《34》
【第2クォーター:星10―14月】
「さあ、行くわよ!」
先攻は〝シューティング・スターズ〟。エンドラインから真由が入れたボールを受けた陽飛がゆっくりとドリブルを開始する。しっかりと地に足をつけて先制点を奪うためのルートを模索するかのようにルックアップし進撃していく。休憩にて言っていた第1クォーターでの反省を活かすボール運び。
さすが日野さん。この落ち着きがあれば相手が強敵とはいえ、しっかりゲームをコントロール出来るはずだ。
「ヘイヘイ!パスパスパス~!」
陽飛が莉央との小競り合いをしながらフロントコートへ進んでいくと、真由が手を挙げて積極的にボールを要求する。
「……いいわ。存分にやりなさい!」
「サンキュー!」
にやり、と笑みを見せた陽飛は真由の要求を呑んだ。真由のやる気を殺ぐのは得策ではない、と思ったのだろうか。ただ、相手は花形ひより。〝ムーン・ドリップス〟のエースプレイヤー。ここを突破するのはそう容易ではないと思う。余りにリスキーだ、と思うのは俺だけか?
「そんなに私と勝負したいの?」
「トーゼン!ズタズタにしてやんだから!」
「いいわ、来なさい」
「言われなくても!」
問答を終え、真由がドライブを繰り出す。
「速いけど、真っ直ぐすぎるわ!」
キレのあるドリブルだが、ひよりは余裕を持って対応する。左へ右へ、揺さ振りをかけるものの、真由はひよりを抜くことが出来ない。ひよりは〝あわよくば〟と真由からスティールのチャンスを虎視眈々と窺っている。
「くぅ~、しつっこいな!」
「粘るわね。でも、そろそろ―」
「行って、真由ちゃん!」
「ナイス、シーナイ!!」
ひよりのディフェンスの圧力に自由を奪われかけた真由の下に、水面下で愛が助太刀に現れる。愛が壁となってひよりの動きを封じた。スクリーンプレイ。その一瞬を真由は見逃さず、再度のドライブでひよりを抜き去った。
「ナメんなぁ!」
しかし、前方に聳えるは〝ムーン・ドリップス〟のセンター田畑琴子。その巨漢で真由のシュートを防ごうと身構える。
「ナメてなんか、いないやい!」
すると、真由はスピードに乗ったドリブルで突っ込むと見せかけて急停止、更にそこからバックステップを繰り出す。突っ込んでくると思っていた琴子は思わず前のめりになって体勢を崩してしまった。真由はその隙にジャンプシュート。見事、ボールはゴールネットを射貫いた。12―14。第2クォーターでの先制点を決め、点差を2点に縮める。
「1on1じゃなかったわけね」
「あったり前じゃん!バスケは5人でやるんだかんね!それよか、まだウォーミングアップ足んないんじゃないの?」
「言ってくれる」
真由の言葉にぎらりと双眸を向けるひより。
……熱いな。そんなことを思っている場合ではないとは思うが、自然と熱く滾ってきてしまう。それが哀しくも虚しく感じてしまうのは心苦しいものではあるが。
俺にとっては、もう何にも意味を為さない感情であることを理解してしまっているから。
「莉央、私に貸して」
〝ムーン・ドリップス〟の攻撃ターン。ボールを持つ歳内莉央に、この試合初めてひよりが積極的にボールを要求した。莉央は快くひよりにパスする。
「ハイ、ひよっち先輩!」
「蹴散らしてやる」
ぽつりと呟き、ひよりがドリブルを開始。あっという間に最高速度に達し、そのままペネトレイトを試みようとする。
「行かせるかぁーっつ!」
マッチアップは真由。腰を落とし、ひよりを迎撃体勢。
「気合いだけじゃ、どうにもならないわよ!?」
「うぇぇえっ!?」
しかし、ひよりの切り返しの鋭さに真由はついていけず、耐え切れずに尻もちをついてしまう。〝アンクルブレイク〟。相手の重心移動を逆手に取り、相手が重心移動した側へ行き転ばせる高等技術。
「決めさせないっ!―えっ!?」
シュートモーションに入ったひよりに慌ててジャンプして対抗する愛だったが、一転してバウンドパスが愛の脇をすり抜けていく。
「ナイスパぁス!」
そのパスを受け取った琴子がフリーでシュートを決める。12―16。再び4点差。
「無様ね」
「くぅ~~っつ!」
尻もちをついている真由を見下ろして吐き捨てたひよりに、真由は心底悔しそうに顔を歪める。今にも飛びかからんばかりの勢いだが、愛が手を差し出しながら真由を宥める。
「ごめんね、真由ちゃん。防ぎ切れなかった」
「あたしの方こそゴメン。くっそ、あんな抜かれ方クツジョクだぁ~!!」
「さ、切り替えて!今度は私たちの攻撃よ!」
エンドラインからリスタート。ボールは陽飛。みんなが頷き、各々が敵陣へと散っていく。
「ハルヒー!リベンジ、リベンジ!」
「……愛!」
ひよりへのリベンジに燃える真由だったが、陽飛はそんな真由を一瞥するなり、愛へとボールを供給した。
好判断だ、と思う。真由の負けん気は買いだが、ひよりに対抗しようとするあまり視野が狭くなってしまっている可能性が十二分に考えられる。〝やられたらやり返す〟気持ちは大事だけど、それが悪循環になったら取り返しがつかなくなる危険性を孕んでいる。
「えぇ~!?」と不満な声を上げる真由の気持ちは察して余りあるが。
きっと俺なんかが思う比でなく、付き合いの長い日野さんなら尚のことだろう。
「ごめんね、真由ちゃん。わたしも負けないから!」
パスを受けた愛は真由への気遣いを見せつつ、キッと顔つきを引き締めて琴子との勝負に挑む。
「んんっ!!」
「さっきは油断したけど、今度は行かせないよ!!」
愛の渾身のドリブルもどっしりと構えた琴子のディフェンスにあって思うように侵攻出来ない。愛は一旦パスを戻そうとしてか周囲に視線を走らすが、〝ムーン・ドリップス〟の堅い守りによって受け手を得ることも叶わない。刻々と失われていく時間。
「あんたの力は認めるけど、力勝負で何度も負けられないんだよ!」
鬼気迫る形相で立ち塞がる琴子。一歩も引かずに攻め続ける愛はギリッと唇を噛む。
「……だったら!」
「え!?」
意を決した表情を浮かべて、愛はブロックをされにくいようにゴールに対して半身になって撃つシュート―フックシュートを放つ。これには対する琴子も意表を突かれて対応出来なかった。
がしかし、愛のシュートは惜しくもリングに弾かれてしまいターンオーバーとなってしまう。
「外れちゃった……」
「ドンマイドンマイ!惜しかったわ。切り替えてディフェンスよ!」
「そーだよ!すんごい惜しかった!次取り返そうぜ!」
「陽飛ちゃん、真由ちゃん……うん!」
シュートを外してしゅんとする愛だったが、パスを送った陽飛とつい先ほどまでむくれていた真由の励ましに顔を挙げて力強く首肯する。
「危な……あんなシュートもあるのか」
「ナイスディフェンスでしたよ、ばと先輩!」
「まあ、防いだことに変わりはないか」
「さ、今度はこっちの番」
ほっと胸を撫で下ろす琴子、称賛を贈る莉央、そんな2人を促すひより。
再び攻守が逆転する。ボールを莉央に預けたひよりは琴子と共に前線へ上がっていく。
「1本!しっかり取りましょうー☆」
「へい!」
ボールを運ぶ莉央にパスを要求したのは宮田かなえ。
「珍しいですねっ!かなえサンが〝くれくれ〟言うなんて……モチロン託しますけど☆」
元から高めのテンションで話す莉央の声のトーンが更に上がった。パスを受けたかなえは半眼で嘆息。
「前置きが長い」
「えぇっ!?そりゃナイですよ!」
ちゃんとパスしたのにぃ~、と子供のように頬を膨らませる莉央は完全に置いてきぼりを喰らわされる。かなえはこれ以上関わらまいとくるりと背を向けた。
「……さて」
そうすれば必然的にマッチアップする相手と顔を見合わせることになる。かなえと対峙するのは智花。智花は気合いのこもった真剣な表情でかなえの一挙手一投足に集中する。
「あなたが昔のひよりのパートナーだったんだって?」
「……」
思いもがけないかなえの問い掛けに、一瞬目を見開いた智花は無言のまま頷く。
「さっきのシュートは正直見事だったわ。……でも、ディフェンス力はどうかしらね!」
言い終わるか否か、かなえは急速発進。キレキレのダックイン。けれど、智花はマークを剥がされることなくピッタリとついていく。
「なら、これならどう!?」
かなえはスピードに乗ったまま、足の間にボールを通すクロスオーバーで智花を抜き去りにかかる。が、智花の伸ばした手がかなえのボールを弾き飛ばしていた。
かなえの身体に当たったボールはそのままコートの外に出てしまった。
「私がひよりのパートナーだったかどうかなんて大した問題じゃないよ。私にとって、この試合は絶対に負けられない大切な試合なの。だから、簡単に点はあげられない」
「……やってくれる」
智花とかなえの絡み合う視線はバチバチ火花を散らすほどの凄みがあった。この2人をして、コートに漂う緊張感が増していく。




