく。抵抗の代償は痛みが伴う、足を縛る根が大きく振り上げられて、思い切り壁に叩きつけられた。
「っっっっっぐ」
衝撃で肺の中の空気が逃げ道を求めるように口から飛び出していき、視界がちかっと明滅する。わずかな《魔力》を背中に集中させてクッションにして衝撃を緩和しなければ、意識がぶっ飛んでたかも知れない。
私が捕まっている間にも、メアにじりじりとウッドマン達が迫り、放たれる《魔弾》がその群れを押し返す……という一進一退が続いている。
ただ、そのやり方だといずれメアの《魔力》が尽きる。小さな戦闘を休憩をはさみながら行う分には十分な供給が出来ていたけれど、現状は流石に消費量の方が多い。
「退いて……よぉっ!」
メアが隙を見て大玉をマザーウッドに向けて放つと、蠢く根の一本が壁となってそれを食い止める。命中した根は轟音を立てて弾け飛ぶが、根はまだ何本もあって、大したダメージになっていない。タイミングを間違うと私が盾にされてしまうという追い込まれ具合だ。ここから倒せるとしたら……。
「魔物の《核》を破壊する、あるいは原型を留めないほどの大ダメージを与える……」
メアがより巨大な大玉を作る時間を稼げれば……と思うけれど、近接戦闘の苦手なメアは、近づかれる前にウッドマンを処理しないといけない。結果的にヒット&アウェイに徹するハメになってしまい、その隙を作れない。
「…………メア、あれをやろう!」
「でも、リーンちゃんが危ない……!」
「メアのやることで私が危ない事なんていっこもない! ていうかごめんこのままだと私本当にきっつ…………ぐえっ!」
私とメアが喋りだしたのを不穏に感じてか、マザーウッドが再び私を床に叩きつける、頭いいじゃん……。
「っ……わかった……任せて!」
メアの手のひらに《魔力》が圧縮されていく、四体のウッドマンを一度に蹴散らした大玉よりも更に更に大きい。
『ジュラララララララララ!』
マザーウッドの指示で、新たに生産された五体のウッドマンが散開し、多方向から迫る。
正面に向けてぶちかます散弾では、前からくる三体はともかく、左右両側から迫ってくる個体に対応できない、まして、ウッドマンをけしかけると同時に、マザーウッド本体も、メアを捕らえようと足元に根を伸ばしている。
「せーえ…………のおっ!」
メアはまず、正面の敵に向かって大玉をぶん投げた。
『ジュロッ!』
弾け飛ぶ木片、さすがの破壊力、しかし続けざまにウッドマンが襲い来る。
「次は……こっち!」
続けて、ウッドマンを叩き潰してなお形状を保ったままの大玉《魔弾》を、今度は左に向けて放った。
『ジュッ!?』
「やあああああああああああっ!」
左ウッドマンを砕いた大玉は、そのまま霧散……しない。
ピタ、とその場で静止すると、メアを中心に孤を描きながら、正面の残り二体を薙ぎ払い、その慣性のままに、右から来ていた最後の一体の胴体をぶち貫き、トドメに足元に迫る根に向かって叩きつけ、地面が爆音を立てて捲れ上がった。
「《流星をみる人》!」
メアの手から伸びる《魔力》で作られた鎖が、不自然で歪な挙動のタネだ。大玉《魔弾》と繋がったそれは、さながら鎖付き鉄球の如く。
魔法少女の身体から離れた《魔力》は空間に溶けて霧散しやすい、ましてメアの大玉は威力が高い分連射が効かず、一発の燃費は結構悪い。
なら、大玉を身体と接続して《魔力》を供給し続ければどうだろう、という頭の悪い発想から生まれた、メアの必殺技……!
重力と慣性の影響を受けるように、あえて《魔弾》に重さをもたせる事で、メアの膂力がそのまま破壊力に転じる上に、何度も使い回せるのも良いところだ。
欠点としては、強度を保ちながら鎖状に変質させる、という《魔力》の加工そのものに、かなりのリソースを食う所だ。
あの鎖だけで大玉十発分の《魔力》を注ぎ込んでいるはずだし、大玉そのものにも供給が必要なので、合わせて二十発くらいは殴らないと費用対効果としては割に合わない。
あと見た目鎖付き鉄球を思い切り振り回すナイトドレスの羊角魔法少女というビジュアル的にニッチな存在が生まれてしまうけど、ここにマスメディアはいない。ちなみに技の命名は私、格好いい!
『ジュロロロロロロロロォ!』
マザーウッドも《流星をみる人》が自分にとって脅威であることを理解しているのだろう、顔らしき空洞が怒りの形相に釣り上がる。
ブンブン音を立てながら大玉を振り回すメア対、私をぶら下げて如何に盾として使うかを考えるマザーウッド。
駄目だ、私がノイズすぎる。
『ジュロァ!』
先に動いたのはマザーウッドだった、奇しくもお互いの立場は似ている……つまり重量物を先端につけた縄を有している。この場合、縄は木の根で重量物は私。
私をメアに叩きつけるという、攻防一体、一石二鳥の先制攻撃。
「そう来ると思ったよ、単細胞」
拘束されて振り回されながら言うには、あまりに説得力がないけれど。
目まぐるしく動く視界の中、メアが大玉を投げるのが見えた。
最後の《魔力》を、《秘輝石》から絞り出す、ほんの僅かな透明の光が、私の眼前に薄い膜を生み出した。
大玉が私の生み出した光の膜に触れて――滑った。
『ジュロッ――――!?』
私に直撃するはずだった《流星をみる人》が、私の作った《魔力》のレールに沿って、ぬるりと私を避けてマザーウッドへ向かっていく。
濡れた机に、溶かした氷を滑らせるように、音もなく。
「コンビ打ちだよ、フレンドリーファイアの対策、してないわけないでしょ」
重さを持たせたとは言え、《魔力》は《魔力》、既存の物理法則を凌駕するから魔法少女。
圧縮された《魔力》の大玉の周囲を、淡く弱い《魔力》で更に覆って、色彩の違う魔力間で生じる反発を最低限に抑え込む――透明な魔力でなければ実現不可能な、《魔弾誘導》。
「リーンちゃんっ!」
ただ、大玉を避けても私が振り回されてる事には変わらないわけで。
両腕を広げたメアに私が直撃するのと、魔弾がマザーウッドの口腔に飛び込み、爆発したのは、ほぼ同時だった。




