表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シアワセ  作者: 真里貴飛
40/58

《39》

【第4クォーター:星44―57月】


「いい加減に、しつこいっての……!」


「まだまだ……!」


インターバルを挟んで始まった運命の最終クォーターは一進一退の攻防が続いていた。

ここまで、第3クォーターから激化した智花とひよりのエース対決は一時休戦とばかりに封印され、〝シューティング・スターズ〟と〝ムーン・ドリップス〟は互いにチームの連携力で勝負していた。


〝ムーン・ドリップス〟が15点差に広げれば、〝シューティング・スターズ〟はすぐさま13点差に戻す。その繰り返しが続いている。点差が縮まらない。互いにエースを使わずとも攻撃のバリエーションは豊富であり、そのため攻撃の芽を互いに摘み取ることが出来ないでいた。


13点差か……。


時間が経つにつれ、点差が重たく圧し掛かってくる。単純に考えても、2点シュートを7本決めないと逆転出来ない計算。しかもそれは、〝相手の攻撃を全部防いで〟という条件が伴う。時計を見る。残り3分47秒。


何とかここで相手の攻撃を防ぐことが出来れば―。


「あ……!?」


「かなえサン!?」


莉央のパスをかなえが取り損ねる。試合も終盤、両チームの選手共に体力の消耗が見て取れるが、特にかなえと真由は疲労の色が濃かった。開始直後からコートを縦横無尽に駆けていた2人。その運動量は他のメンバーの比ではない。加えて、2人共相手のエースを止めるべくマークについていたこともあってか、相当の負荷がかかっていたはずだ。ボールを受け損ねたかなえは元より、真由に至っては完全に足が止まっていた。


本来であれば、ベンチに控えメンバーがいるのなら真っ先に交代させてあげたいところだが、それが出来ないことが心苦しかった(今回のルール上交代不可だが)。


かなえがファンブルしたボールはその傍にいた比奈子がキャッチしてフリーになっていた陽飛に託した。


「ナイス比奈子!速攻、いくわよ!」


走り出す〝シューティング・スターズ〟。陽飛が自分で切り込み、智花と愛が後に続く。迎え撃つのはひより・亜姫・琴子の3人。ひよりが智花に、亜姫が陽飛に、琴子が愛にそれぞれマッチアップする。


「……愛!」


「あ……!?」


陽飛は目線のフェイクで亜姫を釣って愛へとパスを入れた。


「ここは絶対に攻め切る!」


「……っつ!?」


前半戦で琴子に押し込められた愛だが、積極果敢にパワードリブルを仕掛ける。残り時間と点差を考慮に入れてか、愛の気迫は鬼気迫るものがあった。愛の底力に琴子は徐々にポジションが取れなくなってくる。ゴール下をほぼ制圧した愛はシュートを放つ。


させまいと琴子はブロックに出るも愛の手を叩いてしまう。審判の笛が鳴ると同時にボールはゴールネットに収まった。琴子のディフェンスはファウル判定を受け、愛にバスケットカウントワンスローが与えられる。愛はフリースローを執念で決めて10点差まで縮めてみせた。


10点差……ここしかない!


「小田さん!」


コートへ指示を送る。この試合、俺に与えられた最重要任務。残り時間3分22秒。タイミング的に少し早いかもしれないが、相手の失敗から点差を詰めた今が契機だと判断した。


「おまかセニョリータ」


俺の呼び掛けに〝シューティング・スターズ〟はポジションチェンジ。比奈子と陽飛がマッチアップ相手を変更する。ボールを保持する莉央に比奈子がつく。


「マークチェンジですか?」


「油断しちゃだめよ、莉央。この子たち、何か狙ってる」


「分かってますってあヒメ様!油断なんて全然―え?」


警戒はし過ぎるほどにしていたはずだが、莉央の手元からボールが弾け飛ぶ。比奈子のスティールが成功した。転がったボールに反応したのは智花。瞬く間に攻守が逆転。〝シューティング・スターズ〟の速攻が始まる。


「ま、マジっすか!?」


「莉央がスティールされた……!?」


「ディフェンス!戻るわよ!」


動揺が走る〝ムーン・ドリップス〟だが、ひよりが率先してディフェンスラインを整えに自陣へと舞い戻る。智花と再び対峙すると、智花も勢いで突っ込むことは出来ず、足止めを余儀なくされる。あっという間にマンツーマンの体勢が敷かれた。


「ここまでよ。速攻はさせない」


「分かってる。……比奈子!」


智花は無理することなく右アウトサイドにいる比奈子にボールを託す。


「あなたの〝消えるフェイク〟にはもう2度とかからないわ」


マッチアップは亜姫。身長差を活かした比奈子のドライブを警戒して、亜姫は比奈子と同じ目線になるまで腰を落とした。これで比奈子の武器は使えない。けれど、比奈子に焦りの色は見えない。無表情。そのため、比奈子の狙いを窺い知る術はないだろう。だから、とでも言うべきだろうか。


「機は熟々」


「……え?」


比奈子は特にフェイクを入れるわけでもなく、悠然と亜姫の脇を通り抜けてみせた。それはまるで、流れる水のように、そよぐ風のように、際立つ変化は何もない。ただ極々自然にドライブをしただけだった。立ち尽くす亜姫。比奈子は難なくペネトレイト。呆気に取られていた〝ムーン・ドリップス〟。

慌ててゴール下を死守に向かう琴子だが、逆に比奈子はフリーとなった愛へとパス。愛は間髪入れずにシュートを決めた。8点差。


「ちょっと、亜姫!何であんな簡単に抜かれたのよ!?」


「……わからない。動けなかったの。一歩も」


琴子に詰め寄られた亜姫は信じられないといった様子で答える。


「琴子、熱くなりすぎ。次の攻撃は成功させるわよ。かなえ、まだまだいけるわよね?」


「愚問、よ。だいぶ削られたけど、最後までもたせる!」


「……さあ、仕切り直しよ」


ひよりの言葉で冷静さを取り戻す〝ムーン・ドリップス〟。


「やり返しなさい、亜姫」


「ありがとう、ひよりちゃん」


先の敗北を挽回しなさいとひよりから亜姫へパスが送られる。もしくは、比奈子の力を見定めるための布石なのかもしれないが、亜姫と比奈子の勝負が再勃発。

しかし、勝負は一瞬。亜姫が次なる動作に移ろうとした1秒に満たない間、比奈子は亜姫の手元からボールを弾いたのだった。


「え……!?」


「すけすけ」


比奈子は亜姫からボールを奪い、すぐさまドリブル開始。

けれど、比奈子のドリブルのスピードはお世辞にも速いとはいえない。〝シューティング・スターズ〟においても1番遅い。加えて言えば、シュート・ドリブル・パス……あらゆる技術で他4人に劣っているのは素人目から見ても明らか。


「あヒメ様からスティール決めたのは驚いたっすよ!んでも、この先は行かせない!」


ともすれば、〝ムーン・ドリップス〟のディフェンスに捉まってしまうのも必然だった。目の前に立ちはだかるのは莉央。身長差もなく、ほぼ同じ目線で視線が絡まる。

進撃が阻まれた比奈子。だが―。


「左、左、右、左、右」


「……え」


特段、比奈子が何かフェイクを入れた様子はない。しかし、比奈子は莉央をあっさりと置き去りにした。莉央は呆然と立ち尽くしているだけ。追いかける間もなく、比奈子は敵陣へと侵攻する。何を取っても4人の中で最下位な比奈子だが、唯一、20メートルほどの距離であれば智花と真由に次いで速い。


「はぁ、はぁ、莉央が抜かれても、あたしが止める!」


莉央の次はかなえ。息は荒く、真由と智花とのマッチアップでだいぶ消耗しているようだった。足元も心なしおぼつかないような印象を受ける。


「右、左、右、右、右」


「あ……!?」


またしても、比奈子は何事もなくかなえを抜いていく。抜かれる瞬間、かなえの右膝はがくりと崩落ちる。やはり、体力的に限界を迎えてしまっているようだ。


亜姫、莉央、かなえの3人をやり過ごした比奈子はそのままペネトレイト。残るディフェンスはひよりと琴子の2人。〝シューティング・スターズ〟は智花と陽飛がいつでもサポート出来るように追走していた。


「あの3人をああもあっさり……どんな技術を使ったの?」


ゴールを守護するように待ち構えるのは、ひよりと琴子。ひよりを手前にして琴子がゴール下を塞いでいる。陽飛か智花にパスを出す、という選択は今の比奈子にはないらしい。ひよりとのマッチアップに挑んでいく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ