☆『一回目』『一日目』『昼』☆ その7
☆
一口に《魔力》と言っても、その運用方法は多岐にわたる。
例えばさっきからメアがバカスカ撃ってる《魔弾》は、空間に溶けて霧散しやすい、という性質を持つ《魔力》の形状と破壊力を維持する為、『圧縮して固める』という工程を経てから撃ち出す技術だ。
この《魔力》を圧縮する、というのが魔法少女によって得手不得手が激しく、出来ない娘は本当に出来ない。
ウチのクラスでいうと、ラミアはこの《魔弾》を作るのがものすごく苦手だけど、代わりに、体内に《魔力》を巡らせて身体能力を向上させる事なら右に出るものは居ない。
他にも《魔力》をどれだけ蓄えられるか、一度にどれだけの《魔力》を扱えるか、《空間魔力》をどれだけ効率良く取り込めるか……とか、そういう能力の差異が魔法少女の戦闘スタイルを確立する個性となる。
私? 私は圧縮させる技術も、体内を巡らせる技術も平均値だけど、《魔力》の相性のお陰でマイナス評価。
お察しの通り、どんな色の《魔力》でも完全に色を濾過する必要があるため、《空間魔力》を吸い上げるのはほぼ不可能レベルと言ってもいいぐらい苦手、つまり火力がゴミなのに燃費が悪い。
唯一、《秘輝石》が《魔力》を蓄えられる容量に関しては、あのクァトランに匹敵するか、ともすれば上回る、学園の歴史でも一番なんじゃないか、という高評価を、最初の機能検査の際に受けている。
……肝心の《魔力》を作り出す能力がそんなに高くないので、『ダムにペットポトルで水を注ぐようなもの』という比喩のおまけ付きだったけど。
「うーん、今日の私は役立たず……」
「そ、そんなことないよ、リーンちゃんが居ると……」
「居ると?」
「ボクのやる気は当社比三倍!」
ドン、と景気の良い音がして、またしてもメアの《魔弾》が魔物を吹き飛ばした。
「それに、リーンちゃんの凄い所はそこじゃないし」
「励ましありがと、じゃあせめて他の所で頑張ろう」
でてくる魔物はメアが吹き飛ばす、私が応援する、というあまりにも偏った役割分担をこなしながら、特に障害なく《迷宮》を突き進んでいく。
……現状、部屋、通路、部屋、通路って感じで、ルート分岐とかが全くない一方通行だから迷う要素も特にないし……隠し通路とか疑ったほうがいいかな。
『ジュジュー!』
『ジュガガガ!』
おっと、まーた通路で挟まれちゃった。気合十分のウッドマン達が腕を振り上げ突っ込んでくる。私はその場ですっとしゃがみ、メアは両手を左右に広げて、
「はいどーん!」
私の頭上を《魔弾》が通過、通路の両側でウッドマンが塵になった、合掌。
若干策を弄する様になったウッドマン達だったが、そんな感じで一時間が経過する頃には、とうとう姿を見せなくなった。
「全滅しちゃったのかな?」
「結構な数倒したもんねえ……」
このエリアはメアと相性が良すぎる。
なにせ《魔力》の消費量に、供給量が追いついているので、ガス欠の心配がないのだ。
だから個別に出てくる限りは、大した脅威にならない、んだけど。
「でも、時々挟み撃ちするぐらいの知性は見せてきてる……」
たまたま《迷宮》を徘徊してた魔物が、たまたま通路で私達を見つけて、たまたま挟み撃ちになった……と考えるには、回数が多すぎる。
「個別では駄目、挟み撃ちでも駄目、となると……」
通路を抜けて、次の部屋へ。果たしてそこには……。
『ジュガアアアアアアアアア!』『ジューーーッスッ!』『ジュルァアアア!』
ウッドマン、ウッドマン、も一つおまけにウッドマン、更にウッドマン。
総勢四体、単体で敵わないなら数で攻める。合理的だ。二体やられても二体残れば攻撃が届くという理屈だろうか。
「よーいーっ」
対するメアは両手を上げた、両手から《魔力光》が溢れ出し、通常時の二倍程の大きさまで膨れ上がる。
「しょっと!」
肥大化した《魔弾》を、そのまま叩きつけるように投げると、《魔弾》は前方に向かって飛び散った。
技というには精密ではなく、散弾、というには弾の大きさにバラつきがあるけれど、数を頼みに襲ってきた魔物相手には効果絶大だ。
弾の大小問わず、当たればウッドマンの外皮などものともしない。
『『『『ジュガアアアアアアア!』』』』
流石に一発で全員お陀仏とはいかなかったけれど、なんとか歩行できるのは最後尾にいた一体だけで、あとは手足や胴体の大半を損壊し、移動すらままならない有様だった。
「メアパンチ!」
そして最後の一体はメアの拳によって砕かれた。別に技とかじゃなくて手のひらに込めた《魔力》をそのまま握りしめて殴っただけだ。
「うぃなー!」
「ぱちぱちぱちぱち」
口と手で拍手、うん、これはもう相性勝ちだ。二、三十体でてきても問題なく処理できそう。
「入り口は狭かったけど、アタリルートだったかも? そろそろ次の階層かなあ」
大活躍できて上機嫌なメアは、鼻歌すら歌いだしかねない勢いだったが。
「メア」
「なあに?」
「一周しちゃった」
「え?」
壁を指す、メアの視線が追う。
なんということでしょう、そこには私達がでてきたトンネルが……。
「…………あれえ!? ボク達、ぐるぐるしちゃってたってこと!?」
きっちり一周して元の部屋に戻ってきてしまっていた、メアが破壊したウッドマンの残骸が微妙に残っているので、間違いないだろう。
「まあ平たく言うと」
「じゃあ、このフロアって行き止まり? うわあ、全然気づかなかった……」
肩を落とすメア……私は部屋も通路も微妙に曲がってる上にずっと右方向だったから、なんとなく一周するんだろうなという気はしてたけど、通路に分岐がある可能性もあったので何も言わなかった。
「行き止まりってことはないと思うよ。部屋は十二個、全部通路で繋がってて、円を描いてる……となると」
壁に軽く触れると、ざらざらした樹皮の感触が手に伝わってくる。一見継ぎ目もなにもないけれど……。
「真ん中が怪しいよね」
私は、《秘輝石》から、少量の《魔力》を絞り出し、細かな粒子として解き放った。
なるべく遠く、なるべく広く。《魔弾》を作る時とは逆に、部屋中に広がるように拡散させていく。
私の透明な《魔力光》では、すぐに《空間魔力》の影響を受けてしまう。広げた側から茶色に染まっていく様が、ありありと見て取れる。
「……メア、あそこだ」
攻防ともに役に立たない私の《魔力光》だが、何事も使い方次第。
変化を受けやすい、ということは、変化を可視化出来る、という意味でもある。
例えば、その階層の主のような、強力な魔物が居る空間は、より濃い《魔力》を持っているはずで――。
「らじゃー」
私が撒いた《魔力光》がより早く、より濃く染まった壁を指差すと、メアはすぐさま《魔弾》をぶっ放した。
ぼばんっ、と大きな音を立てて、樹皮の壁が吹き飛んだ。
「……みーつけた」
その向こうには奥へと続く通路がある……うん、露骨に濃い《魔力》が滲み出ているので、間違いない、この向こうに階層の主がいる、つまりボスキャラだ。
流石にメアの《魔弾》一発で終わり、なんてことはないだろう。ただでさえガス欠気味の私の《魔力》ではどこまで戦力になれるやら。
「メア、気をつけて」
「ん、ボクの前に絶対でないでね」
メアが先導し、私が数歩後ろを歩く。通路はさほど長くなく、何度か曲がればすぐに次の部屋へとたどり着いた。
『ジュロロロロロロ…………』
今までのものと比べれば歴然、ちょっとした体育館ぐらいの広さがある部屋の中央に、予想通りの魔物が鎮座していた。
ウッドマンが『歩く木人』なら、これは『歩かない木人』って言うべきなのかな、いや、それは普通の木か?
ウッドマンの十倍はある幹に、目と口のような形状の穴が開いていて、私達を睨んでいる……様に見える。
床をぐねぐねと太い根っこが這いずり回って、今にも襲いかかってきそうな気配。
それだけではなく、壁に絡みつく枝々が、解けては編み込まれ、新しいウッドマンが一体、二体と形を成していく……なるほど、ここで生産されてたわけだ。
しゅるしゅるしゅる、と枝が伸びて、私達がでてきた通路の入り口が閉ざされた。
「待ち構えられてたねえ」
「逃げ道無しかぁ……」
《迷宮》で侵入者を撃退する魔物は、魔法少女を安易には殺さない。生かしたまま捕らえて、《秘輝石》から生まれる《魔力》を、限界の、限界の、限界まで絞り取り切ってから、初めて殺す。
つまり……ここでトチったら、全部終わりなわけだ。
人生も、目的も、目標も。
『ジュロロロロロロロロアアアアアアアア……!』
ウッドマン達を生み出す大樹、マザーウッドが咆哮に聞こえる音を発し、根をしならせながら叩きつけてきた。




