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シアワセ  作者: 真里貴飛
33/58

《32》

センターラインを境に並び立つ両雄。淡いピンク色を基調にしたユニフォームで統一した〝ムーン・ドリップス〟の面々は由季と偵察したあの日の宣言通りのメンバーが立っていた。

4番、花形ひより。5番、宮田かなえ。6番、歳内莉央。7番、田畑琴子。8番、島村亜姫。


対する〝シューティング・スターズ〟は淡いスカイブルーを基調にしたユニフォームで身を包んでいた。4番、花澤智花。5番、井口真由。6番、日野陽飛。7番、椎名愛。8番、小田比奈子。ちなみに、先週俺が見たジャージとは多少趣が違った。


「……どうやら、答えは出したようね。智花」


「うん。正直、すごく迷ったけど、自分なりの答えを出したつもり」


ふれぶてしい態度で言葉を発するひよりに、智花は真摯な態度で対する。それ以上の言葉を2人は発しなかった。『あとはコートの上で、プレーで語り合いましょう』とでも言わんばかりに、互いに闘志を漲らせているようだった。


「これより、〝ムーン・ドリップス〟VS〝シューティング・スターズ〟の試合を始めます。互いに礼!」


本日審判を務めてもらうのは、この体育館を管理する職員の男性陣で過去バスケットボールに携わっていた方々らしい。予め、ひよりが依頼してくれていたようだ。ボールを手に試合開始を宣言する主審の号令に、両雄は勢いよく返事をした。いよいよ、運命の決戦の開幕だ。




【第1クォーター:星0―0月】


センターサークルを両雄が囲み、その中心に立つのは〝シューティング・スターズ〟1の長身を誇る椎名愛と、同じく〝ムーン・ドリップス〟1の身長である田畑琴子の2人。


試合開始(ティップオフ)!」


主審がボールを宙空に放る。愛と琴子がタイミングを見計らって飛んだ。ボールに向けて伸ばした両者の手。ボール権を得るための攻防は〝ムーン・ドリップス〟に軍配が上がる。ジャンプボールはほぼ互角だった。身長では勝っていた愛だったが、結果は自分より身長の劣る琴子と互角。


よく考えるとジャンプボールなんて試合でもしない限りあまり経験しないんじゃないかと思い当たる。恒常的に試合が出来る環境にいなければ、ジャンプボールの練習をしようなんて概念は生まれにくいかもしれない。〝高さ〟だけで制し切れるほど甘くはなかった。


センターサークルより弾き出されたボールは、愛から見てセンターサークル左隅に陣取っていた歳内莉央の手元に収まる。莉央は甲高い声で琴子に称賛を贈る。


「ナイスですっ!ばと先輩っ☆」


「略すな!いいから速攻!」


「はいはいはーい♪」


莉央はドリブルにて進撃を開始する。ボール権を得られなかった〝シューティング・スターズ〟の面々は既にディフェンスラインを整えるために走り出していた。

この切り替えは見事だと思った。予め、ジャンプボールが勝てなかった場合を想定しての次なる一手。これでひとまず相手の速攻は食い止められた。


「速いですねっ!」


「そう簡単に点はあげないわ!」


莉央にマッチアップするのは日野陽飛。適度な間合いを保ち、莉央のドライブやパスに対応出来るように意識を張り巡らせているようだった。

〝シューティング・スターズ〟のディフェンスはマンツーマン。左アウトサイドにいる宮田かなえには花澤智花、右アウトサイドにいる島村亜姫には小田比奈子、ローポストに構える田畑琴子に対して椎名愛、そして、フリースローライン付近に立つ花形ひよりには井口真由がマークについている。


「なかなかスキがないですねっ……!」


ドリブルにて躱そうとする莉央だが、陽飛の粘り強いディフェンスにあって足止めを喰らう。陽飛の相手にべったりつく所謂〝フェイスガード〟は今日の試合に対する意気込みそのままを顕わしているようだった。


「んっ!」


けれど、一瞬の隙をついた莉央は前線で上手くマークを躱したひよりの下にパスを供給。


「へぇ、私の相手はあなたなのね?」


「おうよ!言ったろ?吠え面かかせてやるって!」


「それは楽しみね。でも―」


ひよりはノールックでボールを右アウトサイドに展開させる。


「このミスマッチ、活かさない手はないから」


「ナーイスパス。さすがひよりちゃん」


ひよりのパスは亜姫の頭上で捉えられる。比奈子と亜姫の身長差は約10センチ。平均的に見ても、〝シューティング・スターズ〟と〝ムーン・ドリップス〟には高さにおいてミスマッチが生まれてしまう。これを見逃してくれる相手ではない。


しかし、それはこちら側も織り込み済み。どうしてもマッチアップのどこかでミスマッチが生じてしまうのは分かっていた。それを踏まえてのディフェンス。比奈子は亜姫がパスを受けるや否や、亜姫に密着せんばかりの勢いで距離を詰め、先ほどの陽飛より更に激しいフェイスガードを仕掛ける。これには亜姫も手を焼く。


「激しすぎ」


「ふんふんふんふん」


抑揚のない掛け声はいつもながらだが、比奈子は亜姫に自由を与えない気合いの入ったディフェンスを披露する。このままいけば24秒ルールにより、こちら側にボール権が移行する。これなら何とか凌ぎ切れる、と思った時だった。


「正攻法じゃ駄目ね」


亜姫は頭上に構えていたボールを自分の背後に落とした。そして、すぐさま身体を半回転してバウンドしたボールをキープ。背中に比奈子を背負う格好となり、更にそこから比奈子を置き去りにするターンを見せて流れるようにジャンプシュートを放った。ボールは緩やかな弧を描いてゴールへと吸い込まれた。先制点は〝ムーン・ドリップス〟。スコアボードに2点が点灯する。


「ナイス、亜姫」


「ありがと、ひよりちゃん」


コツンと拳同士を合わせるひよりと亜姫。


すげぇ、何だ今のプレーは……。


比奈子のディフェンスは完璧だったように思う。身長差はあれど、あれだけ密着されたら普通はシュートを狙おうとする思考からシフトするものだと思うのだが……それを逆に受けて立つとは、考えが甘かったのか。


「気落ちしてる暇はないわ!取り返すわよ!」


「とーぜん!」


けれど、コート上の〝シューティング・スターズ〟に動揺の色は見られない。エンドラインからすぐさま陽飛がパスを入れる。その送り先はいち早く走り出していた真由へ。


「は、速い!」


〝ラン&ガン〟とでも言うべき速攻。スピードに乗った真由は莉央を置き去りに、更に加速して相手陣内へ単身突っ込む。追従するのは智花と愛。その少し後ろに陽飛と比奈子が続く。真由の前に立ちはだかるのはひよりと琴子の2人。


「すぐに取り返してやる!」


「やれるものならやってみなさい」


「言われなくても―」


「真由!後ろ!」


「うぇっ?ああ!?」


ひよりと対峙した一瞬の間、いつの間にか追いついた宮田かなえが真由からボールをスティールしたのだった。


「惜しかったね。莉央!」


かなえは奪って間もなく、すかさず前線にロングパス。受けるのは相手司令塔の莉央。


「さっすが、かなえサン!」


まずい……!


今度は相手の速攻が始まる。莉央がドリブルを開始し、それに続くのは亜姫。対するは陽飛と比奈子の2VS2の構図が出来上がる。再びアウトサイドに開いていく亜姫に比奈子が追走し、進撃する莉央には陽飛が対応する。


「止める!」


「アタシのスピードについて来れますかっ!?」


スピードに乗った莉央のドリブル。細かいフェイクを幾つも入れながら陽飛の体勢を崩そうと切り込んでくるが、陽飛は粘り強いディフェンスで決定機を与えない。


「抜かれはしないわよ!」


「く、粘っこいですね……!なら」


ドリブルで抜けないと見るや、莉央はワンバウンドで横にボールを叩いた。そこに走り込んでいたのは先ほど真由からスティールを決めたかなえだった。


「ナイスパス!」


追いすがっている真由を振り切って、かなえは難なくレイアップシュートを決めた。

4―0。速攻を返され、更なる追加点を与えてしまった。

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