☆『一回目』『二日目』『夜』☆ その1
全員、死んでいる。
叙述トリックでもなければ見間違えでもなく、幻影でもなければ夢でもない。
もう、やることは全部終わったから、最後にもう一度、順番に見ていこう、と思った。
屋上の鐘の前で、騎士の魔法少女と、美姫の魔法少女が死んでいる。
剣に心臓を貫かれた姫と、真っ赤な痕が残る程、首を絞めあげられた騎士。
命が失われても、お互いの顔に満ち満ちた感情だけは、ありありと刻まれていた。
二階、一番大きな部屋の、一番大きなベッドの上で、最強の魔法少女が死んでいる。
誰より何より絶対無敵であるはずの彼女は、身体の内側から、大事な内臓を残らずぶち撒けていた。
恐怖と苦痛を与える側であった魔法少女は、死後もなお、その立ち位置にあり続けた。
一階へ向かう階段の途中で、懇意の魔法少女が死んでいる。
虚ろな目で、口から血を流し、全ての命を吐き出した後だった。
普段から細められていた瞳は、意外なことに今のほうが大きく見開かれていた。
エントランスホールの真ん中で、石頭の魔法少女が死んでいる。
身体はこちらを向いているのに、首は壁を見つめている。
頑固で、直情的で融通の効かない彼女だけれど、今なら何を言っても聞き流してくれると思う。
食堂では、道化の魔法少女と、約束の魔法少女が死んでいる。
二人共笑っていて、二人共真っ二つになっている。
上と下で分かれているか、右と左で分かれているかの違いはあるけれど、半分こって意味じゃどっちも変わらない。
部屋の端っこには、首のちぎれた黒猫の死体も、おまけみたいに転がっていた。
大きな噴水にぷかぷかと浮かんで、演劇の魔法少女が死んでいる。
あられもない姿で、まるで水遊びでもしている様にも見える彼女を、ひっくり返す勇気は、私にはない。
泣いているのか、苦しんでいるのか、万が一、笑顔が張り付いていたら、私は叫ばずには居られないと思う。
屋敷から出て、砂浜に向かう途中で、私の友達が死んでいる。
涙を目一杯浮かべて、恐怖が顔に刻まれている。
下半身はどこにもなくて、赤い帯を引きずったような跡だけが残っている。
彼女にだけは、触れる気になった。瞼に触れて、閉じさせても、何の救いにもならないから、これはただ、私のことを、見てほしくなかっただけだ。
しばらく一人でぼうっとしていた。
雲も風も音もない、静寂の夜。
ここにある生命は、一つだけだった。
どれだけ手荒に扱っても、魔法の便箋に、魔法のインクで書かれた文字は、しっかりはっきりくっきりと残っている。
国立クロムローム魔法学園 中等部三年
語辺リーン様へ
進級試験のお知らせです。
あなたの魔法を活かしましょう。
あなたの正義を見せましょう。
あなたの覚悟を試しましょう。
皆が嘘をついています。
ハッピーエンドを目指しましょう。
国立クロムローム魔法学園 中等部三年月組担任 安倍ハルミ
試験を名乗るなら、もっと要項を明確にして欲しい。
嘘を吐いてない人間なんて、そりゃ広義では居ないだろうけれど。
なんでこの結末に辿り着いたのかが、わからない。
ああしていればよかったとか、こうしていればよかったとか。
私が何をするべきだったとか、何をすべきじゃなかったとか。
何一つわからないから、後悔すら、出来ていない。
「ハッピーエンドを目指しましょう、か」
誰も救われてない、誰も助かってない、誰も許されてない、誰も報われてない。
最低最悪のバッドエンドで決着がついている、もうどうしようもない。
これが下限値だ。
結末に、これ以下の最低はない。
「ごめんね、メア」
私は、自分の右手の甲に埋め込まれた、石を見た。
一切の色がない、出来損ないの、透き通った無色。
私を魔法少女と定義する《秘輝石》。
「私なんかが、生き残っちゃって」
《秘輝石》から絞り出した《魔力》を指に込めて、口の中に突っ込んだ。
死に損なった魔法少女に、お似合いの結末を。
指先から放たれた《魔弾》が、私の頭から上を吹き飛ばした
C103 2日目 さ02s「Southree」にて文庫版上巻頒布予定です、よろしくお願いします。