☆『一回目』『一日目』『昼』☆ その2
「……えーっと、ここであってます……か?」
歩きながらみつあみを解くというそこそこの重労働に集中していたら、自信のなさそうなファラフの声が耳に入ってきた、どうやら目的地に到着したみたいだ。
なんというか、普通に廃村だった。人が住まなくなって放置されてン十年……みたいな、朽ちた家屋が何軒も立ち並んでいる……んだけど。
その廃村の、おそらく広場だったであろう場所のど真ん中に、ぴっかぴかの新築にしか見えない、二階建ての洋館が鎮座している。
ぐるりと館を囲む塀、鍵付きの門扉に、噴水と花壇が整えられた大きな庭。
周囲の廃屋が下手したら百年くらい放置されてるんじゃないか? って朽ち果て具合なものだから、あまりに異物極まりない。
しおりにはここを拠点にしろ、って書いてあるけど……。
「…………はぁ、あっきれた。ヌルゲー確定じゃない」
困惑が広がる中、一人クァトランが盛大にため息を吐きながら、ずかずかと歩いていくと、主を出迎えるように、勝手に門扉が開いた。
クァトランの言葉の真意を測りかねるものの、突っ立ってるわけにもいかず、結局ぞろぞろと後ろをついていく。
玄関を抜けると吹き抜けのエントランスホールが広がっていて、二階に上がる階段と、正面と左右に扉が一つずつ。若干の埃っぽさはあるものの、長期間放置されていた、という感じでもなかった。
「とりあえず中を確認しましょう」
というマグナリアの一言で、全員でざっと建物を確認する。
わかったのはシングルベッドが二つ詰め込まれた、それだけでギッチギチの個室が、一階に二つ、二階に三つの計五部屋。これまた狭いけど、一応シャワールーム付き。
エントランス正面の扉の向こうはキッチン併設の食堂で、それなりの量の食材が詰め込まれた業務用の冷蔵庫があった。電源もちゃんと入っていて、中身が腐っているということもない。
「んー」
トイレがないってことは、やっぱり魔法少女用の施設っぽい、んだけど、わざわざ試験のために用意してくれたのかな。
『何か不思議かナー?』『わかんないことがあるかニャー?』
「うおぁ!」
背後から肩越しに二体のマペットがぬっと視界に入ってきた。
「あはは、驚いたー!」
つまりクローネが後ろから抱きついてきたような格好になるわけで……全く気配を感じなかった。
「や、私達の試験のために用意してくれたにしては贅沢だなと……」
「そんな小難しく考える必要ないってー、多分使い回しだしこれ」
「使いまわし?」
「程よく危険で程よく安全じゃないと、試験にならないじゃーん? ちょうどいい《魔界》かどうか、先乗りして調べてたときに使ってた拠点なんだと思うなー」
「あー、なるほど?」
私が思っている以上に、試験生の安全面に気を使ってもらってるってことなんだろうか、言い換えるなら……。
「お嬢からしたら、そんな試験なんてもぉ、やる意味ある~? って感じじゃーん? それで拗ねてるんじゃないかな? にゃ?」
『急に取り繕ったナ!』『猫キャラ忘れてるニャー』
「『『あははははははは!』』」
補足はありがたいけどトリオで笑わないで欲しい、両耳がうるさい。
「でも、クァトランにそこそこやる気出してもらわないと、私は困るな……」
一般基準で『程よく危険で程よく安全』となると、私からすれば『かなり危険で気をつけて安全?』ぐらいの感じになるはずなので。
「だいじょぶだいじょぶ、ワガママ聞いてあげれば機嫌取れるから、適当に持ち上げておけばいいにゃー」
☆
「私、一部屋使うから」
確認を終えて一度エントランスに全員集合して、じゃあ部屋割りを決めるかーって段階で、クァトランがいきなりそう言った。
「初手ワガママ!?」
思わず言っちゃったよ、おかげであん? というクァトランの視線が突き刺さる、敵対判定を受けてしまった。
「部屋が五つあるんでしょ? 私が一部屋で後四部屋、あんたら九人で分けなさいよ、なんか問題ある?」
あまりの横暴、あまりの暴論。問題の有無でいえば問題しかない、マジでベッド二つ分ぐらいのスペースしかないから、三人部屋となるとミッチミチのギッチギチだよ、我慢できなくはないけども……。
しかしクァトランに真正面からぶつかり合いに行くのはアリがダンプカーに挑むのに等しい行為だ……こういう時に頼りになるのはマグナリア委員長、頼むよビシッと言ってやってよ。
「…………」
いや頼むよ何か言ってよ。私の視線に気づいたのか、マグナリアは考える仕草を続けながら。
「しおりに『一部屋を二人で使いましょう』とは書いてないのよ」
「……つまり?」
「ルール違反ではない、常識はないけど」
融通きかねえーーーー!
「お嬢、寮でも一人部屋だからにゃー」
『絶対に誰かと一緒に寝ないからナー』『ワガママだニャー』
ふんっ、と腕を組んでクァトランは胸を張った。
それなら、とラミアも片手を上げる。
「私はどこで寝ようと構わないがね、そこの女と相部屋は断固拒否する」
「それはこちらのセリフですわ、同じ屋根の下にいるだけでも不快ですのに」
別のところで火花をちらし始めたラミアとルーズ姫、いや、君たちを一緒にしようとは誰も思ってないので大丈夫だよ多分。
「わたし、廊下で寝てもいいよー?」
「や、それも流石に忍びないって」
クァトランの従者ポジにいるニアニャが、主人のワガママの責任を取ろうとしてくれるものの、その場合、他の誰かと喧嘩っ早い問題児が相部屋になることになってしまう……出来ることならニアニャとクローネは二人にはセットでいてもらいたい。
ええとだから、クァトランは一人がいい、クローネとニアニャは相部屋にしたい、ラミアとルーズ姫は相部屋にしちゃ駄目……橋渡しパズルかよ。
「なあクァトラン? どうしても一人がええん? 他の皆に迷惑かけとる自覚ある?」
ミツネさんの問いかけに、クァトランは目つきを鋭くして言った。
「迷惑? はっ、こんな試験、私一人で足りるんだから、アンタ達はオマケみたいなもんでしょ、それぐらい融通利かせなさいよ」
他九人の魔法少女をオマケと切って捨てる暴君仕草、流石にカチンと来たのか、ラミアやマグナリア辺りの顔も一層険しさを増していく。
というかまさに私がそのオマケに該当する魔法少女であるからして……だんだん面倒になってきた、もういいや。
「えーと、部屋割について提案があります」
全員の視線が、私に集まった、うう、嫌だなあ。




