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シアワセ  作者: 真里貴飛
36/58

《35》

2人のやり取りを境に、向こう5分間、両チーム共無得点の時間帯が続いた。

しかしながら、結果的に点数は動かなかったが、情勢は目まぐるしく変化していた。紙一重の攻守を繰り返すことでコート上の〝流れ〟はどちらともなく傾き、その流れを掴もうとして、はたまた引き剥がそうとして、互いに死力を尽くした。


スコア上〝膠着状態〟でありながらその実、ギリギリのラインをあの手この手を駆使して〝一球必勝〟を賭す両チームに停滞感など欠片も見当たらない。まるで、絶妙なバランスで積み上げられた積み木を、崩さないように1本ずつリスクを冒して抜いていく緊張感。


……疲れた。


もちろん口には出せないが、正直言ってしんどい。全力を懸けての攻撃が得点という結果に結びつかないのは精神的にも辛いものがあるはずだ。加えて、攻撃が終われば当然守備に走らなければならない。しかも、攻撃を失敗した後の守備で失敗することは一気に流れを失ってしまい兼ねないため、更なる重圧が圧し掛かってくる。この、先の見えない無限ループは今現在進行形で体感しているみんなには想像以上にきついはずだ。


……。


みんなの気持ちを慮ってこれなのだ。コート上で戦うみんなはそれ以上に精神的にも体力的にも激しく消耗しているはず。

けど、次の得点は必ず戦局を大きく動かす。タイムアウトを取るべきかとも考えたが踏み止まる。今のこの不安定な流れを思えば、下手にタイムを取って仕切り直させるのは水を差す結果になり得る可能性があると判断。余計なことは止める。ここは踏ん張りどころだ。頑張れ、みんな。みんなならきっと、自分たちで流れを掴み取れるはず。

確信を持ってコート上の5人をじっと見守る。


何度目かの〝シューティング・スターズ〟の攻撃。


「智花!」


陽飛のパスは智花に渡される。ここまで、陽飛が攻撃の選択肢として智花を頼る場面は少ない。唯一、と言ってもいいのが、〝シューティング・スターズ〟に先制点をもたらしたあのシュートのみ。どちらかといえば、愛や真由を軸に攻撃を組み立てていた。


「うん!」


「ここで決めさせない!」


「わたしもお相手します」


智花がボールを受けるなり、マッチアップ相手のかなえに加えて、亜姫も智花のマークについた。ダブルチーム。おそらく、第1クォーターで智花が放ったシュートが鮮烈なイメージとして相手に植えつけられているのだろう。次の得点の重要性を、そして、得点以上の勢いをもたらす智花のプレーを相手も十分理解しているためのシフト。だけど、


「お願い、比奈子!」


ダブルチームを敷くということは必ずコート上で1人がフリーになる。智花は無理をすることなく、右アウトサイドでフリーになっていた比奈子にパスを送った。


「ふぁーすとたっち」


この試合、この時間帯になるまで、実は比奈子はパスを1度も受けてはいなかった。何も比奈子はサボっていたわけではない。亜姫に対するディフェンスは手を抜かずにしっかりやっているし、攻守共に懸命にコート上を走り回っている。パスが来ない理由は亜姫の執拗なマークにあってフリーになれていなかったこともあるが、それとは別にもうひとつ。


説明すると長くなるのでここでは割愛する。けれど、亜姫が躊躇なく智花にダブルチームとしてマークについたのは、比奈子にパスが回って来ないと理解したからだろう。その理由をもし、オフェンスが不得意だからと判断したとするなら―。


「通しません」


亜姫が素早く比奈子のマークに戻り、比奈子のドリブルがスピードに乗る前に足止めすることに成功する。あわよくば、スティールを決めようと構える亜姫。だったのだが、


「え……」


比奈子はあっさりと亜姫を抜き去ったのだった。目を見開いて微動だにしない亜姫。比奈子は再びフリーとなって両手でシュートを放つ。バックボードを捉えボールはしっかりネットを揺らした。14―16。互いに凍りついていたスコアが遂に動いた。


「ナイッシュ!比奈子ちゃん!」


「さんくす」


「よっしゃあ!これで2点差!」


「あと1ゴール!ここしっかり守るわよ!」


「うん!頑張ろう!」


比奈子の得点に沸く〝シューティング・スターズ〟。


「あヒメ様があんなにアッサリ抜かれたの初めて見ました……」


「なに、今……抜かれたのが分からなかった……」


「死角をつかれたわね」


呆然とする莉央と亜姫にひよりが言う。


「あの子と亜姫の身長差は10センチ以上ある。しかも、さっきのあの子のドリブルは斜めに動くダックインで床スレスレって言っていいくらい沈み込んでいた。普通、人間の目は斜めの動きに弱いし、背の高い人の視界は高い。だから、あの子は亜姫の懐に飛び込む要領で死角に一気に入り込んだの。そして、素早く切り返して亜姫に再び捕捉される前に抜き去ったのよ」


「ナルホド……」


「そんなドライブ、わたし初めてでした……」


「あの突破力は厄介ね。安易にマークを外さない方がいいわ」


……簡単に見破られたか。


出し惜しみさせていたわけではないが、比奈子の死角をつくドライブは一点突破の切れ味抜群の技術だ。八割方、初見では必ず得点を奪えると思っていたが、まさかこうも簡単に種を明かされてしまうとは。さすがに、ひよりは一流のプレイヤーだと再確認させられる。


ただ、種が分かったからと言ってそうそう対応出来るものでもないはず。これで身長のミスマッチは互いに諸刃の剣となることを理解させられた。比奈子のことを簡単にフリーにすることはもう出来ないはずだ。舌を巻くほどの牽制球になっただろう。


「ひよっち先輩!」


「ここは、差を広げさせてもらう」


「させるかーっ!」


〝ムーン・ドリップス〟の攻撃は、莉央からひよりにパスが通り、ほぼ中央に陣取る真由とのマッチアップが勃発する。是が非でも点を取ろうとしてのひよりのドライブ。対する真由は再三ひよりに揺さ振られながらも、持ち前の運動量でひよりに決定機を与えない。


「もうあんなカッコ悪いとこ見せてたまるかってんだ!」


「……ちっ」


「ひより!」


真由の粘り強いディフェンスに手を焼くひより。ともすれば、かなえが助太刀に入る。ひよりは一旦、かなえにボールを託した。けれど、かなえには智花がしっかりとマークについている。気合いの入ったディフェンス。


「せっかく比奈子が決めてくれたんだもん。ここを止めて同点に追いつく!」


「そう思い通りになんて―」


かなえのシュートフェイクにかからない智花。一気にスティールを決めてボールを奪取する。それを見て、真由はひとり即座に駆け出した。かなえが失敗を挽回するために追い掛けようとするが、智花に上手い具合に身体を入れられてスピードに乗ることが出来ない。そのまま、真由はワンマン速攻でレイアップシュートを決める。16―16。


「どうだ!」


ガッツポーズする真由。呼応するように智花たちもガッツポーズをし返す。第2クォーターも残り2分を切ったところでの同点。

流れが来ている。間違いなく。ここで相手のオフェンスを凌ぐことが出来れば―。


「く……!亜姫!」


愛と琴子の競り合いは互角。攻め切れないと悟り、琴子はアウトサイドで構える亜姫にパスを出した。比奈子との身長差(ミスマッチ)を活かすような山なりのボール。


「閉店がらがら」


「え、嘘……」


しかし、比奈子はそのパスをインターセプトする。亜姫の少し後方より助走し、思いもよらないジャンプ力を披露して亜姫の目の前でボールを奪ったのだった。そして、いつものダイレクトパス並の速さで陽飛にボールを預けた。


「行くわよ!ここで一気に差を広げる!」


陽飛にボールが渡るなり、智花と真由は敵陣へと散開していく。


「行かせません!」


「言っておくけど……私、別にドリブルが苦手じゃないんだからね!」


「な……!」


立ちはだかる莉央の頭には前線へ向かう2人へのパスがあったのだろう、陽飛のドライブは想定外だったのか反応が遅れて脇を抜かれてしまう。莉央が追いつく前に、陽飛は今度こそパスを選択。受け取ったのは速攻の先頭を走る真由。


「このチャンス、絶対キメてやる!」


「させない!」


真由がペネトレイトする直前、快足を飛ばしてかなえが追いついた。真由にシュートを打たすまいと身体を入れてくる。


「さすがにバカっ速いな~!あたしがダメなら……!」


真由はくるりと身体を反転してボールをマイナス気味に左アウトサイドへ。

そこに走り込んでいるのは智花。ノーマーク。


「はっ!」


智花のジャンプシュートが一閃。3Pラインの外側よりシュートを決める。19―16。


「ナイス花ちゃん!」


「うん!真由もナイスパス!」


ハイタッチを交わす真由と智花。

俺の願いが通じた。流れを掴んだのは〝シューティング・スターズ〟。〝ムーン・ドリップス〟の堅牢な守備を見事に貫いた。


第2クォーター終盤で掴み取った流れを、〝シューティング・スターズ〟は手放すことなく勢いに乗って攻め続けた。反撃を試みる〝ムーン・ドリップス〟の全員攻撃、智花がかなえを完封し、起点となる莉央を陽飛が阻んで耐えに耐えた。そうすると、チャンスが〝シューティング・スターズ〟に転がり込む。


愛の身体の張ったポストプレーから、真由がひよりのマークを振り切ってシュートを決める。勢いは止まらず流れに乗って〝ムーン・ドリップス〟の反撃を抑え、陽飛が直接切り込んでレイアップシュートを決めて更に点差を広げた。


終了間際、亜姫に意地ともいえるシュートを決められたが、第2クォーターは23―18で〝シューティング・スターズ〟が逆転して乗り切ったのだった。

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