《39》
【第4クォーター:星44―57月】
「いい加減に、しつこいっての……!」
「まだまだ……!」
インターバルを挟んで始まった運命の最終クォーターは一進一退の攻防が続いていた。
ここまで、第3クォーターから激化した智花とひよりのエース対決は一時休戦とばかりに封印され、〝シューティング・スターズ〟と〝ムーン・ドリップス〟は互いにチームの連携力で勝負していた。
〝ムーン・ドリップス〟が15点差に広げれば、〝シューティング・スターズ〟はすぐさま13点差に戻す。その繰り返しが続いている。点差が縮まらない。互いにエースを使わずとも攻撃のバリエーションは豊富であり、そのため攻撃の芽を互いに摘み取ることが出来ないでいた。
13点差か……。
時間が経つにつれ、点差が重たく圧し掛かってくる。単純に考えても、2点シュートを7本決めないと逆転出来ない計算。しかもそれは、〝相手の攻撃を全部防いで〟という条件が伴う。時計を見る。残り3分47秒。
何とかここで相手の攻撃を防ぐことが出来れば―。
「あ……!?」
「かなえサン!?」
莉央のパスをかなえが取り損ねる。試合も終盤、両チームの選手共に体力の消耗が見て取れるが、特にかなえと真由は疲労の色が濃かった。開始直後からコートを縦横無尽に駆けていた2人。その運動量は他のメンバーの比ではない。加えて、2人共相手のエースを止めるべくマークについていたこともあってか、相当の負荷がかかっていたはずだ。ボールを受け損ねたかなえは元より、真由に至っては完全に足が止まっていた。
本来であれば、ベンチに控えメンバーがいるのなら真っ先に交代させてあげたいところだが、それが出来ないことが心苦しかった(今回のルール上交代不可だが)。
かなえがファンブルしたボールはその傍にいた比奈子がキャッチしてフリーになっていた陽飛に託した。
「ナイス比奈子!速攻、いくわよ!」
走り出す〝シューティング・スターズ〟。陽飛が自分で切り込み、智花と愛が後に続く。迎え撃つのはひより・亜姫・琴子の3人。ひよりが智花に、亜姫が陽飛に、琴子が愛にそれぞれマッチアップする。
「……愛!」
「あ……!?」
陽飛は目線のフェイクで亜姫を釣って愛へとパスを入れた。
「ここは絶対に攻め切る!」
「……っつ!?」
前半戦で琴子に押し込められた愛だが、積極果敢にパワードリブルを仕掛ける。残り時間と点差を考慮に入れてか、愛の気迫は鬼気迫るものがあった。愛の底力に琴子は徐々にポジションが取れなくなってくる。ゴール下をほぼ制圧した愛はシュートを放つ。
させまいと琴子はブロックに出るも愛の手を叩いてしまう。審判の笛が鳴ると同時にボールはゴールネットに収まった。琴子のディフェンスはファウル判定を受け、愛にバスケットカウントワンスローが与えられる。愛はフリースローを執念で決めて10点差まで縮めてみせた。
10点差……ここしかない!
「小田さん!」
コートへ指示を送る。この試合、俺に与えられた最重要任務。残り時間3分22秒。タイミング的に少し早いかもしれないが、相手の失敗から点差を詰めた今が契機だと判断した。
「おまかセニョリータ」
俺の呼び掛けに〝シューティング・スターズ〟はポジションチェンジ。比奈子と陽飛がマッチアップ相手を変更する。ボールを保持する莉央に比奈子がつく。
「マークチェンジですか?」
「油断しちゃだめよ、莉央。この子たち、何か狙ってる」
「分かってますってあヒメ様!油断なんて全然―え?」
警戒はし過ぎるほどにしていたはずだが、莉央の手元からボールが弾け飛ぶ。比奈子のスティールが成功した。転がったボールに反応したのは智花。瞬く間に攻守が逆転。〝シューティング・スターズ〟の速攻が始まる。
「ま、マジっすか!?」
「莉央がスティールされた……!?」
「ディフェンス!戻るわよ!」
動揺が走る〝ムーン・ドリップス〟だが、ひよりが率先してディフェンスラインを整えに自陣へと舞い戻る。智花と再び対峙すると、智花も勢いで突っ込むことは出来ず、足止めを余儀なくされる。あっという間にマンツーマンの体勢が敷かれた。
「ここまでよ。速攻はさせない」
「分かってる。……比奈子!」
智花は無理することなく右アウトサイドにいる比奈子にボールを託す。
「あなたの〝消えるフェイク〟にはもう2度とかからないわ」
マッチアップは亜姫。身長差を活かした比奈子のドライブを警戒して、亜姫は比奈子と同じ目線になるまで腰を落とした。これで比奈子の武器は使えない。けれど、比奈子に焦りの色は見えない。無表情。そのため、比奈子の狙いを窺い知る術はないだろう。だから、とでも言うべきだろうか。
「機は熟々」
「……え?」
比奈子は特にフェイクを入れるわけでもなく、悠然と亜姫の脇を通り抜けてみせた。それはまるで、流れる水のように、そよぐ風のように、際立つ変化は何もない。ただ極々自然にドライブをしただけだった。立ち尽くす亜姫。比奈子は難なくペネトレイト。呆気に取られていた〝ムーン・ドリップス〟。
慌ててゴール下を死守に向かう琴子だが、逆に比奈子はフリーとなった愛へとパス。愛は間髪入れずにシュートを決めた。8点差。
「ちょっと、亜姫!何であんな簡単に抜かれたのよ!?」
「……わからない。動けなかったの。一歩も」
琴子に詰め寄られた亜姫は信じられないといった様子で答える。
「琴子、熱くなりすぎ。次の攻撃は成功させるわよ。かなえ、まだまだいけるわよね?」
「愚問、よ。だいぶ削られたけど、最後までもたせる!」
「……さあ、仕切り直しよ」
ひよりの言葉で冷静さを取り戻す〝ムーン・ドリップス〟。
「やり返しなさい、亜姫」
「ありがとう、ひよりちゃん」
先の敗北を挽回しなさいとひよりから亜姫へパスが送られる。もしくは、比奈子の力を見定めるための布石なのかもしれないが、亜姫と比奈子の勝負が再勃発。
しかし、勝負は一瞬。亜姫が次なる動作に移ろうとした1秒に満たない間、比奈子は亜姫の手元からボールを弾いたのだった。
「え……!?」
「すけすけ」
比奈子は亜姫からボールを奪い、すぐさまドリブル開始。
けれど、比奈子のドリブルのスピードはお世辞にも速いとはいえない。〝シューティング・スターズ〟においても1番遅い。加えて言えば、シュート・ドリブル・パス……あらゆる技術で他4人に劣っているのは素人目から見ても明らか。
「あヒメ様からスティール決めたのは驚いたっすよ!んでも、この先は行かせない!」
ともすれば、〝ムーン・ドリップス〟のディフェンスに捉まってしまうのも必然だった。目の前に立ちはだかるのは莉央。身長差もなく、ほぼ同じ目線で視線が絡まる。
進撃が阻まれた比奈子。だが―。
「左、左、右、左、右」
「……え」
特段、比奈子が何かフェイクを入れた様子はない。しかし、比奈子は莉央をあっさりと置き去りにした。莉央は呆然と立ち尽くしているだけ。追いかける間もなく、比奈子は敵陣へと侵攻する。何を取っても4人の中で最下位な比奈子だが、唯一、20メートルほどの距離であれば智花と真由に次いで速い。
「はぁ、はぁ、莉央が抜かれても、あたしが止める!」
莉央の次はかなえ。息は荒く、真由と智花とのマッチアップでだいぶ消耗しているようだった。足元も心なしおぼつかないような印象を受ける。
「右、左、右、右、右」
「あ……!?」
またしても、比奈子は何事もなくかなえを抜いていく。抜かれる瞬間、かなえの右膝はがくりと崩落ちる。やはり、体力的に限界を迎えてしまっているようだ。
亜姫、莉央、かなえの3人をやり過ごした比奈子はそのままペネトレイト。残るディフェンスはひよりと琴子の2人。〝シューティング・スターズ〟は智花と陽飛がいつでもサポート出来るように追走していた。
「あの3人をああもあっさり……どんな技術を使ったの?」
ゴールを守護するように待ち構えるのは、ひよりと琴子。ひよりを手前にして琴子がゴール下を塞いでいる。陽飛か智花にパスを出す、という選択は今の比奈子にはないらしい。ひよりとのマッチアップに挑んでいく。




